アカデミー賞外国語賞受賞した「おくりびと」。私はどうしても職業柄、文学作品を思い浮かべてしまうのだが、これまた偶然にも少し前に話題を呼んだ直木賞受賞作の「悼む人」。どちらも共通していることは日本人の死生観を扱っている点である。ほぼ同時期に評価された、この死について真摯に向き合った両作品から私はなにかのメッセージが込められているように感じる。

 もともと日本人が教養として身につけていた死生観は完全に失われている。こういう話になると論理というよりも感覚的になってしまい、なんの根拠もないのだが、文学で見直され、映画で評価された日本人の死生観をいま一度考えるべきときにきているようでならない。それが日本再生のきっかけになる根本的な思想であるかもしれないし、死という危険を伴った地震や飢えの予見かもしれない。ただ作品を通じて、死という人間の原点の思想を哲学者や専門家以外の一般のわれわれが考え直す契機となったといえる。

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