皆さん、運転代行事業者はお客の車・搭乗者を保障する受託自動車共済(保険) =代行共済(保険)と通称されます= に加入し随伴車両を単位として掛ける法的義務があるのをご存じですか。
一般の方にも、運転代行事業者にも、保険(共済)について改めてご理解いただくため「知っておきたい自動車共済の基礎知識」をご紹介します。
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知っておきたい自動車共済の基礎知識
   櫻井不二雄

◆1  一人は万人のために万人は一人のために
 事故や災害が発生する確率は、一個人や一企業から見るとかなり小さいのですが、万が一(運悪く)事故や災害に遭遇すると甚大な損害・損失を被り、個人であれば生活が困窮し企業であれば経営破綻する重大な危機に直面します。
 この「確率は低いが、深刻な損害をもたらす事故・災害」に対処するには、共済(保険)の基本法則である「大数の法則」を活用し、多くの人や多くの企業が集まって相互扶助の仕組みを作ることが特効薬となります。この原則が「一人は万人のために万人は一人のために」という共済の基本精神に繋がります。
 皆様の事業で交通事故が発生し、共済組合から共済金支払いを受ける場合、共済加入の他の多くの方々に助けられていることになります。
 皆様が共済組合に掛金を支払うことは、不幸にして万が一の交通事故に遭ってしまった組合員のために手を差し伸べていることになります。
 組合員ひとり一人は平等に共済組合を支え、共済組合を通して組合員ひとり一人の危機と経済的損失を保障するのです。共済組合はそのために内部留保(事故に備えた蓄え)を充実し、公平な運営に心がけ安心のサービスをお届けすることが重要です。

◆2  世界のロイズの信用
 保険の発祥として有名なロンドンのロイズは、個人や法人のネームと呼ばれるリスクの引受者が集まる保険引受協同組合組織です。現在世界の様々なリスクを引き受けて保険市場では大きな影響力を持っています。
 このロイズには、その信頼性を示すエピソードが幾つもあります。その一つに1906年に発生したサンフランシスコ大地震でサンフランシスコ市が壊滅的な被害を被ったとき、当時の保険業界で保険金支払いの有無責に関して様々な見解が出される中、ロイズはいち早く契約金額全額の4000万ドルを支払って、被災者を救いました。
 これによって、ロイズの信頼性と名声は世界で不動のものとなりました。このエピソードではロイズが地震という新しいリスクに挑戦し、契約通りに保険金を支払うということに焦点が当てられますが、実はその巨額な金額を即時に支払えたという充実した財務力を持つことがポイントです。ロイズの引受者であるネームは、事故が発生した場合は自らの全財産をシャツのボタンに至るまで処分して支払金に回すと言われています。共済組合も如何なる状況下でも共済金を支払えるよう日頃から財務力を強化しておくことが重要です。

◆3  料率の話
 火災保険、自動車保険などノンマリン(海上保険以外)の保険(共済)料率は、1000円に対する料率(‰=パーミル)で表わされます。例えば通常の住宅の火災保険年間料率は、1‰~2‰(即ち1000分の1~1000分の2)程度です。これは別の見方をすれば、皆さんの家が火災に遭う確率は1000年に1度~2度ということです。日本人の平均寿命は約80年ですから、殆どの方は生きている間に火災に遭うことは無いということを意味します。しかしながら、1000年の1度の1年が今年なのか?1000年後なのかは分かりません。最も運の悪い方は、いくら1000年に一度と言ってもそれが今年であることになります。それは誰にも分らないので、火災保険を手配することは、生活を守るとても重要な手段になる訳です。
 ところで一般の自動車保険(共済)では、料率上の確率は、20年に1回程度と考えられます。そうしますと平均寿命の80年生きる方は、生きている間に80年÷20年=平均4回交通事故に遭うことになります。
 従って、自動車保険(共済)は、現在の私たちの生活にとってとても身近な存在と言えます。

◆4  予想最大損害の話
 個人にしろ、会社にしろ、また保険会社や共済組合のようなリスクそのものを扱う事業体にとっても、自らを囲んでいる潜在リスクのリスク量がどのぐらいのものか検討しておくことは、万が一の大事故や大災害の際に冷静で的確な対応を行うために必要な事項です。
 即ち「リスク量を評価し、予想最大損害額を明らかにしておく」ことはリスク管理の基本となります。
 例えば、個人事業で考えれば、火災、台風や大水害に遭った際の損害額、自動車事故を起こしてしまった場合の高額賠償金額、病気やけがで本人・家族が死亡、長期入院した場合の医療関係費、事業を継承するための諸費用等々、様々な事態と最悪の被害額を想定して、保険を付けたり、預金・年金に加入したり、危険を承知したうえでリスクを保有(自分で覚悟して抱える)したりと対処します。
 さて、運転代行業における共済は、どのぐらいのリスク量を抱えているのでしょうか?
 巨大な災害や重大な事故、統計的に考え得る事故が一度に起こる集積損害などを検証し、想定される最大損害額を予想しておくことが全ての基本になります。皆さんもときどきは考えてみてはいかがでしょうか。

◆5  自家保険(共済)の話
 世の中で「保険料が高いし、事故もめったに起きないから保険は付けずに自家保険でやっている」というお話を聞くことがありますが、これは「自家保険」ではありません。
 「自家保険」とは、自らのリスクの実態を分析し、リスク量を評価して、保険料相当分の金額を会社の中に積み立てて、災害や損害に備える財務的方法のことを言います。これを日本で行いますと税法上その保険料相当分の積立金は損金では落ちずに有税積立となります。
 このようなリスク分析と有税積立を行わず、ただ単に保険料をケチっているだけの法人・個人は「自家保険」ではなく、単なる楽観的無責任者と言うべきです。
 「自家保険」は、大企業はともかく一般の事業者や個人には現実的には無理です。しかし、それを多くの事業者や個人が集まって、自ら資金を供出し、自らのリスクに備えることはできます。その一つが共済組合です。共済組合は、正に組合員が協力して自らリスクに備え、お互いに支え合う独立自治の「自家保険」と言えます。

◆6  リスク管理の話
 法人組織・事業体の経営課題の一つとして「リスク管理態勢の強化」がよく言われます。「リスク管理態勢の強化」とは、簡単に言えば、①その組織・事業体の抱えるもしくは取り巻くリスクの種類とリスクの量を評価・分析すること。②そのリスクが顕在化しないように防止策の実施や諸規定や行動マニュアルの整備及びリスク管理責任体制の明確化などルールを定め、周知徹底すること。③そしてそれらのマニュアルやルールが遵守されているかを自ら点検し、要すれば規定やルールの改定も行える自浄能力を持った強い管理態勢を維持することです。さらに重要なことは、最悪の事態を想定して財務的備えを準備しておくことになります。
 共済組合も具体的にリスクの実態を把握し、損害率の安定策を検討実施するとともに、少々の危機的事態が発生しても、万全の態勢でしっかりと対応できる財務的基盤を強化していくことが必要です。そのためには補償に見合った共済掛け金の収納と適正な共済金の支払いを徹底し、内部留保を共済が抱えるリスク量に対応できる一定水準まで積み上げて行く不断の努力が求められます。
 将来に備えた内部留保を着実に養うこと、リスク量を低減させることが共済事業の根幹です。組合員一人一人がよくこれを理解することがよい共済組合をつくることにつながり、利用者保護を万全とした事業の信頼と発展につながります。

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著者:櫻井不二雄   三井住友海上火災保険でアブダビ事務所長兼テヘラン事務所長、欧州中東課長、三井海上インドネシア㈱取締役などを歴任の後、MSTリスクコンサルティング㈱管理本部部長兼国際部長兼監査室長、朝日不動産鑑定事務所取締役を経て、2012年から保障制度コンサルの㈱モモズプラネット取締役。併せて2013年から全国運転代行共済協同組合理事にも就任し運転代行共済のリスク判断やコンプライアンス等の指導に携わっている。