After World's End ~ハジマリはココから~
「さてとじゃあこっちも準備をしようか」
画面越しのもう一人の俺が動き出したのを確認して俺たちも動き出す。
「タクミ、時空間リンクシステムの最終チェックを頼む。隊長はその予想ルートの安全確認を他のみんなもよろしく頼む」
着々と準備が進んでいく中、携帯端末の中に居るパートナーをみる。
「なぁ俺は正しい道を歩いてこれたと思うか?」
「わかるわけない……けど、いい」
たったそれだけの会話、言葉足らずで無愛想なパートナー。だが、言葉が少ないからこそ重みがある。良くも悪くも……だ。
「最終チェック終わったけど」
「こっちもルート安全確認OKオールグリーンだ」
俺は軽く息をつき画面の向こうに声をかける。
「こっちの準備は済んだぞ」
「こっちも準備はも済んでる」
「「じゃあ始めようか」」
暗く。息苦しく。機械の出す不協和音が響く広い部屋の中に同一人物であって違う存在の重なる声が響く。
画面越しの俺は自分のパートナーと向かい合う。
「君にはつらい想いをさせると思う。これは俺が望んだことではないと言うことは出来ない。君たちが君たちであり続けるために世界が終わる前に別の世界との繋がりを強固にそして、確実に持たせるために。君に行ってもらわなければならない。頼めるかい?」
俺もよく知る彼女はこくんとただうなずく。
「私は多くの犠牲をだした……次は救う……番」
「頼んだよ」
もう一人の俺は軽く微笑む。俺はそれ以上見てはいられなかった。ただ後ろを向いてほんの少しの静寂を名残惜しく思いながらも断ち切るように口を開く。
「まずは向こうとの道を開く。世界間ネットワークポート開放、こちらのアドレスを通知は済んでいるよな?」
「とっくにすんでる」
指示を出す俺の後ろで向こうの俺の声が聞こえる。
「さぁ行くんだ」
複雑にそして乱雑に置かれた多くの機械が処理を始め唸りを上げるように動き出す。まるで巨大な機械仕掛けの人形が動き出すかのように感じると思ったのはやはりアニメの見すぎだったかな。
「コンタクトアクターの転送の開始を確認、状況は安定、問題はない」
「順調に行くといいが」
転送中の画面はどこかのゲームのようでひたすら続く1と0で出来たトンネルを一人の少女が進んでいく。うねることの無い真っ直ぐな薄暗いトンネルを……。
「コンタクトアクターの転送状態は50%を超えます。これより時空間ネットワークを開き過去ネットワークへリンクを繋ぎます」
「了解した、そっちの状況は大丈夫か?」
俺は一応、向こう側に確認を取る。
「こっちは大丈夫……いや、ちょっと待て、仮想世界に異常発生?何かがこっちのセキュリティを突破している!?おいっセキュリティ班何してたんだっ!!」
「こっちの正規コードを装ってすでに突破してたようだ。ずっと潜伏してたらしい。早急にやったせいで何かと穴があったのは確か。そこを突かれた!!」
「くそっウイルスじゃないことを祈るしかないか……」
画面の向こう側の俺と同じように俺も画面をじっと息を飲み込んで見つめる。今、転送が始まってしまった以上止めることは出来ない、彼女のデータを壊してしまう可能性があるからでバックアップを取ってはあるがそれを使ってもう一度一からやるには時間が無いと思われる。
「ANKNOWN、コースに入ります。画像にでますよ!!」
向こう側のオペレータの声が聞こえ俺はこぶしを握りながら画面を見つめる。
「くそっこんな大物がまだいたのかよ」
画面上に映ったのはとても大きく、何もかもを飲み込んでしまいそうな漆黒の色をした霧状の塊。形を持たないバグやジャンクデータの集合体によって構成されたウイルス。日本の妖怪から名前を付けられた通称"塵塚壊王"。削除しても一度に全てのデータを削除しない限り、周りのデータを破壊して取り込んで肥大化していく化け物。
「学習機能を取り込んでいたのか……」
画面越しの俺は頭を抱える。
「現在の転送状況は!?」
「現在、コンタクトアクターは時空間ネットワークルート内にすでに移行しており40%まで進んでいます」
「あのデカブツの方は!?」
「思ったよりも進行が早くすでにデータの半分が時空間ネットワークに移行しています」
「世界間ネットワークとの接続は切れないのかっ?」
「システムからの介入は無理です!!」
「一体どうすりゃいいんだよ……」