いつも参考にさせて頂いている、


勤務医 開業つれづれ日記

http://ameblo.jp/med/entry-10029921666.html

で、紹介されていたニュースです。


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外科医7割、当直明けに手術 病院勤務は週70時間

2007年04月05日03時00分


 外科医の7割が当直明け手術をしており、病院勤務では平均で週70時間労働


――日本外科学会が会員1276人を対象にしたアンケートから、過酷な実態が 浮かび上がった。

約1割が医療訴訟も経験しており、


同学会は「この状態が続けば、外科学会への新規入会者は2018年にゼロになる」と予想している。


 大阪市内で開かれた関西プレスクラブの月例会で4日、

同学会長の門田(もんでん)守人・大阪大学教授(消化器外科)が発表した。


 調査は去年11月、インターネット上で回答を募った。


勤務時間は平均週59.5時間。病院勤務では同68.8時間。


労働基準法で定める週40時間を大幅に超過していた。


 当直明けの手術参加は「いつもある」31%、「しばしば」28%、「まれに」が13%。

「当直明け手術はしない」は2%しかなかった。20~40代では、約9割が当直明けに手術をしている。


 医療訴訟の経験が「ある」は、判決と和解を合わせて10%。


ほかに「示談」11%、「訴訟準備などの具体的な行動」は15%、

「患者や家族とのトラブル」は38%が経験し、85%が「訴訟が治療に影響する」と答えた。


 激務の原因は、高度な治療が増える一方、外科医数が減少しているためとみられる。

全身麻酔の手術は96~05年の10年間に約4万件増 え、臓器移植や腹腔(ふくくう)鏡など

長時間の手術が増えたが、94~04年で外科医は6%減った。

特に新しく外科医になる人は20年前から一貫して減っ ている。

アンケートでは志望者減少の理由に、労働時間の長さ、時間外勤務の多さ、

医療事故と訴訟リスクの高さがあがった。


 門田教授は「過重労働や当直明け手術は、医療の質や安全性の観点からも問題だ。

医師が訴訟に対し防衛的になれば、治療の選択肢がせばまり、患者への影響も大きい。

国は医療費抑制の方針を抜本的に見直し、医師数の増加や過重労働の是正に乗り出してほしい」と話している。



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私も外科医の端くれですから、概ねアンケート結果は現況を示すものであると思います。

ここで、この記事の検証をしておきたいと思いますが、

ポイントに示した記述は誘導ですから、ひっかからないで欲しいところです。

この記事の内容では、


「外科医は過労で、当直明けに手術を行っていて、訴訟の経験は10%」


と言う事に目が行きそうです。


外科医は、慢性的な過重労働の状況で、当直明けの睡眠不足の状態で手術に携わっています。

それは確かです。

この記事では、居眠り運転ならぬ、居眠り手術がされているような印象を与えます。

そして、10人に1人が訴訟を経験している、と。


つまり、「それだけ居眠り手術による医療ミスが多いんだ」、


間違った読み方をする人がいてもおかしくない記事だと思います。



実際の手術で執刀医が眠い目をこすりながら手術する、なんて事はありません


居眠り運転ジグザグ運転をするように、

居眠り手術ジグザグ縫合、なんて話は聞いたことがありませんよね。



運転と手術。


それぞれの仕事で、過労なる条件で行われる、人の命を預かっている、

と一見同じに見えても、根本的に違う事があります。


それは緊張感の質です。


運転も慣れていないと緊張するものでしょうけれど、慣れれば緊張感が無くなり、

眠気に襲われ居眠り運転が発生します。


しかし、手術の緊張感は独特です。


多少は慣れる、という事はあるでしょうけれど、緊張感を失って居眠りをする事はありえません。


それは、人間の本能、生理的反応に由来する緊張、だからです。


つまり交感神経の緊張の事です。


外科手術という、人の命を直接この手に引き受ける、という精神的緊張感だけでなく、

人間は、ヒトの血を見ることによって、アドレナリンが体内に分泌され、

強制的に緊張状態に入るわけです。


手術とは長時間におよぶものもあります。

10時間以上、あるいは丸一日の手術というケースもあります。


では、手術中はトイレや食事はどうするのか?とよく質問されますが、


原則は、食事もしないし、トイレも行かない、という事です。



実際手術中は、トイレも行きたくないし、お腹も空かない、という状態になります。


(最近は、長時間の手術ではチームを組んで分担する事も行われるようになって来ています。)



それはアドレナリンが分泌され、過労、眠気、その他を吹き飛ばすだけの

交感神経の緊張状態になっている訳です。



でも、それはあくまでも体の強制的な緊張状態ですから、体への負担はあとから押し寄せます。

結局体が無理強いをしていることには違いないわけで、過労の重責となる訳です。



・・・過労が重なって重なって、とうとう限界になり「医療の質や安全性」に自信がなくなった時、

外科医はどうするでしょう?





手術は決して、半分寝ながらでは出来ないから、辞めるしかないのです。



・・・それが、現在の外科医の減少を表しています。

この状況をみる学生は、外科医になろうとしないでしょう。

ますます、外科医は少なくなる、という話と合致する訳です。


そして、辞めなくてはと考えても、辞めるに辞められないという責任感ある人などが、

突然死したり、自殺という最も不幸な結末を辿っているのが、現在の医者の過労死問題です。


外科医を辞める、という判断。

それは、

過労死からも、訴訟の危険性からも回避され、

残念ながら一石二鳥の選択
と言わざるを得ません。


・・・10人に1人の訴訟経験と言うのは、本当に医療ミスがあってのこととは限りません。


訴訟と言うのは、誰にでも疑いをかければ起こせるのです。ネコ裁判 のように。


わたしもmedさんの意見に同じで、医療ミスに関係ないクレーマー裁判の為にあがっている

ものだと思います。割り箸事件しかり、福島産婦人科医逮捕事件しかり、です。



外科医は過労を押して手術をし、ミスをしなくとも結果責任を問われて裁判沙汰となり、

その裁判に足を引っ張られて、結局手術に没頭できないという状況が誰の前にも提示されている。

それが、現在の医療状況です。


この記事はミスリードもありそうですが、外科医が過労と当直、訴訟で手術に差しさわりがある、

という問題点は示してくれているので、その点は改善する方向へ誘導して頂きたいと願います。