第一話 「宇宙怪獣」 | 宇宙怪獣対策委員会

第一話 「宇宙怪獣」



「左舷装甲板大破!!」

「宇宙怪獣は尚も増殖、約1800。」

「くそ!なんなんだこいつら!!どこからうじゃうじゃと!」

見る見るうちに増えた宇宙怪獣たちに取り囲まれた現状に、副官は叫んだ。

「こんな辺境をゆく艦にもお目こぼしなしとはな。それともこの艦に積んであるものがそれほど恐ろしいか。やつらは」

そんな状況にも眉ひとつ動かさず、むしろ楽しんでいるような男がいた。その装いから技術仕官のように見て取れるが、たたき上げの軍人も顔負けの貫禄がある。


宇宙怪獣の突然の襲来に騒然とするブリッジ。そこへ佐官クラスの制服を着た青年が入ってくると空気がより引き締まる様子だ。詰めた襟には大きな勲章が貼付されている。そして胸には戦艦キーストン艦長の証が見て取れる。



「状況は?」

そう聞くとオペレーターの一人が答える。



「空間の歪より突如出現した宇宙怪獣は我々を標的とし攻撃を開始、我々も光子魚雷、荷粒子砲で応戦しております。」


もう一人のオペレーターがレーダーを見たまま振り向くことなく冷静に付け足した。

「しかし目標は依然増殖中。2分前の時点で約1000、現在は2000になろうかと言うところです。」

「やはりアレの起動が相当気に食わんらしい。折角だ、出してやったらどうだ?タキオン艦長。」

艦長と呼ばれた男は腕を組み、レーダーから目を離し、宇宙怪獣群が映るモニターを見据えたまま答えた。


「今回はいつもとは様子が違う。現状維持のまま温存させましょう。この艦を落とすだけならばこれだけの数は必要ないはずです。」

     

「しかしその前に撃沈される恐れもあると思うが?」


その艦長に対して注意を促すような発言ではあるが、表情を見る限り、試すようなニュアンスが感じられる。
「そうされないために頭を使うのが私の仕事です。」

特に誇るわけでもなく、さも当たり前のように答えるタキオン。それを聞いてうれしそうに俯く。

「ふ・・・この状況でよく言えるものだ。だがアレだけは壊してくれるな。たとえこの艦を沈めてもな。」

「やつらが詰めに入った時に出撃させます。アテにさせてもらいますよ、宇宙怪獣対策本部開発局エースであるトルネード殿の渾身の力作と言う奴を。」

「私もそう願おう。」

トルネードと呼ばれた男はよほど彼を信頼しているのかこの状況でもまるで動じない。すでに艦の下弦部は原形を留めてはいない上、敵宇宙怪獣もその勢いがとどまる事を知らない。



「目標数5000を突破!」

「艦長!!キーストンはもう持ちません!!撤退の指示を!!」

たまらずタキオンに撤退を要請する副官。


「まだだ!回頭、3時の方向へ!」

     「艦長!!自沈させる気ですか!!」


「やつらとて考えなしにこんな大部隊を送ってきたわけじゃない。何かするつもりだ。この艦とて対宇宙怪獣に作られたんだ。そうそう沈まない。」

そのとき、オペレーターの一人がレーダーに映った遠くの敵影を見つけて叫んだ。

「本艦より8時の方向より秒速5千キロで接近する物体あり!!接触まであと30秒!」

「秒速五千か、ヤゼール級か?」

ヤぜール級、そう予測を立てたトルネードの発言に対してタキオンは言葉を返した。

「ヤゼールなら光速の4分の一の速度ですよ。こいつが本命か?。ヴェルフェゴール第一種戦闘待機!」

タキオンの一言を受けてオペレーターはすぐに格納庫へ通信を入れる。
「了解しました。ブリッジより格納庫。ドライバーは第一種戦闘待機。繰り返します、ドライバーは第一種戦闘待機でお願いします。」

「さて、ここからが正念場と言うところだな。」

     「ええ。だがまだ隠し玉がありそうだ。オペレーター各員はレーダーから目を離すなよ!」



そのとき、レーダーの変化を見てオペレーターが悲鳴に似た声で叫ぶ。


「艦長!!8時の方向に特異点が観測されます!!こいつらは・・・ツインターボ!それも7対です!」

「クソ!!いよいよだな!ヴェルフェゴール、緊急出撃だ!」

「しかし今出撃すれば格好の標的になる恐れがあります!」

「構わない!エーテルドライブで出撃させろ!今すぐだ!」

「そんな事をすれば艦が宇宙の塵になってしまいますよ!!」

「そのためのニュートリノキャンセラーだろ!やつらはヴェルフェゴールを狙う。この艦は大破ですむ。このまま沈むよりはマシだ!」

「了解しました。ブリッジよりカタパルトへ、ヴェルフェゴール緊急出撃願います。なお、エーテルドライブでの出撃のため、総員衝撃に備えておいてください。」

艦内全域にオペレーターの声が響くと同時に、緊張感とクルーのざわめきが聞こえる。

「ニュートリノキャンセラーカタパルト部に集束完了!ヴェルフェゴール、エーテルドライブで緊急出撃!」

「いいか!!出撃直後に荷電粒子エンジンを臨界まで上げておけ!ここが勝負だぞ!」

叫ぶタキオンを尻目に巨大な光を放ちながら発進するヴェルフェゴール。まるで虹のような光が走ると、その光に巻き込まれたキーストンはその宙域から姿を消した。



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