このベルヴェデーレでのレオナルド工房で行われた興味深いプロジェクトに「太陽熱利用」がある。
アルキメデスの有名な実験が示すように、太陽熱に関する古代の知識を応用して考案されたと思われる。
パリ手稿G34rにはこのような記述が残っている。
凹面鏡から反射した光線は、太陽そのものに匹敵するような輝きを持つ。
君は、鏡自体は熱くないのだから熱線を放射することはできない、というかも知れない。
この問いに私は次のように答えよう。
光線は本来太陽から発しているのだから、その性質はもともとの原因に似るのである。
そして、この光線は通過させたいと思うどんな物質をも通過することが出来る。凹面鏡から発せられた光線が金属製の炉の窓を通るとき、窓自体は少しも熱くならないのである。
同じくG84vには「サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂の上の球を固定したハンダ付けのやり方を思い出せ。」とあり、少年時代のレオナルドが師事したヴェロッキオ工房で、凹面鏡を使ってハンダを溶かすことを学習したことを示している。確かに電気もない時代に、100mを超える高所で熱を発生させるには太陽熱は便利かもしれない。続くG85rには出力出来る熱量の計算が書かれている。
また、パリ手稿Aにも太陽熱に関する記述があり、凹面鏡によって反射した太陽光線が熱を増す。一方、冷気は一定の距離から空気を送るふいごの数に比例して増加する…と熱の伝播について書かれている。

パリ手稿A 熱および冷気のピラミッド型伝播
アトランティコ手稿f1036avには鏡面研磨機の部品のスケッチと共に、ピラミッド型の機械について説明しており、それは非常に多くの力を一点に集めることで、水を沸騰させることが出来るとしている。
これらの機械は、まさしく太陽熱を集めるための凹面鏡を製作するための機械である。

アトランティコ手稿f1036av 鏡面研磨機のパーツ

アトランティコ手稿f17r 鏡面研磨機
アランデル手稿には「惑星の真の性質を知るためには、覆いを開けて基部のところにひとつの惑星を示すようにせよ。すると、基部から反射した運動がその惑星の諸特性を明瞭に示すであろう。」とあり、17世紀のグレゴリー式反射望遠鏡を予言する内容となっている。
ちなみにこの時期、レオナルドはローマにいたドイツ人鏡職人とたびたびトラブルを起こしているが、この研究の成果を巡っての争いだったと言われている。