クイギン――MMT及びマーケット・マネタリズムについて | アトラスの掘立小屋

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訳や記事紹介など

RTでのインタビューでクイギンが、MMT、 マーケット・マネタリズム、ビットコインについて話している部分を引用し、大まかに訳しました。同部分を引用した英文記事を参考にしています。こんなものでよろしければどうぞ。



ハリソン
:あなたに反して、「通貨主権を持った政府は、公的支出の資金を調達するために課税をする必要はない」と主張する人がいますが、どうでしょう。この主張は妥当なものだと思われますか。

 クイギンそれはMMTに関する成果の、ミスリーディングな提示だと思います。正しい理解に基づけば、MMTの主張はケイジアンの主張と大きく変わらないと思います。すなわち、先ほどの主張は、流動性の罠に陥っている状況では正しいのです。今のアメリカやヨーロッパが置かれているような状況ですね。原則的には、経済が回復するまでであれば、政府は無制限にお金を使うことができます。なぜなら、問題となるのは資源制約だからです。政府が使いたいだけお金を使える、ということでは――正確に言えば、制約なしに使いたいだけ使える、ということでは――ありません。財政収支を定められるべき限界として位置づけるよりも、残差として位置付けるべきだということです。やるべきことは、財政政策を講じ、経済を完全雇用の状態にまで押し上げることですが、それ以上にはしないことです。その結果、財政均衡がどのようになっても、それを甘受すべきなのです。このようにして財力を発生させよ、という主張は、すべてをただで手に入れることができるという考えとしばしば取り違えられますが、それは正しくありません。

ハリソン:わかりました。ここで、特にこの問題に関することで、ハード・ケインズ主義についてあなたがおっしゃったことを確認しておきましょう。5つほど論点を挙げておきます。

(クイギンによるハード・ケインズ主義の定義)

1、先進諸国においては、世界金融危機以降の期間を除いて、貨幣創出は重要な資金源ではなかった。

2、世界金融危機のような極端な状況を除いては、インフレ率の上昇なしには貨幣創出が公的支出の主な資金源になることはない。執拗にそれを続ければハイパーインフレにすらなる。


3、歳入不足は第一に、公債の発行によってファイナンスされるべきである。

4、公債の
GDPに対する比率は無制限に上がることはありえない。どこかで政府が、これ以上借りるのは不可能だと悟るからである。

5、財政赤字の時期に政府が抱えようとする赤字が大きければ大きいほど、ブームの際の黒字は大きくならざるを得ない。


いずれもあなたがおっしゃったことです。
 さて、あなたはある種のMMT支持者、すなわち上記の点に反するようなやり方でMMTを使っているような人々について説明なさいました。あなたの意見と、なぜそれがMMTの問題と関係があるのか、説明していただけますか。


クイギン:わかりました。MMTの支持者への初歩的な疑問は、経済が完全雇用状態にあるときには何を、あるいはどういった政策を彼らは主張するのか、ということだと思います。もちろん、今のアメリカやヨーロッパには関係のないことです。これからかなり長い間無関係のままだと思われます。大まかにいえば、これはオーストラリアのような国に関係のあることです。我々オーストラリア人は比較的完全雇用に近い状態にあります。少なくとも過去30年余りの基準によれば、完全雇用に近いのです。だからオーストラリアの置かれた状況で本当に問題になるのは、政府がインフレーションの危険性を高めずして、支出したいだけのお金を支出できるかどうか、なのです。ここでもう一度指摘しておかないといけないことがあります。カレツキーのような人々によってなされている、MMTの正確な説明に基づいて言えば、大局はまさに次のようなものになります。即ち、経済をインフレなしに完全雇用の状態に保つよう、政府は決断を下していくべきだということです。お金を使いたいだけ使える、ということではないのです。

ハリソン:なるほど、わかりました。話を変えましょう。異なった経済学の見解についてです。マーケット・マネタリストと呼ばれる集団がありますね。これは経済思想の一学派ですが、世界金融危機以来広く受け入れられるようになっています。私の理解するところでは、マーケット・マネタリストは「ゼロ金利で、名目金利の非不制約(Zero Lower Bound)に直面している場合すら、金融政策は有効であり、財政政策が不要になるほど効果的である」と考えています。この見解についてどのように思われますか。

クイギ:そうですね、自分たちに都合の良いような、もっともらしい主張をなさっているようにみえます。ですが、経験によって検証されているとはとても言い難いですね。例えばアメリカのような、かなり拡張的な金融政策が実施されている一方で、緊縮財政がとられているところがあります。その努力を私たちは目の当たりにしています。ですが結果は酷いものです。刺戟が弱まっていくにつれて、低い経済成長率が観察されるようになっていますが、需給ギャップの追い上げは、現実には全く観察されていません。その一方で、計測された失業率は低下していますが、これは本質的には次のような理由によるものです。アメリカのおかれた状況では、一度失業給付を使い果たすと、給付資格を満たし続けていても意味がありません。その際、最も良い選択肢は就業不能給付に移行することなのです。だからアメリカの就業率を見ると、何の発見もないのです。刺戟的な金融政策をあれだけ大胆に使っているにもかかわらずです。だからこそ、ここで必要になるのは財政政策です。これは明白なことだと思います。

ハリソン:それに対してマーケット・マネタリストは次のように反論します。「アメリカで実施されている金融政策は定義上『緊縮的』である。名目GDP成長率を押し上げていないからである」と。こういった見方が、金融政策の見方として、さらに言えば財政金融政策の見方として、本当に正しいと思われますか。

クイギン:いいえ、正しいとは思いません。私の理解するところによれば、マーケット・マネタリストと普通のオールド・ケイジアンの唯一の相違点は、名目GDPを当然のごとく達成目標とする際に、名目GDPを政策手段の一つとしても扱うかどうかです。

ハリソン:なるほど。

クイギン:そこが混乱しているように思えますね。

ハリソン:そうですね。今週のどこかでスコット・サムナーとデイヴィッド・ベックワースの二人とお話する予定ですので、彼らの見解を聞くのがとても楽しみです。同じ質問を二人にも尋ねようと思います。
 違ったトーンでこの議論を締めさせてもらいたいと思います。というのも、あなた自身が残した名言について触れておきたいからです。あなたはこう言いました。「ビットコインは今までに創られたなかで、無価値であることが最も明白な金融資産である。」非常に大胆な発言ですね。あなたがビットコインに関してどのような考えをお持ちか、なぜ無価値だと思われるのか、説明していただけますか?


クイギン:わかりました。本来ビットコインは、誰かがコンピューターで、極めて複雑な計算を山ほど行ったことを証明するものなのです。必要となったコンピューター使用時間に対して、資格を付与するものではありません――もしそういったものであれば価値を持つでしょう。ですが実際には、計算が行われたことを示しているにすぎません。ですからビットコインの外のどこを探しても、それを現金化できる根拠なんてないのです。ここで、米ドルを例にとって比較してみましょう。米ドルは、大統領の絵が印刷された紙切れです。ですが重要な点は、納税義務の遂行の際にアメリカ政府が米ドルを、有効なものとして受け入れると保障していることです。ですから人々がアメリカ政府を(例えばあまり多くのものを印刷しないであろう、などと)信用している限りにおいて、アメリカ政府の通貨には価値が備わりますし、もちろん商品通貨にもある種の価値が備わります。よってビットコインはこれらとは異なります。ビットコインは対外価値を一切持たないからです。誰もビットコインを欲しいと思わなくなれば、使い道は全くなくなります。ビットコインを創るのに費やしたコンピューター使用時間を、取り戻すことはできません。もう時間は過ぎ去っているのですから。だから本当に無価値なのです。