「は、はー、母が亡くなったんです。」
<はい、わかりました。大丈夫ですよ、落ち着いてください。
すぐに、お迎えに行かせていただきますから。>
「あ、是非、すぐに、来てください。お願いしますわ。じゃ。」
<あ、もしもしー、いえ、今、どちらからですか。
どちらに、伺えばよろしいですか。>
「あ、そうか、ここは、○○区の△△病院で、えっと、ここは、え、3階?
そ、3階ですわ。」
<わかりました。で、お名前は?>
「え、ぼく?」
<できましたら、お母様のお名前を・・。>
「それは、田中きみこ です。」
<できるだけ、早く行かせていただきますから、それまで、看護士さんの指示に
従っていてください。>
到着。
「あ、ここ、ここ。」
<お家に帰られますか?>
「あかん、家は、狭くて・・。」
<では、ご安置できる会館に、お連れしましょうね。>
「あんたとこ?」
<そうです。弊社の会館に。
今は、このような深夜ですし、一旦、弊社にお連れして、
今後のことを、ご相談しましょうね。>
「今後のこと・・。あ、そうか、葬式のことやな。
お金は、無いで。」
<わかりました。そのことも含めて、ご相談させていただきますね。>
「そこに連れて行って預ってもらうのに、お金はかかる?」
<・・・大丈夫です。安置料はいただきませんから・・。>
「ほな、まかすわ。」
・・・・・・・・・
ご安置も済み、手も会わせないうちに、
「それで、葬儀屋さん、相談やねんけど・・。」
<はい、何でしょうか。>
「これー、うちは、おふくろとぼくだけで、他には、誰も来えへんねんわ。
葬式みたいなことも必要無いし、というか、お金も無いし。
無いというか、ゼンゼン無い。今、ほんと、3000円しか、無いねん。
と言って、このまま置いとくわけにもいかんし・・。
で、葬儀屋さん、ちょっと、立て替えといてくれへんやろか。」
(え? 何ですと?立替って・・。えー。)
<あ、いえ、ちょっと、それは・・。
こちらも少し、お聞きしてよろしいか。
あの、お母様は年金でご生活でしたか?まだ、70歳代のようですし、
お若いですよね。それと、息子さんとは、ご同居ですか。
息子さん、お仕事は?>
「そう、母親の年金で、二人で暮らしてました。
ぼくは、仕事を探してますが、こんなご時世でしょ、仕事が無い。
働きたくても雇ってくれない。もう仕事探して2年になるけど、
あかんねん。病院代もようさんいるし。」
<今月は、確か、年金が振り込まれる月ですよね。
まだ、お日にちも経ってませんし、いくらかは・・。>
「だから、言うてますやん。病院代や、他の支払が多くて、
生活費も出ない状況で、今、手元にも現金が無いって。」
<ああ、すみません。他に頼るお方はいないのですか。>
「あったら、こんな話もしないでしょ。どないにもならん。
もう、明日から、どうやって生活していけばええんやろ。」
(って、怒られても・・。
しかも、明日の生活より、お母さんをどうするおつもりですかね。)
<あの、ご事情は、よくわかりますけど、ちょと待ってくださいね。
先ず、お母様のことから、考えましょか。
落ち付いて、ご親戚が無理でしたら、ご友人とか、お知り合いとか、
ご相談のできるかたに、先ずご相談ください。
今、私にお伝えになったように、お話ください。
ね、そのかたたちがどうおっしゃるか、よく聞いてください。
私は、何日でもお待ちして、お母様は、お預かりいたしますから。>
「そんな・・、何日もって、この人が痛んでしまうでしょ。」
<・・仕方がないですね、あなたのお考えのスジが通っているか、
それで、いいのか、ゆっくりお考えください。
それから、方法をもう一度考えましょう。>
「ほな、こっちの言う事、聞いてくれへんの?
お金、貸してくれへんの?火葬できひんやん。」
<いずれにしても、明日の火葬は無理ですよ。
24時間後ですからね。落ち着いてお考えください。
明日、またご連絡ください。では・・。>
・・・・・・・・・・・・・・・
その夜は、久々に眠れなかった。・・腹が立って。
お母さんがおかわいそうで・・。
次の日、
「葬儀屋さん、昨日はすみませんでした。
いろいろ、考えて、友達にも相談して、
なんとか、7万円作ってきました。
あとは、来週には、お支払しますから、
お願いしますわ。ヤクソクしますから、なんとか母親を火葬してやってください。」
<そうですか。・・でも、そうなると、あなたのこの後の生活は、
大丈夫ですか。>
「はい、なんとかします。なんとかせなあかんと思いました。」
<わかりました。ご相談をお受けします。>
・・・で、無事に火葬は終わりました。
改心したお気持ちを大事になさってください。
出棺時のあなたの
「お母さん、生んでくれてありがとう。」と言った言葉を
私たちは、忘れませんよ。
★ あわてるとこうなる。
霊柩車にお棺を納め、いよいよご出棺。
「それでは、喪主様は、霊柩車に、
他のご親族は、供車の方に、お乗りくださいませ。」
「えらいこっちゃ、駐車場の家族の自家用車の前に
誰かの車が止まってて、出らへんで。」
「えー、ナンバーは何番?
会葬者に聞くわー。」
「えっとー、2134やでー。」
「申し訳ございません!こちらにいらっしゃるかたの
中で、2134のナンバーのお車をお持ちの方ー、
すぐにご移動をお願いしまーす!」
「・・・えー!誰も反応が無いでー!」
「何でやねん!その中にいるやろ!
2143の車や!」
「え!なんですと!
さっきは、2134って言うたやん!」
それは、返事もないはずですー!