カリフォルニアに向かって「あばよ!」と叫ぶ | 愛は限りなく ~DIO, COME TI AMO~

愛は限りなく ~DIO, COME TI AMO~

一粒の雨にさえ心揺れることもある。いつもどんな時も心閉ざさずに…。

米国には行ったことがないし、特に行きたいとも思わないので、詳し

いことはわかりませんが―。

例えば、東海岸で生まれ育った人が西海岸へ行くと、そこがまるで

違った世界に映るのでしょうか。


ビリー・ジョエル「ニューヨーク物語」(1976年)を出す前は、ロサン

ジェルスで音楽活動を行っていました。

もともとNYで生まれ育った彼がロスへ移ったのは、レコード契約を

得るためだったと言われています。

そんな彼が、同アルバム冒頭で歌ったのが“さよならハリウッド”

爽快で非常にスケールの大きなサウンドが耳に残ります。

歌詞にも皮肉や怒りといった要素は微塵もなく、「いろんなことがあ

ったけど、これでお別れだ。さよなら!」と歌っている。

きっとロスには馴染めない部分も少なからずあったのでしょうが、そ

れより故郷に戻った喜びの方が上回っていたのかも。

たとえ米国に関心なんてなくとも、この曲の歌詞を見ながら歌を聴

いていれば、ビリーの心境が直接伝わって来ると思う。

間髪を入れずに続く、“夏、ハイランドフォールズにて”も名曲。
美しいピアノが前面に出ているためか、字余りの一歩手前のような

ヴォーカルも流麗に聴こえるから不思議です。

リム・ショットハイハットを連打するドラムや、短いソロを奏でるソプ

ラノ・サックスもビリーのピアノと同じく秀逸。

歌詞は、現代を生きる者が背負わざるを得ない宿命(?)をやや哲

学的に表しています。

題名と歌詞との結びつき?

これは要するに、「ハイランドフォールズにいた夏にこの曲を書いた」

というほどの意味では。

ピアノの美しさと言えば、やはり“ニューヨークの想い”ですよね。

ジャズのレコードにも引けを取らないほど、ピアノの低音も高音もよ

く録れていると思います。

実際、ピアノもヴォーカルもジャズを想起させる部分があります。

もしくはブルースか…。

レイ・チャールズにも通じるというか、レイが歌ってもおかしくない。

確かこの曲は当時日本でもヒットし、レイ・チャールズの影響云々

といった記事を目にした記憶があります。

とにかくニューヨークへの想いが溢れており、これと“さよならハリウ

ッド”を合わせて聴けば、当時の彼の心境がよく理解できます。

“ジェイムズ”はアルバム中最もソフトな作品ですが、私は昔から気

に入っています。

歌詞もヴォーカルも内省的で…。

いや、考えてみると、歌詞は普遍的ではないかな。

定められた道だけ歩くよう義務付けられた友人に対し、「ジェイムズ、

それで本当に満足なのかい?」と呼びかけているのですから。

また、エレクトリック・ピアノの音色も曲調に合っている。

もし、エレピではなくピアノを用いていたら、楽曲の印象もかなり変わ

っていたような気がします。

私から見たビリー・ジョエルの魅力とは、卓越したメロディ華麗なピ

アノ、都会的で洗練されているがパワフルな歌唱…でしょうか。

そして、そういった要素が如何なく発揮されているのが、本作ではな

いかと思います。

さらに、例えば最初のヴァースまたはブリッジと、以降のそれらとで

微妙に異なった節回しが聴けるのもこの人の魅力です。

少し音程を上げたり、崩して歌ってみたり…。

そんな時は、いつもピアノのフレーズもヴォーカルに伴って変化し

ます。

ピアノのみならず、ドラムとベースも大抵そうです。

ということは、ピアノとヴォーカル、そしてベースとドラムを同時に録

音しているのかもしれません。

そして、そのあとにストリングスや管楽器を録る…。

確かに“ニューヨークの想い”等からは、そのように聴こえますね。

そういえば、「ストレンジャー」(77年)の最新盤CDの解説にも、同時録

音について触れていました。

だから、彼はバラード・シンガー、メロディ・メイカーというよりむしろ、

姿勢はブルース・ミュージシャンに近いものがありそうです。

ところで私が現在聴いている本作は、2004年に出た最新版(盤)です。

いわゆる紙ジャケットCD

そして音源は、この紙ジャケットCDに際しあらたに作られたDSDマ

スタリング(解説には2004年DSDマスタリング音源と記載)を採用。

これがまた極めて優れた仕上がりになっています。

音圧、透明度、分離のよさといった点で、文句なしの出来!

ただし、私は以前のCDを聴いていないし、レコードの音がもともと優

秀だったこともあり、DSDマスタリングでどれだけ向上したかは正直

なところわかりません。

でも、他の再発CDや現行CDの音と比較して、優秀な部類に入る点

は間違いないです。

DSDマスタリングはソニー独自の技術だそうで、今年再発されたジェ

フ・ベックの紙ジャケットCDにも採用されています。

勿論、ジェフの作品も取り上げる予定ですよ(^^)v。

ビリー・ジョエル
ニューヨーク物語(紙ジャケット仕様)

彼にはまた21世紀のニューヨークを描いて欲しいです。


Ibaraqui, le 13 juillet 2005