冲方 丁(うぶかた とう)さんは、1977年2月14日生まれ。
日本の小説家、脚本家。本名は藤野峰男。
「冲方丁」というなかなか読めないペンネームは、18、19歳の頃につけたもの。高校の時に渋川春海(しぶかわはるみ)という江戸時代に暦の研究した人物について調べてレポートにして、その時に自分の生まれた1977年が、昔の暦で巳丁(ていし)ということを知る。「丁」が火が爆ぜるという意味と知りこれを名前にし、「冲」というのは氷が割れる音という意味、「方」は仕事という意味、というので組み合わせてネーミングしたもの。
岐阜県各務原市生まれ。エンジニアの父の都合で4歳から9歳までシンガポールで過ごす。一時的に日本に帰国して、ファミコンと『ドラクエ』の洗礼を受ける。すぐまた10歳から14歳までネパールで過ごす。
そのため、日本語より英語で小説を書いたのが先という変わった経歴。10代の前半のインターナショナルスクールで日本アニメの『アキラ』や『風の谷のナウシカ』、『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』などを翻訳して友人に紹介するなどを通して物語を作るということに面白さを感じるように。
帰国し、のちに『ウォーターボーイズ』で有名となる埼玉県立川越高等学校に入学。
友人らと「仮想現実同好会」を作り、リレー小説などの活動をはじめる。
先輩から『天使の卵』(85年 スタジオディーン制作のOVA)を紹介される。
この作品、押井守(代表作 『機動警察パトレイバー』、『攻殻機動隊』)さんと元タツノコプロ、タイムボカンシリーズのキャラ設定やファイナルファンタジーシリーズなどのイラストで有名な天野喜孝さんという2人によって作られた奇跡的な作品。この作品を眠くならずに耽溺したというからすごい。
16歳で父親をがんで亡くす。
高校卒業時に角川のライトノベルコンテスト「角川スニーカー大賞」に応募し金賞を受賞。応募するきっかけは、賞の選考者の一人に尊敬する天野喜孝さんがいたことから。
小説で影響を受けた作家は、夢枕獏さんと栗本薫さん。 そのあまりに強い影響から逃れるために、『黒い季節』執筆時には、夢枕の分厚い『上弦の月を食べる獅子』を鋸で裁断し、大量の栗本の『魔界水滸伝』を焼却炉に放り込んだとか。
1996年19歳にしてデビュー作『黒い季節』刊行。そのイラストが天野喜孝さん。尊敬する天野さんにイラストを描いてもらうという栄誉を受ける。(ちなみに栗本さんのグイン・サーガ、夢枕さんのキマイラ・吼シリーズ等も天野さんがイラスト描いている)
早稲田大学第一文学部入学。この学校は、ものすごい数の作家や脚本家などクリエーターを輩出している大学(影響をうけた栗本さんもその一人)。ところが多くのクリエーターは中退しているの実情。そのため「早稲田大学文学部だけは(中退ということを)なぜか偉そうにしている」と筒井康隆さんの『現代語裏辞典』にも書かれている。
大学に通いながらゲーム会社で丁稚奉公(1週間2万円の給料で働く)。修行のためということだが、金銭的な意味もあったとか。SEGAでパソコンとネットを覚える。
その時のゲームの一つがドリームキャストの1999年『シェンムー 一章 横須賀』。このシナリオにたずさわる。SEGAのゲームということで、せがた三四郎こと藤岡弘、も一部声をあてているゲーム。このゲームは国内外で高く評価されて、映画監督のスティーブン・スピルバーグも評価したことでも知られる。
その後、漫画原作の野望を抱き、二年後の2000年に実現。それが『ピルグリム・イェーガー 巡礼の魔狩人』(作画:伊藤真美)。以後、『シュヴァリエ』(作画:夢路キリコ)、『激闘!! PSY玉県!!』(作画:山田秋太郎)、『サンクチュアリ THE 幕狼異新』(作画:野口賢)などの原作を手がける。
小説デビュー後の次作の小説は遅れ、『ばいばい、アース』はデビューから4年半経った2000年に発刊。発刊とともに4年間在籍した早稲田大学を中退を決意。(ちなみに大学に4年通って4単位しか取らなかったとか)
この『ばいばい、アース』で、造語をふんだんに用いた独特の言語センスと世界設定で注目を集める。
2002年に福島市出身の広告代理店に務める里砂さんと1年間の交際を経て結婚。
結婚式の日「別にあなたと結婚するわけじゃない。あなたの将来性と結婚したのだ」と言われたとか。冲方丁まだそれほど知られていなかった時代。才能が光っていたので、この金の卵を自分が舵取りすれば才能がひらけると奥さんは思ったとか。すごい先見の明。のちに冲方丁マネージャーとなる。
結婚と同時に奥さんの実家のある福島市でも生活するようになる。東京と福島市の二つを拠点として活動。小説の執筆はもっぱら福島県の家で行う。福島の土地があったのか、奥さんのマネージメントが良かったのか、この頃より、多数の小説を書くようになる。
2003年、早川文庫より出した『マルドゥック・スクランブル』で日本SF大賞受賞。
この作品、デビューした角川が拒否したので7社13人の編集者に打診したところすべてに断られた作品。内容より厚みが問題だったみたい。
SF界隈での評価を高めたこの『マルドゥック・スクランブル』は、サイバーパンク作品を翻訳された黒丸尚さんによる翻訳作品を意識した文体が用いられており、とりわけ終盤のギャンブルシーンの描写は絶賛されている。(しかし、サイバーパンクを読んだことなかったらしい)
この作品、一度2005年にOVAでアニメ化の企画が出るが中止となる。その後、2010年から3年かけて三作が映画館で順次公開され評判となる。この主役の声優さんが林原めぐみさん(女らんま、綾波レイ、灰原哀)。現在、この作品について、ハリウッドが実写映画化権を取得、うまくするとハリウッドで映画化なるかも。
しかしアニメ制作のデビュー作は、2004年の『蒼穹のファフナー』が最初。テレ東にて25話放映。
ノベライズ化する文芸統括という役割だったが、後半脚本にもタッチし低迷しかかった作品を救う。
1年後の2005年にはスペシャルが制作、6年後の2010年に劇場版が作られるなど根強い人気の作品。
この頃より、「小説」「アニメ」「漫画」「ゲーム」4媒体同時進行するようになる。
2006年には、テレビアニメ『シュヴァリエ』が放映。ゲームでは、シナリオを書いたXBOXの「カルドセプト サーガ」が発売。
2007年『ヒロイック・エイジ』放映。ストーリー原案、シリーズ構成、脚本担当。
2008年には、高校時代にレポートを書いた渋川春海を主人公とした異色な時代小説『天地明察』で吉川英治文学新人賞、本屋大賞、北東文芸賞を受賞。これにより第143回直木賞にノミネートされるも逃す。
2012年に実写映画化されて全国で公開し、大ヒット。
2011年『光圀伝』で第3回山田風太郎賞受賞。現在、この作品をNHKの大河ドラマにしようと水戸市をはじめとする茨城県の商工会が動き始めているところ。実現したら面白い。
現在、影響を受けた押井守さんも作ったことがある士郎正宗さんの『攻殻機動隊』の4度目のアニメ化作品、『攻殻機動隊 ARISE(アライズ)』シリーズの構成の脚本を担当。全4部作となるうちの第1部が今年の6月に公開し、第2部が11月に公開予定。
私生活では、2011年3月11日に発生した東日本大震災により福島市から家族とともに避難し、母と妹夫婦の住む北海道池田町に避難。
福島県にとっては、とても残念なことにたぶん十勝地方に移住する意向とか(Wikipediaによれば)。
原発事故で福島県在住の才能あふれる作家を失うことになりそうで残念。これからも作品を発表していって欲しいな。