むしぱん と ケーキ | 脱!マイナス思考。~私の母はパチンコ依存症~

むしぱん と ケーキ

絶食が4日間。
流動食が7日間。
三分粥、五分粥、七分粥と
ご飯の状態が通常に近づくと同時に、私の体も通常に近づく。

あれだけ食欲がなかったのにね、
元気になると食べたいモノが浮かぶようになる。

不思議だ。

ご飯が一般食になる頃には、甘いモノが欲しくなった。

「お菓子は食べちゃいけないですか?」

私の問いに看護婦さんが笑う。

「元気になった証拠ね、良かった。先生に聞いてあげるわ。」

しばらくすると放送で呼ばれる。

「先生からお話があるって。カンファレンスルームに来てね。」

お菓子を食べたいなんて言ったから、怒られるのかな?

違った。

検査の結果を伝える為だった。

残念な結果だったけれど、お菓子は食べていいらしい。

「でもスナック菓子は油モノだから、ゼリーとかにしてね。」

売店の手前に電話ボックス。旦那様に電話する。

「お菓子食べていいって。でも検査結果はやっぱりダメだったよ。」

「・・・・・・。」

「これからお菓子買うんだ♪
結果なんていいよ、お菓子食べられるなら。」


「そうだな。早く元気になれよ。」

売店で蒸しぱんを買う。
ひどくヌルイ蒸しぱんを冷蔵庫へ入れた。

ショックだから食べられないんじゃない、

ヌルイから食べないんだ。



次の日は猛暑だった。
見舞いに来る人は皆、汗だくだ。
午後3時を回るころ、やっと私は蒸しぱんのことを思い出した。

「3時のおやつにし~よう」

冷え冷えの蒸しぱんにかじりつこうとしたその時、
廊下を歩く見舞い客と目があった。

「あっ!!」

旦那様だった。

「お前、何食ってんだ!!」

思わず、2人で笑う。
今まで考えてたこと、どうでもよくなった。

「せっかくケーキ買ってきたのにー。持って帰るぞ。」

「あっ、ケーキ!!これどうしたの!?」

「どうしたのって、買ったんだよ。いらないのか?」

「いるいる!!ありがとう!!
ってか買いすぎだよ、コレ。私まだ完全じゃないんだからさ。」


ケーキは4つもあった。

「そっか、そうだな。いつもなら平気だけどまだ病人だもんな。」

「ひどーい。せいぜい3つだよー。」



私の大好きなイチゴのショートケーキ。
外してないのはさすがだね。

ミスドでもスタバでも、自分で注文するのを恥ずかしがって
いつも私に頼んでいたあなた。


今日、どんな思いでこのケーキを買いに行ったのかな?


ショーケースの前で、あなたが恥ずかしそうに選ぶ姿を想像して
少し、にやけてしまったよ。




ありがとう。



本当にあの時、うれしかったよ。