書き殴れ。 -2ページ目

秋だから歌人、そして。

ここが本・書評・文学ジャンルだったという、失われていた記憶が戻ったので(うそ)、今日はちょっと短歌でも。

短歌というものをちゃんと勉強したことなど私にはないので、短歌というか、字数の決められた詩、みたいな感じですけど。

秋になると少しだけ創作意欲が増進される気がします。

(そしてそれ以上に食欲が増……体重が増……イヤー!!)



曇り空 予報通りの 俄雨 差し出すカフェオレ やさしい温度


台風の 上陸を待つ ベランダで 揺れる花弁の オレンジに泣く


薄青く 染められたままの 爪先を 撫でるように 包む靴下


夕暮れの 路肩の白線 途切れがち 踏み出す二歩目を どうすればいい


ブロッコリー 茹でて盛り付け 森みたい 後ろでポツリと 「森みたいだな」


平均台 ゴム長靴で 歩く夢 鼻で笑って 履くピンヒール




まあ、カラフル。

内容の薄さを色で補ってみたのですが、どうなんだか…。

でもこういう短歌みたいなの、考えるのは大好きです。



そして。

この間放置ブログの整理をしていた私ですが、あらおかしい、また何やら一つ増えてるわ。

身辺がすっきりしたのが落ち着かないのか、急に「普通の日記」を書きたくなって、また新たにブログを作ってしまいました。

ここの「呟き。」カテゴリで書いているのも日記ではあるんですが、日々の出来事を気ままに綴るというより「読み物」というスタイルを念頭に置いているため、書くのにある程度のまとまった時間が必要なわけで。

そういうものではなく、10分くらいでササッと書ける、毎日続けられる日記が書きたかったのです。

そう、毎日。

それが大事なことで。

なので内容は超うすだったりするんですが、ちょっと見てみようかな~という方は、こちら からどうぞ。

裏ユニ 9

ご自分のアメブロを見て、「あ、『distanceloverさん更新!』だ~」と思って来て下さった方、すいません。

更新じゃなくて、再録…。

今まで別ブログにUPしたまま放置していたユニゾン番外編をこっちに移動させただけなのですー。

私には更新しなくなったまま放り出してあるブログがいくつかあるのですが、ちょっとそういうのを整理しようかと思って。

この番外編、ちょっと路線がアレかな~と思って隔離していたわけですが、今読んでみるとそんなでもないような…。

というかですね、路線がどうこう以前に、何が言いたい話なのかよくワカラン…。

書いてた当時も自分の思考回路の矛盾に四苦八苦していた記憶がありますね。

作品としてはかなり微妙な出来ですが、ところどころに気に入ったフレーズなんかもあるし、何よりあの苦労を無かったことにはしたくないので、ここに再UPさせていただきました。

(完結してるので上から1話2話…という順番になってます。)



Keeper of the Seven Keys, Pt. 2


↑↑↑

「高熱飛行」作中で取り上げたハロウィンのアルバム「Keeper of the Seven Keys, Pt. 2」(邦題「守護神伝 第2章」)のジャケット。

画像デカすぎだけど(笑)←つーか今見てみたら、画像途中で切れてるし…

高熱飛行 1

土砂降りの雨の中から一砂を回収したのが夜八時半。
拾ってくださいと言わんばかりに、玄関脇のプランターの隣に小さくなって蹲っていた。
ずっと昔に親父が日曜大工で作った歪な台に載せられた、灰緑のプランター。
名前なんか知らない赤い花が、垂れ下がった蔓の先で冷たく雨に打たれていた。
腐ったような色に変色した台の縁に頭を預けた一砂の、濡れて色を失った顔の半分を覆い隠して、その花は健気に咲いていた。
バイクのエンジンをかけたまま、ライトに浮かび上がった一砂を眺める。
勝手知ったる俺の家、一砂を疎まない俺の家族、バラバラと地面を叩く大粒の雨。
誰もが玄関のチャイムを押すであろうそんな状況で、けれど一砂はそれをしない。水を吸って重く纏わりつくジーンズとスニーカーの感触を足から振り払うように、大股で一砂に近づいた。
長い前髪と長い蔓と赤い花。
きっと一砂は自分を見つけて欲しいくせに、そんなもので隠しもする。
曝け出された右半分のそのまた半分から覗く口元、そこに浮かぶ表情さえも薄い何かに包まれている。
「薫、おかえり」
ロボットのようなぎこちない抑揚で、紫色の唇が呆れたセリフを読み上げた。
「ただいまっつーか」
メットの中に溜息を落とし、俺は乱暴に花の蔓を押し退けた。
露わになった一砂の左頬を、蔓が放った雫が打つ。
丁度よく隠されていたそこには案の定、酷い暴行の跡が残っていた。
「顔はヤメテって言っとけ、クソオヤジに」
泣きそうな眼で、一砂は笑った。
「……寒い」
「寒くねえ方がやべえだろ」
腕をつかんで軽く引くと、一砂は素直に立ち上がった。
この雨の中で、いったいどれだけ俺を待った。
自分の姿を最大限に可哀想に見せるために、俺の庇護欲を最大限に掻き立てるために、痛めつけられたその体にどれだけの間忍耐を強いた。
もしかしたら、そんなことは一砂にとって大した苦痛でないのかもしれない。あるいはむしろ、倒錯的な一種の快感に近いものがあるのかもしれない。
けれど、一砂の狙い通りにシナリオが進んでいると知りながら、それでも俺は離せない。
すすり泣くような震えを伝える、この細い腕を。


風呂に放り込んだ一砂がパジャマを着て出てくると、お袋が慣れた手つきで体中に湿布と絆創膏を貼っていった。
うちの救急箱はほとんど一砂のためにあるようなものだ。
風邪薬、痛み止め、包帯、傷薬。
パジャマや下着に、ジーンズ、綿シャツ。
一砂のセンスからはだいぶかけ離れた、でもサイズだけはぴったりな衣類も、救急箱の中身と同様お袋が買っておく。
毎回くどいお説教と一砂の父親への非難がもれなくついてくるけれど、俺も、たぶん一砂も、お袋には感謝していた。
明日パンダになりそうね、でも目の周りは湿布やめておくからね。
そんなことを言いながら、お袋は熱冷まし用の冷却シートに切り込みを入れ、一砂の左目の周りに器用に貼り付けた。
おもしれー顔、と言ってやると、もとがいいから問題ない、と返された。


部屋中に散らかったありとあらゆるものをクローゼットの中に投げ込んで、ローテーブルを壁際に押しやった。
こうして空けたスペースに、いつも通り布団を敷く。
厚いマットレスに来客用の羽毛布団。
一砂をやわらかく包んでくれる、暖かな寝床。
安物の、しかも年季の入った俺のベッドとは比べものにならない寝心地だ。
なのに一砂はいつも、シーツもろくに洗濯してない俺のベッドに潜り込む。
「なんでいつもそっちに寝んだよ」
「こっちの方がいい夢見られるから」
「べつに枕の下にエロ本とか置いてねえけど」
「そんな夢求めてないし」
寝返りを打って俺に背を向けると、頭まで掛け布団を引きずり上げる。
茶色い毛先が少しだけ、取り残されたように枕の上にはみ出していた。
糊のきいた真っ白なシーツ。
そういうものを、一砂は嫌がる。
ああいうのってプラスチックのケースに入ってる気がする、と。
ポツリと呟いた一砂の眼が、妙なリアルさを伴っていつも俺の中にある。
一砂の気持ちが屈折するその角度を正しく追えているかどうかはわからなかったが、壁に当たっては折れ曲がる心の行方のその最後に、俺がいてやりたいと強く思った。
痛々しいベッドに痛々しい一砂。
少しせつないその眺めは、けれど俺を満足させた。
色褪せた青いシーツ、綿の潰れた掛け布団、どれも一砂を守らない。
だから俺が。
そう思うことができる。
俺が一砂を守らなくちゃならない。
そんな使命感に、俺は守られていた。


to be continued.

高熱飛行 2

寝心地の悪いそのベッドで、一砂は発熱の悪寒に震えていた。
これもいつものことだ。
精神的なものもあると思うのよ、とお袋は言う。
俺もそう思う。
頭から被ったタオルをテーブルの上に放り投げ、エアコンの設定温度を3度上げた。
風呂上りで温まった体では、なおさら一砂にとっての適温がわからない。
客間の押入れから運んできた毛布を掛け布団の上に追加すると、髪を乾かしたり爪を切ったりする合間に、俺は何度も一砂の様子を確認した。
汗ばんではいないかと、前髪を梳き上げる。
もう震えは止まったかと、布団に手を入れ肩に触れる。
小さく丸まった体から絡みつくような熱が放出されて、布団の中のくたびれた綿が溶けて縮れていくような錯覚に陥った。
熱い。
浅く速く繰り返される呼吸のリズムに呑み込まれそうだった。
それでも震えが治まっていることを確認すると、熱の伝わった手のひらを布団の中から引き抜いた。
一砂の熱の余韻を残す右手が、ひどく重いような気がした。
じっと手を見つめてみる。
普段通り何の変哲もない。長い指と硬い指先と短い爪。
どうってことのない、いつも見慣れた特徴のない手相。
なのに皮膚の内側が、何かに侵食されて痺れているようだ。
使命感は俺という存在に意味を与えてくれるけれど、ときどきこうしてコントロールが利かなくなる。
この指の隙間から、零れてゆく。
一砂の放つ熱。
一砂の感じる痛み。
すべてを受け止めようとすればするほど、隙間は膿んだ傷口のように醜く広がっていくようだ。
受け止められない。
俺の手のひらは、こんなにも脆く、小さい。
その絶望は絶えず体の底に沈殿している。
それが意識の上に染み出してきたとき、俺は心底自分が嫌になる。
消したいと思う。
リセットではなく、デリート。
拒まれる前に消してしまいたい。
自分を。
俺では望むような保護膜を作ってやれないと気付いたら、一砂はきっと俺を捨てる。
守らなくちゃならないと足掻いたところで守るべきものから拒まれて、俺という存在は意味をなくすのだろう。
他に何もないわけじゃない。
俺と世界を繋ぐものなんていくらでもある。
家族、友達、歌、ギター。
そういうものと世界の間で、俺にはいろんな存在意義が付加される。
けれどそういうものはすべてが日常で。
どれも大事ではあるけれど、奥深くの核心を痛いほどの切実さをもって貫きはしない。
適度に緩く流れる日常の中、浅い世界に繋がれて生きるのも悪くはない。
悪くはないが、意味もない。
ただ俺だけが持つ、特別な意味。
それをくれるのは一砂だけだ。
一砂じゃなければだめだ。
一砂にとって俺の代わりがいくらでもいるとしても、俺に一砂の代わりはいない。
苦しいほどの執着が、俺を一砂に繋いでいる。
その理由を俺はもう長いこと考え続けている。
でもわからない。
わからないということにしている。
どれだけ繰り返しても、自分の中の「正常」のカテゴリに入れておけるような理屈の通った答えが見つからない。
だから結局、いつもいちばん簡単な選択肢に逃げていた。
『俺はおかしい』
異常さを認める言葉じゃない。
認めて受け入れて向き合う覚悟は俺にはない。
だから「おかしい」という便利な言葉に甘えて、少し自分を哀れんでみたり、醜い核心から目を逸らして知らないふりをしているだけだ。
おかしいから、こんなに一砂に執着する。
おかしいから、うまく一砂を守れない。
おかしいから、消えてしまえばいい。
――吐き気がした。
脆弱なこの手に、今すぐ何かを握らせて欲しかった。
俺と一砂を結びつけるグロテスクな紐に編み込まれた一本の綺麗な糸、そうでなければ一砂の代わりになるものを。
俺のこの手に。


to be continued.

高熱飛行 3

「……薫」
掠れた声がそう呼んだ。
ピクリと、目の前の小指の先が勝手に動いた。
重い痺れが急速に引いていく。
吐き気を募らせていた弱く暗い思考が、再び体の奥底へと沈殿していく。
俺はまた正常というコントロールの支配下に戻り、いつも通りの顔をしてみせることができたようだ。
「水、ちょうだい」
乾いた唇がごく当たり前のことを言った。
「今持ってくる」
俺の口も、ごく当たり前のことを返した。
けれど一砂は立ち上がりかけた俺を止める。
「ここ、いてよ」
干上がった喉が途切れさせる細い声は、切ない喘ぎのようにも聞こえた。
そんな言葉を口にしながらも、熱のせいなのか一砂の表情はぼんやりとしている。
胸を締めつけるような声と、虚ろなままの弛んだ顔。バランスが取れない。
不安定すぎて目が離せなくなる。
浅い呼吸で誘う、その唇から。
「薫、ここいて」
もう一度、今度は少しはっきりとした声で一砂は繰り返す。
それから一拍の間をおいて、切なそうな顔をしてみせた。
助かった、と思った。
その顔は一砂にしては出来が悪かった。
芝居臭さが丸見えの、押し付けがましい切なさだ。
体の中で膨張していた湿った衝動が急に消え、代わりに濁った色のアメーバが真空になったそこを満たした。
汚い。
俺も一砂も。
テーブルの上の煙草に手を伸ばす。
視界の片隅に映り込む、昨夜から放置されたままの飲みかけのペットボトルに気がついた。
ミネラルウォーター。水、だ。
「……だから、それでいいって言ってんの」
一砂が溜息をついた。
苦い溜息だった。
「昨日のヤツだぞ」
「べつにいい」
「ぬるいんじゃねーの?」
「いいってば」
少し苛ついたような言い方で、一砂は強情にペットボトルを要求する。
体を庇いながら慎重な動作で起き上がるのを待って、きつく蓋を閉めたボトルを放り投げた。
チャプンともボスンともつかない中途半端な音を立てて、布団に入ったままの一砂の膝の辺りにそれは着地した。
「遠い」
不機嫌そうに一砂が呟く。
「膝に手が届かないほど、おまえの足は長えのかよ」
普段言いそうな軽口を、少し考えてから言ってみた。
けれど一砂は合わせない。
無反応でボトルのキャップを弛めていた。
仕方なく黙って煙草を吸うことにする。
未開封のボックスのセロハンを、なんとなくゆっくり剥いてみた。
一砂が水を飲む音が聞こえる。
規則正しく健康的な音だった。
なんとなく、ムカついた。
「それ、腐ってるかもな」
ボトルから唇を離して、一砂が俺を見た。
腫れの引かない無表情。
それから少しして。
「べつにいい」
笑った。
なぜだか知らないけれど、俺も笑った。
同じような顔になっているかはわからない。
胸の奥が淡く痛んだ。
俺の存在にたいした意味がなくても、同じように笑ってくれるのだろうか。
「いいのかよ」
「いいんだよ」
俺は笑うことに一生懸命で、火を点けてみた煙草を結局それほど吸わなかった。


to be continued.