今さらながら、性懲りも無く、またしても、ビートルズに関して、ジョンレノンに関して書かれた本を読んでいる。


 ビートルズやジョン・レノンやポール・マッカートニーに関する文章を今までどれだけ読んだかわからないくらい読んではいるが、それでも全然読み 切れていないのは確か。今さらながら知る事実が山ほど出てくる。



 そして気付いたのは、今までどちらかと言うと彼らの音楽に関して書かれた本は結構読んでいて、色んな事に熟知している筈だったけど、人間ジョ ン・レノン、人間ポール・マッカートニーに関して突っ込んで書かれた文章は意外と読んでこなかったと言うこと。



 本人や本人と近しい関係者が語る、上っ面だけなめた美事麗句で固められたストーリーに関してはその辺の雑誌でもどこでも目に付く。
 そういったもののキナ臭さはそれなりに感じているし、聖人君子として語られている人物程ドロドロしてんだろうなとは理解出来ているつもりだっ た。
 なのであえてネガティヴな史観に基づいた暴露本じみた本はあえて読まなかった。それを読んだところで彼らの生み出した音楽に対する自分の考え方 には影響しないだろうし、時間の無駄だと思っていた。



 しかし、その手の本に書かれているものも、それはそれで彼らの一側面を表しているものであり、ファンクラブの会報に書かれている様な美事麗句で 固められた表現では絶対に踏み込めない真実というのもそこにはあるだろうと思われる。


 最近読んだので特に面白かったのは、ジェフリー・ジュリアーノ著「ジョンレノン アメリカの日々」という本。

http://www.amazon.co.jp/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%AC%E3%83%8E%E3%83%B3-%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E3%81%A7%E3%81%AE%E6%97%A5%E3%80%85-%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%95%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%B8%E3%83%A5%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%8E/dp/487290172X


 ここに書かれている内容の元になったのは、ジョン自身が点けていた日記や、その時その時感じた事を自分の言葉で思うがままに吹き込んだテープ。 それらによってジョンレノンが過ごしたアメリカでの十年を、他者の目を通してであるが詳細にわたって綴られた記録がこの本だ。


 もともとその日記というのは1974~5年あたり、ジョンが荒れた生活をしていたいわゆる「失われた週末」時代に良くつるんでいたハリー・ニル ソンが持っていたものだと言う。
 その辺の経緯については眉唾ものと言えなくもないが、実際書かれている内容はジョン本人でなければ知らなかったであろう事ばかりだ。
 その日記、もしジョンレノン本人が書いたものと確定するならば、書かれている内容は一般的に知られているジョンレノン史を大きく覆す様なショッ キングな内容ばかりだ。


 それこそマスターベーションをするときのカキのタネまで日記には詳しく書かれているというのだから、オボコいファンは絶対に読んではイケナイ本 なのだ(笑)。



 個人的には晩年の5年間、いわゆる「主夫の時代」にジョンが何を考え、どういう生活をし、どういう思いで復活に向かっていたのかが一番興味があ るところだったけど、本当に今まで全然知らなかった事実がぼろぼろ出てくる。


 一般的にはヨーコと別居をし「失われた週末」で荒んだ生活を続け、その果てにヨーコと復縁し、子供が生まれ、セミリタイアし、子育てに没頭し、 そんな幸せな生活を5年続けた果てにレコーディング活動を再開、しかしその矢先に非業の死を遂げる。


 というふうにジョンとヨーコのラブストーリーではなっているが、実際のところはどうも違うようだ。



 相変わらずのドラック依存、過剰な性欲を持て余しながらもヨーコとの性交渉は彼女が拒絶していた事によって殆どなく、元の不倫相手であるメイパ ンとの関係は続けていたりあるいはその時々で適当な性処理の相手を見つけていたというし、精神的には鬱の状態が常態であり拒食症過食症を繰り返し、精神不 安から子育てを放棄したり、前婦との子供であるジュリアンレノンとの一向に埋間まらない溝に悩み、各国に旅行に行ってはムダに別荘を次々に買いまくり、 ポール・マッカートニーやジョージ・ハリスンとの関係悪化で葛藤したり、ヨーコ専属の占い師の言う通りに人生を歩まねばならない境遇を受け入れてしまう弱 さを露にしと、だいぶ小野洋子が語るストーリーと違う。長年に渡ってジョンの鬱や過剰な性欲に煩わされたヨーコは最後の頃には離婚を考えていて、近しい人 間にもハッキリと言っていたという。ヨーコ自身も浮気をしていたらしいし。



 ここに書いてある事がたとえ事実半分だとしても、ジョン・レノンという人間は本当にクソッタレた野郎である。こんなヤツとは絶対にかかわり合い たくない。
 


 しかし、だからこそ彼が残した作品は輝くのだと、あらためて強く思った。



 小野洋子がジョン・レノン・ブランドを永年残すために必至こいて紡ぎ上げたイメージ、感動的なジョン・レノン・ヒストリーも俺は決して嫌いでは ない。
 人間は年を取ればいい思い出だけが残っていくもので、そんなキレイゴトの思い出だけを繋ぎ合わせていけば、「イマジン」は聖歌の如く響くし、オ ノ・ヨーコとジョン・レノンの残した多くの前衛的とされた作品も、ちょっと風変わりだが、音楽の古典となって残っていくのがそれほど悪い事だとは思わな い。
 


 しかし、ジョン・レノンはそんな聖人君子ではなく、一人間としてはとてつもないクソッタレであったからこそ、世界の人を魅了し、そして消費し尽 くされた。精神が摩耗し、狂人と成り果てるまで。
 しかし自分が狂人である事を隠さないにしても、うまくオブラートに包んで痛快なロックにした作業を出来たからこそ、ロックスターであり続けた。



 狂ってなきゃ「ジョンの魂」は生まれない。弱くて猜疑心の固まりでなければ「イマジン」は生まれない。単純で熱しやすく冷めやすい人間でなけれ ば「サムタイム・イン・ニューヨーク・シティ」は生まれない。夢想家で嫉妬深くて時流に流されやすくなければ「ヌートピア宣言」は生まれない。だらしなく てロクデナシでなければ「心の壁、愛の橋 」は生まれない。他人任せで酔狂で過去にこだわり続ける様な人間出なきゃ「ロックンロール」は生まれない。女房に人生を支配され、もがき逃れようとしなけ れば「ダブル・ファンタジー」は生まれない。



 
 ロックンロールのコアを抽出し、それが天文学的成功を手に入れた途端、栄華に溺れて狂い、落ちぶれたあげく、無謀にも復活し、あげく殉職し、永 遠の存在に祭り上げられてしまうという、後にも先にも無いであろう狂った傑人としてのジョン・レノンの人生の裏史観を、これほど興味深くもって読んだのは 初めての事だった。
 


 最後に、この本には本人や関係各位のアジな言葉が溢れているので、帯のたたきからではあるけど引用を。




 父さんはいろんな点でマッチョを気取ったブタ野郎だったし、本人もそれを自覚していた。それでもいいかなと思えた理由はただひとつ、父さんが自 分でそれを認めるだけの器があったってことだよ。それがあの人にとっての救いだったんだ。そういう自分を克服しようとしたんだ/ショーン・レノン



 父さんについて知っていることなんて、あなたたちと変わらないよ。なんともひどい話さ! 父さんは、世界に向かって愛と平和を語ることができた けど、おそらくは本人にとっていちばん大切な人たちに向かっては、愛と平和を顕現して見せることができなかったんだ……愛と平和を語るそのいっぽうで、家 庭を崩壊させ、意思の疎通を図ろうともせず、不倫の果てに離婚だなんて、どうすればそんな真似ができるんだろう?/ジュリアン・レノン



 ジョンは偉大な人物だ。でも、彼の偉大さは、彼が聖人ではないという点にもあるんだ/ポール・マッカートニー


 おいおい、俺は神さまじゃないってば!/ジョン・レノン