富山呼吸器外し:「6人余命24時間内」殺人立件困難か

毎日新聞

http://mainichi.jp/select/today/news/20071223k0000m040102000c.html

富山県射水(いみず)市の射水市民病院(麻野井英次院長)で人工呼吸器を外された末期患者7人が死亡した問題で、呼吸器外しの際の患者の容体が明ら かになった。県警が複数の専門医に鑑定を依頼していた。6人は呼吸器を外さなくても余命が24時間以内で、残る1人は数日間は生存した可能性はあるものの 回復不能の状態だった。呼吸器外しと死亡との因果関係の立証は難しいとの見方があるうえ、全員の遺族に処罰感情がないことなどから、鑑定結果は捜査当局の 判断に大きな影響を与えそうだ。

 県警は、元外科部長の伊藤雅之医師(52)のほか、呼吸器外しにかかわったとされるもう一人の医師についても殺人容疑で捜査を続けており、立件の可否は最終的に検察が判断する。

 調べでは、7人は男性4人、女性3人で50~90歳代の県内在住者。鑑定では、呼吸器を外さなくても余命2、3時間の患者が3人、12~24時間 が3人だった。残る1人は、呼吸器を装着したままなら数日間は生存した可能性があったが、回復不能の状態で遺族に処罰感情はないという。


 患者や家族から呼吸器を外す承諾を得ていたケースは少なくとも2件以上認められたが、意思が確認できないケースも数件あった。伊藤医師の指示で、同僚医師が外したケースが1件あった。

 伊藤医師は毎日新聞の取材に、7人中6人について関与を認めたうえで▽50歳代の女性は生前に本人から延命治療を望まない意思を確認した▽別の2 人は延命拒否の意思が家族の話などから推定できた▽すべての患者は回復不能の脳死状態だった--などと話し、「犯罪ではない」との認識を示している。伊藤 医師は現在、別の病院に勤務している。


 ある捜査当局幹部は「呼吸器を外さなくても余命がほとんどない患者の場合、現実的には死との因果関係を問いにくい」と語っている。

 呼吸器外しを巡ってはこれまで、北海道立羽幌病院と和歌山県立医大付属病院紀北分院の医師が殺人容疑で書類送検されたが、いずれも容疑不十分で不起訴になっている。

 ▽射水市民病院の呼吸器外し問題 05年10月、伊藤雅之医師が昏睡(こんすい)状態で搬送された男性患者の呼吸器を外そうとしているのを知った 看護師長が、院長に報告して発覚。病院の内部調査で00~05年に死亡した7人のカルテに「ファミリーの希望」などの記載があり、呼吸器が外されていたこ とが分かった。


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この出来事は私を含め、すべての医師が驚愕したであろうと思われますが、


普通に仕事をしてたはずなのに、殺人容疑で書類送検というのは、


医者の仕事とは、なんという剣呑な仕事なんでしょうかね・・・。



先日も当直中に一人の患者を看取る事になったのですが、


主治医によって人工呼吸が既になされており、

もはや臨終の時を向かえる状態であると聞かされて病室へ行くと、

患者の家族の一人がたいそうな剣幕で、


「もう可愛そうだ。こんな機械に繋がれて、一体どういうつもりなんだ!

(私に向かって)おい!早く口の(チューブ)、外してやれ!」


と仰りました。


患者は、こん睡状態で瞳孔は散大し、対向反射もありませんでしたが、

心電図では、心波形がしっかりと刻まれていましたから、まだ完全にはお亡くなりになってはいません。


この状態での、人工呼吸中止要望・・・。

本当にドッキリしました。

いや、冗談でなく、持病の期外収縮が一発。


当然、この富山の医師の件を知っている私にとっては、この要望はまさに

殺人容疑がかかる行為な訳です。


「オイオイ!

そんなことしたら私、殺人容疑で書類送検されちゃうんですけど?

明日の新聞、載っちゃいますけど?

そんな事もご存知ない?」


・・・瞬間的にこういってやりたい気持ちが湧き上がりましたが、

尊いご臨終の場で、殺人容疑云々の説明をすることも憚られますし、

主治医でもない患者の、しかも初めて診る患者のそんな重大な判断をするはずもなく、

ついっ、と視線をそらし、黙殺するのがベターと判断しました。


完全に心静止を迎えてから死亡確認さしあげた頃には、

周囲に諭されたのか、その家族もおとなしくなっていました。


臨終の際には、家人のいろいろな感情も交錯して、

こういった要望が出る事も、ある訳です。


ですから、記事にあるとおり、

>全員の遺族に処罰感情がない

のは、当然の事だと思いますが、単純に医師の行為を法律というフィルターだけを通して見ると、


「生きている人間から、生命維持装置(呼吸器)を奪い去る行為によって、死に至らしめた。

しかも、その行為を行う事によって死ぬと解っていて、つまり故意に行っている訳だから、

殺人罪に相当する可能性がある。」


という判断になる訳です。


殺人罪とは故意に人を死に至らしめる罪ではありますが、

このように、医師の医療行為の一環にそれを当てはめるのは、非常にナンセンスにすぎません。


医師は、人の健康、そして生死を判断する能力がある訳ですから、

殆どすべての行為が必然的に「故意」であるからです。


一般人が、他人の首を絞めて殺害しても、「殺すつもりは無かった。」と主張し、

故意の殺意が認定されなければ、殺人罪が免れます。


それで医師が、臨終間近の患者の呼吸器を外せば、確実に故意に死にいたらしめた行為だと、

殺人罪に問われているわけです。


当然誰もがおかしいと思う法律判断ですから、そうはいかないわけです。

>呼吸器を外さなくても余命がほとんどない患者の場合、現実的には死との因果関係を問いにくい


つまり、もう病気で臨終に近い状態だったから、

呼吸器を外さなかったとしても死を迎えていた
に違いない。


よって、呼吸器をつけていたか、外したかは、死を迎えた事と因果関係が無い


という判断により、医師の殺人罪起訴は免れるという事になりそうです。

殺人罪に問われるべきでない医師が、殺人容疑で調べが行われた時点で理不尽を感じますが、

結果的には不起訴になりそうだ、という記事です。


・・・ほっと一段落ですが、この記事の題名には何か悪意が感じられます。


『富山呼吸器外し:「6人余命24時間内」殺人立件困難か』


これと同じような題名を最近見ました。

『福岡3児死亡:地裁が訴因追加命令 危険運転認定困難か』 



この題名と比べてみると、違和感を感じませんか?






『呼吸器を外して殺人罪に問われるべき医師が、

立件が難しいという事情によって殺人罪を免れるという

許されざる事態が起こってますよ!』


という風に見えます。

まあ、書いた本人がどう思ってつけたかは解りませんが、

短い文で内容を伝えるとはいえ、事実と全く正反対の印象をつける題名とは、

筆者の技量が問われるものだと思います。


ちなみに私なら、

富山呼吸器外し:「6人余命24時間内」死亡との因果関係無し

とつけますね。


コチラの方が、結果に沿った題名だと思いますが、

殺人という語句を用いて人の目を引くためには、そういったことはお構いなしなんでしょうね。

まあ、さすが毎日クォリティーといったところで、

本当にご苦労様です>新聞記者さん