同窓会

「カチッ」
「ジリリリリリリ!」
「リリリリリリリ!」……
「バチッ!」
 目覚まし時計を止めて起き上がる、今日は同窓会に向かう予定だ、手早く準備を済ませ駅に向かう、新幹線に乗り、電車を乗り継ぎ、途中で旧友のサトシに会い、同窓会の会場に着いた。
 俺は一番入口に近いテーブルの奥のソファーに座った。
 この席を選んだのには理由があった、仕事(?)柄、椅子に座っている事が多く、飲食店にあるような背もたれの硬い椅子に長時間座っているのは正直堪えるのだ。
 席に座ってからもしばらく人は増え続けていた、入口の方を見ていると皆同じ様にレジの前でアキオと挨拶を交わし、それぞれ席に座っていった。
 俺は目の前を通って行く古い友人に挨拶したり、顔を見て名前を思い出したりしていた、アキオが出席を取っていた紙を見ながら何やら人数を数えているのを見て、そろそろ始まるかと思っていたらまた扉が開いて誰かが入ってきた。
「カラン、カラン」
 扉に付けられた鐘が音を鳴らす、入ってきたのは、背が小さくて、髪が長い、女性、俺は後姿を見ながら名前を思い出していた。
 先に来た人と同じようにアキオと挨拶を交わしている、横顔を見てみたが遠くてまだ誰だかわからない、先に来た人も小学校卒業以来顔を見た事がある人は殆んどおらず、挨拶して名前を聞いて思い出す人が殆んどだった。
 女性はアキオに遅れてきた事を誤っているらしく細かく頭をさげていた、特徴的な動きだ、思い出しそうになってきた。
 やがて挨拶は終わったようで女性はこちらの方に歩いてきた、どうやら最後のメンバーだったらしくアキオもその数歩後を歩いてくる。
「きゃっ!」
 突然、女性が前のめりに転んだ、先に席に付いていた人達の視線が集まる、女性は起き上がり照れくさそうに頭を掻いていた。
 その仕草をみて完全に思い出した、カナエだ。
 俺は小学校の頃に見たまったく同じ様な光景を思い出していた、その日もカナエは遅刻して教室に入ってきた、そして同じ様に自分の席に向かう途中で転倒、起き上がって照れくさそうに頭を掻いていた。
 カナエは軽く会釈をして俺の目の前の席に座った、どうやら空いているのはここだけらしい。
 やがて皆の手元に飲み物が配られ、アキオが乾杯をして宴が始まった。
 俺は運ばれてくる料理を食べながら昔の友人と裏山、秘密基地、小学校での出来事、近況などの話で盛り上がっていた。
 正面に座っていたカナエも、時折別のテーブルに行ったり友人と話しているようだった、小学校の頃の人付き合いは基本的に同姓同士で、見渡すと大体男同士、女同士で話し込んでいた。
 同じ席なのに何も話さないのも気まずいと思い俺は正面に座っていたカナエに声をかけた。
「え、とカナエさん?」
「え?あ、はい」
「よかった、久しぶりすぎて名前間違ってたらどうしようかと思った」
「小学校以来会ってないと流石に忘れそうだよね、ディー君かな?」
「そうだよ」
 当たり障り無く互いの近況を話した。
「へー、じゃぁ今東京に住んでるんだ」
 俺は素直に感心した、今日この店に入って来た時に転んだように、俺のイメージではかなりドジな女の子だったのだがカナエは地元の短大を卒業後、上京して就職していたらしい。
「じゃぁ仕事とか家でパソコン使ったりする?」
 ついつい得意な内容に話を持っていってしまう。
「ん~あまり得意ではないけど使ってるよ、家でもネットで買い物する程度、かな」
「へーじゃぁ結構パソコン触ってるんだ、メッセーンジャーとかは使ってる?」
「メッセンジャー?ああ、会社の人に勧められてインストールはしたけどあまり使ってないかな」
「せっかくだから使おうよ、じゃぁ、、、」
 そこまで話した所でアキオが立ち上がって手を叩いた。
「パン、パン、」
「はい、注ー目ー」
 アキオは何やら紙と鉛筆を配り始めた、どうやら皆の連絡先を集めるらしい、ちょうどいいと思い俺は1枚余分に紙をもらい自分のメッセンジャーのアドレスを書いた。
「はい、じゃぁこれ俺のメッセンジャーのアドレス」
 俺は紙をカナエに渡した。
「なにかわからなかったら電話して、番号も書いてあるから」
「あ、ありがとう」
 カナエは紙を受け取ると少し眺めてバックにしまった。
 俺はそれを見てもう1枚の紙に自分の連絡先を書いてアキオに渡した、カナエも自分の連絡先を書いてアキオに渡していた。