◇取材・構成上阪 徹(ライター)

◇企画・園田雅江(株式会社gusiness代表取締役)



■こんなに採用費がかかるのかと驚いた



上阪 インターネットの時代になって、応募者が増加したという点はいかがですか?



大手商社 ここ数年ではみなさんが想像されているほど、商社への応募は増えていないと言いましたが、インターネット普及時代の前後(2000年頃)では、応募数はやはり大きく増加しています。そういう意味では、応募数は今の半分くらいで済むなら、そのほうがいいのかも知れません。



大手金融 待っているだけでは来てもらえない業界は、どれだけ多くの学生とコンタクトを取って、親近感を持ってもらうか、に大きなパワーをかけています。やはり母集団は多ければ多いほどいい。弊社は、まだ応募者が多くて困ってしまう、というようなステージには行っていませんね。だから、学生にじかにメッセージを伝えられる説明会に力を入れています。ワンシーズンで100回を超えます。



ただ、説明会告知は徐々にオープンしていきますが、あっという間に定員が埋まってしまうのが悩みです。半日たたず、場合によっては1時間以内で満席になることもありますから。もっと説明会を、という電話もたくさんもらうんですが、費用の問題もありますので。



大手商社 社内の別部門から異動してきて驚いたのは、採用や研修というのは、相当なお金がかかっているという事実です。もちろん必要な投資ですが、この額を稼ぐ苦労を知っている身からすれば、ちょっとびっくりしましたね。



園田 それだけお金をかけて採用活動を推し進めて、最後の最後で他社に持って行かれてしまったりしたら、企業としてはショックですよね。



大手情報 でも、優秀な学生というのは、どうしても他社と内定がバッティングするんです。だから悩ましいのは、内定辞退率が高くなるリスクです。それで弊社は早い段階での筆記試験での足切りをやめました。筆記試験では、応募の本気度がよくわからないですから。



つまり、筆記で足切りしてしまうと、特に弊社に強い想いがあるかどうかはわからないけどどの会社でも通用する、という学生が残る。そうなると最後は、超大手とのガチンコバトルになる。弊社にとっての「いい採用」「優秀な人材」ってなんだろう。そこを常に追求していかなければならないと考えています。



園田 最終的にお互いにハッピーに終わるためにも、自社について、正しく伝えていくことも大切になりますよね。



大手商社 正しく伝えることの難しさはやはり実感していますね。イメージを上げることと、現実を伝えるということにはやはり相反する部分がある。いかに看板に偽りなく、しかも弊社のファンになってもらえるか。ここは、すごく気を遣います。きれいごとだけを言うつもりはありませんが、とはいえ人事は会社のスポークスマンだとすれば、いい部分を見せたい。それが嘘でないなら、右から見たほうがカッコよければ、右からばかり映すわけです。



ただ、一緒に暮らすとなると正面からも見るわけですから、ちゃんと左側も見せておかないと。どのタイミングで、どういう順番で見せるのか、これがすごく難しいところだと思っています。



大手人材 難しいですよね。今は就職といっても、“就社”に近いわけです。これはこれで大事なことだと思うんですが、超大手ではない我々からすれば、やっぱりもっと仕事の軸にフォーカスできるような仕組みを作っていかないといけないと考えています。それ自体が、差別化要因にもなる。



ただ、営業の仕事がなかなか理解されていない、と先ほど言いましたが、学生の経験と仕事をどう結びつけるか、社会を知らない学生にどう仕事をうまくイメージしてもらうか。本当に難しいですが、そこに挑んでいかなければいけないと思っています。



■とにかくどこでもいいから潜り込め



大手金融 今年も就職活動が始まって思うのは、チャンスが一度しかない、ということこそ、日本の問題であり、大きな損失だということです。ロスト・ジェネレーションと呼ばれる世代のほとんどが30歳になりました。この世代の多くの若者がフリーターになりましたが、実は彼らの多くは今もフリーターのままです。彼らにとって、会社に就職するチャンスは人生でたった1回だったということです。恐ろしいと思います。



大学に入学するチャンスは浪人すれば何度もありますが、新卒で就職するチャンスは人生で本当に一度しかない。でも、当の学生たちはその事実を意外と軽く考えている気がします。とにかくどこでもいいから入らないと。中小企業だとか、なんとか言っている場合ではない。どこかに入っておけば、ステップアップできる可能性だってあるんですから。



園田 有名ではなくても、素晴らしい中小企業はたくさんあるのに、そこには見向きもしない学生が多い。どうしてこんなことになってしまうのでしょうか?



大手商社 大きな人生の方向性が作れる機会や仕組みが、もっと早くあったらいいのに、と思います。理想はやっぱり、ある程度向いているベクトルが早く確立されることでしょう。もしかすると、それは中学受験や高校受験の段階なのかもしれない。



もし義務教育が終わるくらいのタイミングで、自分の将来について、方向性がどっちに向かっていて、その先にはどんな選択肢があるのかということを、しっかり話ができたなら、その後がまったく違ってくると思うんです。そういうことを意識した上で勉強や進路の選択をすれば、学生生活も変わる。



ベクトルといっても、それは商社に入る、といったものではなく、もっとぼんやりとしたものでいい。途中でベクトルの向きが多少変わってしまってもいい。ただ、自分なりのビジョンのようなものがあれば、価値観がブレずに生きていけるのではないかと思うんです。



(第8回につづく)



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