書き殴れ。 -43ページ目
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風が強い日が好き。
よく晴れた日のさわやかな風は気持ちがいい。
でももっと好きなのは、空があやしく曇った日の強い風。
なにかが起こりそうな、そんな冒険心に満ちた予感。
自転車に乗って街を走ってみたり、細い畦道を延々と歩いてみたり。
冒険家なのだ私は。
砂埃に目をすがめる人の群れや、何かを拒むように揺れる電線、さざ波の立つ濁った水面なんかを一通り見物すると、自販機でオレンジジュースと煙草を買い、 鼻息荒く家へと戻った。
新聞から目も上げずに「おかえり」と言う兄ちゃんに煙草を放り投げ、それから缶ジュースを開けてゴクゴクと飲んだ。
リビングの大きな窓はどこもピシリと閉まっていて、すきま風ひとつ吹いてはこない。
せっかくの風日和なのに。
きっちりと閉められた窓の鍵に手を伸ばすと、すぐ後ろで抗議の声があがった。
「開けんなよ」
「なんでよ」
「なんでってお前、とばされるべ?」
「はあ?」
「ガラス細工のように繊細なこの俺様のハートがな」
「……とんでいけ」
実際飛んでいった方がいいのだ。
兄ちゃんは女心の底に眠る冒険心を学ぶべきだ。
何かが起こりそうな予感にときめく気持ちというものを、風の中で知るがいい。
そしていい加減に気づいてほしい。
「妹みたいな従妹」の地位から格上げしてよ、私を。
煙草に火をつけながらまたもや新聞を読みに戻るムカつく背中に、魔法の呪文でもかけてやりたい。
何かが起こりそうな予感。だけど予感だけじゃつまらない。
「兄ちゃん」
背後に忍び寄って、唇から煙草を取り上げた。
冒険家なのだ私は。
キスなんか、しちゃったりして。
「おお!?」
ふふふ驚け、台風1号兄ちゃんを直撃。
と思ったら。
「煙草臭いけど我慢しろな」
大きな手に、包み込まれるように引き寄せられた。
台風2号、私を直撃。
「もう兄ちゃんとか呼ぶなよ」
「は、はい……」
フラフラと後退り、そして無我夢中で飛び出した。
部屋を出て玄関を出て、裸足に気づいて戻ってまた出て。
風の中に、飛び出した。
頬に髪に風を受け、火照った体を冷ましつつ。
冒険はドキドキだ。
何が起こるかわからない。
風と恋と私と冒険。
想像以上にすごい何かが、起こるんだ。




これもHPから転載。

ごあいさつ


このブログでは気の向くままにショートストーリーを書いていきたいと思います。
おもに恋愛ものかと思われますが、そこらへんはてきとうに。
今日はあまり時間もないので、過去に書いたものをのせておきます。
実はHPも持ってるんですが、そっちで公開してるものを転載。
最初から手抜きで申し訳ないです。
更新もきっとこんな感じでてきとうにゆるゆると…。やる気はあるのか、と(苦笑)

※現在他のブログも持っているのですが、こちらのブログの使用感を試したいのでお試し開設してみました。いずれどちらか片方だけに致します。




***** Ring *****

ゆうべ私は指輪を捨てた。
なんてことはない安物のシルバーリング。
たぶん私が持っているものの中でいちばん安い。
それでもそれは、もう長いこと私の薬指にはめられていた。
指輪をはずすと、白い日焼けあとが痛々しかった。
「誕生日おめでとう」
そう言われてもらった指輪だ。
そんな言葉に理性を失い、薬指なんかにはめてしまった私はばかだ。
飲みかけのビールの缶に、指輪をチャプンと落とし込んだ。
小さな穴から覗き込んだ海に、鈍く光る銀色の指輪。
おぼれている。
少し悲しい。
悲しくて、みっともない。
缶を振ると、チャプンチャプンと音がした。
不思議と、指輪が缶にぶつかる音はしなかった。
なくなってしまった、薬指の指輪。
私は残ったビールを飲み干した。
ぬるくなった苦い液体。
カランと小さな音がして、缶の中から指輪がささやく。
「さようなら」
グッと缶を握りつぶし、私はそれをゴミ箱に放り投げる。
ナイスシュート。
指輪を飲み込んだ缶は、最後にコトリと悲しい音を残して、ただの空き缶になってしまった。
これで恋を終わらせる。
さようなら。
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