自室

「プツン、シュゥゥゥン」
 カナエはパソコンの電源が落ちるのを見届けて部屋の電気を消し、ベットに横になった、寝転がったまま枕元に置いてある時計を見る、21時を少し過ぎたところだ。
 普段ならまだパソコンに向って座っている時間なのだが、明日は同窓会があり新幹線で故郷に向う為、早めに寝ることにしていたのだ、ただ同窓会は夕方から始まる為、それだけならば昼過ぎの新幹線に乗れば十分間に合うのだが、こうして早めに寝て朝一番の新幹線に乗るのは別の理由があった。
 同窓会のお知らせは1ヶ月ほど前から来ていたのだが、同窓会当日の二日前、つまり昨日、レイカという友人から連絡があり、同窓会が始まる前に会いたいと言うのだ。
 レイカとは仲が良く、上京してからも一度会ったことがある、小学校から高校まで一緒だった事もあるが、それ以上に、ある秘密があったのだ。
 小学生の頃はそれほど仲が良かったわけではなく、ただクラスメイトというだけだったが、見た目は他のクラスメイトよりも小柄で知らなければ年下に見えるのだが、どこか大人っぽい雰囲気があったレイカをカナエは密かに尊敬していた。
 中学に入ってからはクラスは違っていたが、帰宅方向が一緒だった為、たまたま帰り道で一緒になるうちに親しくなっていき、中学の2年生になる頃には校門で待ち合わせて毎日一緒に帰るようになっていた。
 元々カナエ自身も交友が広い方ではなく、少人数、もしくは一人で静かにしているのが好きだった為、落ち着いた雰囲気のレイカとは気が合ったのだ。
 二人の秘密となる事件が起きたのは2年生になって少し経った頃だった、その日は雨が降っていたがいつも通り校門の前で待ち合わせてレイカと一緒に帰宅していた。
 晴れの日は自転車で登下校しているのだが、雨の日はバスを使っており、バス停まで一緒に歩いている時の事だった。
 中学校とバス停の間には小さな住宅街があり、住宅街の中の細い道を傘をさして二人で歩いていく、もうすぐで住宅街を抜けて広い道に出る所で時計を見ながらレイカが言った。
「バス、もうすぐ来るね」
 そう言うとレイカは小走りで広い道に出ようとした、その瞬間、住宅街の先にある広い道から曲がろうとした車がスリップし、横向きのまま住宅街側の細い道の脇に激突する光景が見えた。
「待って!停まって!」
 カナエは慌てて叫んだ、レイカはびっくりした様子で足を止めた、振り向いてカナエのとこまで戻ってきて声を掛ける。
「どうしたの?」
「キィィィィ!ガシャァン!」
 レイカが声を掛けたのとその音がしたのはほぼ同時だった、レイカはまた慌てて振り返る、カーブを曲がりきれなかった車が、道の脇に激突していたのだ。
 カナエはその激突した車の方を呆然と見ていた。
「カナエ?カナエ!」
「レイ、カ、よかった、」
 レイカに声を掛けられて気付いたようにカナエは安堵の表情を浮かべる。
「今の、わかってたの?」
「ううん、そういうわけじゃないけど、たまに、見えるの……」
 カナエには昔からこういう事が時々あった、既視感(デジャヴュ)に似ているがそれとは明らかに違っていて、見えた様子がその少し後に実際に起こるのだ、その少し先の様子を呆然と見つめているうちに、つまづいて転んだり、壁にぶつかったりしていた。
 その事があってからレイカの家に行く事が多くなり、そこで裏返しにしたトランプを当てたり、箱の中身の物を当てたりだとかしているうちに、ある程度意識すれば意図的に少し先の様子を見れるようになっていた。
 今ではその特訓(?)の成果を利用して、パソコンに向ってグラフの上がり下がりの先を見てお金を稼いでいる、年齢のわりに良いマンションで生活しているのはそのおかげだ。