徐々に、反発する者も下層から順にあきらめ、従うようになっていった。国をつくるのは民衆であり、所詮貴族は国のほんの一握りの人間でしかない。彼らはその時になって初めて知ったのだ。若きディース国王の強大な力。家系こそ良くないが精鋭ぞろいの側近たち。そして彼を信奉する中下級貴族の多さと、圧倒的な民衆の支持。数年で――実際には、内紛が表沙汰になる何年も前から培われてきたものだが、少なくとも彼らにはそう見えた——陛下は驚異的な力を持つに至った。

 多くの血が流れた改革もようやく成果が表れるようになり、新興貴族がよく治め、地頭がよく指導し、民衆も徐々に富みはじめた。長年続いた見せかけの富裕ではなく、本当の意味で豊かな、成熟した国家に生まれ変わりつつあった。そんなとき、世界を揺るがす突然の来訪者が現れた。

 陛下の足下に跪く、遠い異国の地からやって来た少女。
 そこから破滅のにおいがする。彼女自身からは、殺意はおろか敵意すら微塵も感じることはない。しかし、漠然としたとてつもなく大きな不安に襲われるのだ。わたしは術者としての素養はない。だからこれは予知ではないことは自分でよくわかっている。おそらく、彼女の透き透った美しい瞳の奥の闇に、自分の中の何かが反応し警笛を鳴らしているのだろう。

 少女の亡命の翌日、わたしは陛下から呼び出され、反逆者の探索を命じられた。
 命を受け、退室しようと扉に手をかけて、下ろした。振り返り、跪く。

 「どうした」
 「畏れながら、」
 「うむ」
 「すでにお察しのことと存じますので、わたしが申し上げるまでもないとは思いますが、・・・かの御方は不吉でございます」
 「わかっている」
 「本当に亡命をお認めになるのでございますか」
 「お前は反対か」

 陛下は執務室の椅子に座ったまま、愉快そうにわたしを見遣る。

 「陛下がお決めになることに、異存はございませんが」
 「確かにあいつは何かを隠している。わたしはそれを知りたくてたまらないんだ。だが、口が固くてな、なかなか喋りそうもない」
 「陛下、面白がっておられますね」

 わたしの苦言を無視して、陛下はさらに楽しそうな笑顔を浮かべた。わたしは驚いた。このような解放された表情を久しぶりに、本当に久しぶりに見たからだ。

 「ユリタス、知っていたか? わたしの兄の中には怒りの渦があった。それは行き場のない炎となり、外へ放出しても放出しても、自らの身体を焼き続けた。それと同じ炎をわたしも持っている。だが、兄と違うのは、その炎を御することが、わたしにはできたということだ。持て余したこともあったが、いつしかそれを御することを覚えた。兄が自分自身を焼き尽くした炎を、わたしは飲み込み操っている。だが、炎を飲み込んだ身体は、乾いて乾いて、今も潤うことがない」
 「陛下・・・」
 「いいんだ、ユリタス。苦しみを訴えているわけではない。ただ、もうすぐそれが終わる。この身が浄化される日は近い。そう思っただけだ」



 あの日からつかの間の平穏な時が流れた。やがて世界中に、この世界が終わると告げられ、そして必ずや転生すると教えられた。終わりの時が近づき、わたしは城中の中庭に出た。ここから陛下の執務室につながるバルコニーが見える。おそらく「その時」、陛下はそこに現れるだろう。
 偉大なる力によって、陛下とともに最後の瞬間を迎えられる至福を噛みしめた。