中日春秋
2009年10月29日
 <噴火山上に踊る>という成句は、危難が迫っているのに呑気(のんき)に遊び興じているといった状況を指すようだ
▼一八三〇年五月、パリで豪勢な舞踏会を開いた、後(のち)のフランス王ルイ・フィリップに側近が語った言葉が出所だという。既に世情は騒然、七月革命寸前のころ。ナポリ王のための宴(うたげ)であり、ベズビオ火山に掛けて皮肉ったらしい(『西洋故事物語』)
▼新潟県中越地震が起きたのは五年前の十月。大きな被害を受けた山古志村(現長岡市)の復興を追ったのが、橋本信一監督の映画『1000年の山古志』(名古屋・シネマスコーレなどで公開中)だ
▼まさに「日本の原風景」はずたずた。村民の生活基盤が一瞬にして奪われた悲劇には言葉を失う。だが、草むら掻(か)き分け、水路の絶えた田んぼに自力でホースの水を引くおばあさんなど、それでもへこたれず、再起を期す村人たちの不屈の生き様には胸が熱くなる
▼この国には火山も地震も多く災害列島の異名さえ。さらには突然、経済危機のような厄災が降り掛かってくることもある。ダンスはしていなくても、幾分か<噴火山上に踊る>ようなところがあるのがわれわれの日常だ
▼抗(あらが)いようのない、巨大な力が無慈悲にふるわれる時、人はいかにもちっぽけに思える。だが、その度に立ち上がり続けてきたのも、また人だ。観(み)る者を勇気づけてくれる映画である。