湯長谷を舞台に選んだわけ | 超高速なエブリディ!

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作家・土橋(どばし)章宏のブログです。
超高速で原稿執筆中!ヽ(^o^)丿

「超高速!参勤交代」で街道を疾走するのは湯長谷藩の侍たちです。
湯長谷藩は実在する1万5000石の藩で、福島県いわき市にあります。

おかげさまで、地元の書店さんでは本をたくさん買って頂いており、その関連で、なぜ湯長谷が舞台になったのかというご質問を頂きましたので、少しその話を。

2011年3月、震災が起こり、私はその被害の実際を知るために、その夏、ライター仲間と車で福島に向かいました。小名浜近くに在住のライターの友達が住んでいたので、いろいろと案内してくれることになりました。

現地に着くと、道路はでこぼこで、小名浜の海辺にいたっては壊れた家屋でいっぱい。腐った魚の異臭が漂い、防波堤はひび割れ、人はまばらでした。想像もできない力が加わったのだなと思いました。
そして、そのまま車で走ると、原発の放射線のため、国道も封鎖。
福島は人災だとも言われる原発事故の被害を一番受けていました。

当時、TVのニュースを見ると、政権交代の影響もあって政治家たちが責任のなすり合いをし、ちっとも福島の救援が進んでいませんでした。そもそも現地に足を運んでない人も多い。もっと他にやることがあるのではないか――。
しかし、福島は壊れたまま放置されていました。現地で被害にあった人たちは、ただただ無力で悔しかったと思います。

これは怒らないとだめだ、と思いました。
しかし住民の人々は避難所で不便な暮らしを強いられており、怒る気力もないでしょう。
それならば、福島の地の先祖の人に、かわって怒ってもらったらどうか。
かつてこの美しい土地で暮らしていた人たちも、この惨状を見たら怒るに違いない。
調べてみると、そのあたりを治めていたのは湯長谷藩でした。

そこからストーリーが始まります。主人公は湯長谷藩の藩主、内藤政醇(まさあつ)。小藩の殿さまは、領民と野湯に入って気さくに交流し、地元で取れた大根やカツオが好きな、小市民的殿さまです。
記録によると、内藤政醇は酒好きで、地元民に「遠くまで酒買いに行くのが面倒だから、自分らで作りたい」と言われて、「そりゃそうだ」と、すぐ幕府に願い出て酒造の許可を取ってるんですね。でも、地元民は宴会好きでますます騒ぐもんだから、「夜遅くまでさわいだらダメ」というお触れも出たりしてます。

殿さまは信頼する仲間と豊かな食べ物を産する美しい土地のために戦います。
参勤する家臣たちはそれぞれ東北各地の剣術をマスターした、よりすぐりの手練れ。
腐敗した中央政府に侮辱され、彼らは立ち上がります。
横柄な中央の政治家たちに、地方は黙っていないぞ、と。
そして「東北連合VS腐敗した中央政府」という戦いが始まります。

私は特に政治信条とかはないですが、やはり人の気持ちをわからない者が政治をやってはダメだと思うんですよね。

たとえば、江戸時代の明暦三年(一六五七)の大火で江戸城天守閣が焼けたときは、すぐに再建が計画されましたが、大政参与の保科正之は「天守は実用的ではなく、単に遠くを見るだけのものでおり、無駄な出費は避けるべき」と主張し、その費用で焼け出された江戸の庶民の救済を優先しました。

当時の庶民の救済方法は、諸方の寺に大量の金子を撒き、火災の被害にあった者が必要な分だけ持ち帰るという、迅速なものであったそうです
余分に金子を持ち帰る者はおらず、救済の金は、ただちに庶民へと行き渡りました。
江戸幕府の中にはまだ、公儀の虚栄より庶民の痛みを考え、優先して事故に対策できる政治家がいたんですね。
現代でも、きっといるはずであろう心ある政治家の方には、小さくなってないで頑張って欲しいですね。


私が福島に行った日に、なでしこジャパンは女子W杯を制し、世界一になりました。
そして今年も楽天イーグルスがジャイアンツを接戦の末に破って日本一に。
選手たちがなんのために戦っていたか。
それは見ていればはっきりとわかります。
そういう「人に対する思い」が一番大事なのではないかと。

映画「超高速!参勤交代」を撮って頂いた本木監督は木下惠介監督最後の弟子であり、木下監督は戦争下でも、人間の何気ない生活の喜びを撮ろうと抵抗した監督です。

参考:木下惠介監督最後の弟子・本木克英監督が読み解く「はじまりのみち」

その本木監督に「超高速!参勤交代」を撮って頂き、新人脚本家の作品にも関わらず、多くの実力派俳優さんたちにご出演して頂けたのは、きっと湯長谷の先祖の方の、神秘な力添えがあったのではないかと思います。

湯長谷藩の一同は傷つけられた仲間と福島の誇りのために走ります。
震災の時、悔しい思いをされた地元の方々が、この小説や映画を見て、スカッとした気持ちになって頂ければ幸いです。