イングヴェイ・マルムスティーンの登場によってギター奏法の歴史が変わる。70年代後半、ジミヘンやエディ・ヴァン・ヘイレンによって革命的な奏法の進化があったロックギター界、それがわずか数年の間にさらに劇的に変化を遂げる。クラシカルなフレーズをありえないスピードで弾きまくるそのスタイルは、それまでのロックギタリストの奏法を根本的に変えてしまったような気がする。いや、考えついた者は恐らくいた。ロックとクラシックの融合は昔からあったから。でもあれは思っても考えついても簡単には出来ない。それには超高度なテクニックが必要だからだ。

衝撃的なイングヴェイの登場、そして成功。HR/HM界に数多くのフォロワーが現れる。シュレッダー、速弾きギタリストブームの到来。フォロワーが本家を超えることはない。それが定説。しかしこのムーブメントにおいては、あまりにも強力なフォロワーが登場、明らかに本家を超えているのではないかと思われるほどの逸材が数多く登場した凄い時代だった。
個人的にもイングヴェイと同列に好きなギタリストが多数いる。後につながらなかった、短命に終わったという意味ではもちろん本家を超えることは出来なかったのかもしれない。イングヴェイは今も活躍しているのだから。

そんな速弾きギタリストブームがあったあの時代に彼もデビューした。日本のメタル好きが知ったのはその時、だが実は世代的には恐らくイングヴェイより上、かなりのベテランであることを後に知る。そして彼の音楽性はネオクラシカルなどという、そんな狭い範囲に収まるものではないということも後に知ることになる。


CHASTAIN


70年代後半からSPIKEというバンドで活躍していたデイヴィッド・T・チャステイン(アルバムも残している)の名が日本で知れるのはもっと後になってから、その速弾きギタリストブームの起こる85年ぐらいのこと。CHASTAIN、CJSSの2つのバンドと自らのソロアルバムを平行して発表していた多才なギタリストであった。
デイヴィッド・T・チャスティン名義でギターインストアルバムを出し、コマーシャルなHR/HMでツェッペリンなんかの70年代のルーツを隠さないCJSSもやっていた、彼がその一番最初にやっていたのは様式美型のヘヴィメタルを追求していたこのCHASTAINだった。

オハイオ州シンシナティ出身でSPIKEというバンドで活躍していたデイヴィッド、ギタリスト発掘人SHRAPNEL RECORDSのマイク・ヴァーニーにデモを送ったことによりCHASTAINの歴史は始まる。
優秀なギタリストを捜していたマイクに気に入られSHRAPNELからデビュー。85年の1st。


MYSTERY OF ILLUSION


アメリカのバンドとは思えない、暗いヨーロッパ型の様式美正統派メタル。大仰なイントロから始まる1曲目のタイトルはいきなり "Black Knight"。しかもロニー・ジェイムズ・ディオを思わせる暑苦しい唱法のVoは女性。そこにきらびやかに舞うデイヴィッドの華麗なギター。これは結構な衝撃だった。音質が悪いのが難点か。
ロニー時代のRAINBOW、サバス、そしてもちろんDIO、それらが好きでさらにコアなパワーメタル化して速弾きギターをまぶした感じ、しかもそれを歌うのが女性ヴォーカル、好き者にはたまらないものがあるはずだ。

その女性Voであるレザー・レオーネの唱法が強力。ロニーを師としてそこにわずかに女性らしさを加味したような、女性Voと聞いてまず感じる弱さのようなものは一切感じない。「女性Vo?ケッ!」などと抜かす舐めた聴き手のケツを蹴り上げること間違いない。
しかも彼らは当時のアメリカンメタル勢の中でも特にヨーロッパ型メタルを追求していた。特にこの曲が良いというより、この方向性に強く衝撃を受けた。
ドラムを叩くのは後にCINDERELLAで有名になるフレッド・コウリー。彼はLONDONの1stでも叩いていた。Bのマイク・スキマホーンはSPIKE時代からの盟友。

86年の2nd。


RULER OF THE WASTELAND


Drがケン・メリーにチェンジ。音楽性を明確に3つに分けていたデイヴィッド、様式美パワーメタルバンドであるCHASTAINの方向性がぶれることなどない。1st同様のヨーロッパ型の正統派メタル、しかもパワーがより上がっている。ロニーがパワーメタルを歌っているようなレザーのVoには安定感があり、デイヴィッドのギターは一層スリリング。しかし彼女のVo、一聴しただけでは女性とは思えないほどのパワフルさがある。後は。。この一曲。聴き手をねじ伏せるようなバンドを代表する名曲が必要だ。



B!誌でも92点という高得点を獲得、FEMSから日本盤も発売され日本デビューする。

87年の3rd。このアルバムより自らのレーベル、LEVIATHAN RECORDSからの発売となる。


THE 7TH OF NEVER


再びB!誌において90点という高得点を獲得する。ジョージ・吾妻氏のCHASTAINに対する評価は異常。いや気持ちは分かる、確実に成長してきている。決して聴き手の期待を裏切らない。3曲目の "It's Too Late For Yesterday" なんかを聴いてると、一瞬ロニーのアルバムを聴いてるような錯覚に陥る。



88年4th。


THE VOICE OF THE CULT


個人的に彼らの最高傑作。オープニングの "The Voice Of The Cult" は予想通りを超えた興奮を感じる。この曲は名曲と言っていい、代表曲にふさわしい名曲だと思う。押し付けがましさの中にわずかに切なさが加わったからだ。パワーを落とさず引きを心得るようになった。同じような色だった前作までと違い、少し違う色調が見えるようになった。
それでも根本の方向性は同じだから暑苦しいメタルが嫌いなら聴く必要はない。メンバーも変わらず。そしてどのアルバムもジャケがとてもいい。

chastain6

そしてこの後も90年に「FOR THOSE WHO DARE」、95年に「SICK SOCIETY」、97年に「IN DEMENTIA」、2004年に「IN AN OUTRAGE」と出し続けているが、買わなくなった。

現在もバンドは継続中らしく、またアルバムを発表することもあるのかもしれないが、世界的なスターになったり日本で話題になったりすることはもうないだろう。
しかしメタル好きであれば初期は聴いておいたほうがいい。そしてギター好きにはぜひ彼のギタープレイを聴いてもらいたい。皆同じに聴こえてしまった当時のネオクラ系ギタリストとはひと味違う、独特の魅力をデイヴィッド・チャステインのギターに感じるはずだ。



"The Voice Of The Cult"


"Ruler Of The Wasteland"


"We Must Carry On"


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