暗いトンネルの先に見えたものは 9  | 脱!マイナス思考。~私の母はパチンコ依存症~

暗いトンネルの先に見えたものは 9 

暗いトンネルの先に見えたものは 8 からの続きです。



あの日はどんな日だっただろうか。

晴れていただろうか・・・・雨が降っていただろうか。

不思議と覚えていない。いや、もう心が忘れようとしているのかもしれない。




「今日、お母さんとこ行ってくるから。」


「ああ、誕生日だったもんな。俺のことは気にしなくていいから

ゆっくりしておいでよ。」


「ありがとう。プレゼントはお菓子にするよ。

きっと甘いものが食べたいだろうから。誕生日だしね。」


「電子レンジ、良いのなくて残念だったな。まあ、また今度にでもな。」


「うん。それじゃね。」




母には今日行くことは知らせていなかった。

突然訪れて驚かせてやろう。

誕生日プレゼントを見せたら喜ぶだろうな・・・・。


甘いものに目がない母のことを考える。

きっとこのお菓子は食べたことがないはずだ。これなら喜ぶだろう。と。

地元で有名な菓子屋へ行き、お饅頭を買った。


実家へ着いたのは19時頃。

家の明かりがついていないことに不安を覚えたが



「もしかしたら・・・職場の人と飲みにでも行ってるのかな?」








合鍵を使い中へ入る。

玄関にお菓子を置いておけば私が来たのだと気づくだろう。

そう思ってのことだった。


もしこの時

私がお菓子を持って帰っていたなら、家の中へ入っていなかったなら

今でも甘い甘い、夢を見ていられたのかもしれない。



「ん?」



目にした郵便受けには何通かの封筒が溜まっていた。

その封筒の形態に見覚えがあった私。

次の瞬間には封をあけていた。




返済期日を過ぎております―

残高¥300,000




私の目はおかしくなったのだろうか。

ヘンサイ?

ザンダカ?

サンジュウマンエン?


もう2度と見るはずのない文字が・・・数字が目の前に並んでいる。

母はもう消費者金融からの借り入れはないはずなのに・・・。



どうしよう。息がしづらい。


どうしよう。手が、体が震える。


どうしよう・・・・頭がおかしくなりそうだ。どうしよう。。。。。



とっさに家の中へ入り、そこらじゅう引き出しを開け書類という書類を見た。

公共料金の延滞通知。消費者金融への振込み用紙。

今まで何度見たか分からない、懐かしいものが姿を現す。



ああ、私はまた騙された。


母はまた借金を重ねていたのだ。



へなへなと床へ座り込むと

しばらく動くことも考えることも出来なかった。

放心状態だった。


玄関には私が封をあけた郵便が落ちていて

買ってきたお菓子が寂しそうにぽつんと置かれていて・・・


母の為にあれこれ悩んでお菓子を選んでいた数時間前には

想像すらしなかった現実に・・・もう、向き合う気力も残っていなかった。



「もしもし?」


「おお、今実家か?お母さん喜んでくれたか?」


「・・・・・あのね。。。」


「どうした?」


「・・・・・あのね。。。あのね。。。。

いやー・・あはは、はははは。。。。」


「・・・・・どうした!?おい、何かあったんだろ?」


「まだ何も言ってないじゃん。どうしたの?

お母さんいなかったからさ、今から帰るよ。」


「何か・・・あったんだな?」


「帰るから・・・・。じゃ。」




早く帰らなきゃ。

が、気持ちとは裏腹に体が異様に重く感じる。


鏡に写った私の顔は意外と普通で、冷静な顔だった。

涙の1つでも流すだろうこの状況でこの顔。


慣れたんだろうか私は。

裏切られることを・・・なんとも思わなくなったのだろうか。


けれど自分が買ってきたお菓子を見た瞬間、

どうしようもない怒りがこみ上げ、それを床に叩き落とした。


箱から出て、床に転がるお饅頭。


誰に対する怒り?

母に対して?それとも・・・自分自身に対して?


簡単に信じて・・・誕生日プレゼントまで買って・・・・

のこのこやって来た自分自身に対して?


今度は怒りが消え、冷静にその状況を見る私がいる。

笑いまでこみあげてくる。

もう、感情をコントロール出来なくなっていた。


帰宅し、夫へ見たままのことを話すと

夫は見る見るうちに顔が真っ赤になって怒りだし、

今からパチンコ屋へ行ってみようと言い出した。



「そんなことやめなよ。虚しくなるだけだよ。」


「じゃあ黙ってみてろって言うのか?

今、お前がこうなってる今!

お前の母さんはパチンコしてるかもしれないんだぞ!」


「・・・・お友達と飲みに行ってるかもしれないじゃん。」


「そんなわけないだろう・・・・まだ、まだ信じてるのか?ゆず。

借金が増えている。これは紛れもない事実だ。裏切りだよゆず。」


「パチンコ屋にいってお母さんがいたらどうするの?

引っ張り出して連れて帰るの?」


「当たり前だろう!」


「やっぱり・・・・。

そんなことしたって無駄だよ。叩こうが罵ろうが無駄。

今の貴方じゃお母さんを殺しかねない顔してるもん。ダメ。」


「俺は冷静だよ。」


「冷静じゃないよ。貴方はお母さんの顔を見たら絶対に飛び掛る。

私には分かる。」


「けど・・・・!」




プルルルルルルル・・・・・・。




「俺が出よう。」


「いや、私が出るわ。」




そして私は受話器を取った―


つづく。  ←いよいよラスト!