深々と

粛々と


降り積もる白い結晶が



それは今にも

踊り出すかのように




だけどそんなことは

僕にはどうだっていいんだ



どうやったら貴女を

うまく抱き締められるか



そっちの方が、僕には重要だから













VS(バーサス)番外編

~真冬のダンス~












「へっ、くしゅんっ」


寒空の下、可愛げのないくしゃみをひとつ

すすりながら鼻先をウインドウ越しに確認すれば
少しだけ赤くなってる、決して高くはない鼻が写ってる


あともうちょっとだけ鼻が高かったら、とか
あともうちょっとだけお腹の肉が取れたら、とか

通り過ぎるスタイルの良いお姉さん方を見ては
今度はため息しか出てこないのが目に見えて、考えるのをやめた



『ないものねだり、じゃないですか?』



彼ならきっと、開口一番にそう言うだろう

努力して初めて手に入れられる悦びを、彼は知ってるから





指定された時間はとっくに過ぎている

むしろ時間通りに逢えた方が奇跡、だと思ってるから


これくらいのことは平気だけど



今日に限って数年に一度の大寒波が
ここ、東京にもやってきていて

そんな日に限って珍しく外で会おうと言ってきたのは
チャンミンの方から、というんだから悪天候なのも頷ける


こんなことばかり言ってるから
バチが当たって待ちぼうけを喰らってるのかもしれない



だけど、本当に嬉しかったんだ

相変わらず後輩グループのマネージャーとして
充実した日々を過ごさせてもらっているけど


日本と韓国、今年はいつも以上に行き来している彼が
遅くに我が家にやってきては…やることはまぁ…(それ以上は言わないでおきます)


そんな状態がしばらく続いていたから

純粋に彼から提案してくれたことが嬉しくて



小さい頃、雪国で育ったワタシとしては
これくらいの寒さはへっちゃらって思ってたけど

もう大分前に染み付いていた順応力なんてアテにならないものだ



とにかく…寒い




あまりの寒さに近くのカフェで待ってることも考えたけど
遅れるっていう連絡がないってことは、もうまもなくってことだろうし

たぶん、この雪で渋滞してることは確実だから
ここまで来るのに時間が掛かってるんだろう、と言い聞かせたものの



さすがに一時間経過は…寒い




ベージュのトレンチコートだけじゃ寒かったな…

前に来た時に彼が忘れてった赤いスヌード、借りてくればよかった…




しばらくずっとちらついていた雪がいつの間にか溜まっていて

さっと見渡すと足元は一面、白い世界がワタシを覆っていた



足元に広がる一面の雪を

一歩、また一歩踏み締めて音を立てる



キュッキュッ、と独特の音が鳴って

昔、故郷でも雪の降り始めによく感じてたことを思い出す



「この音、安心するなぁ」



人通りもまばらとはいえ、まわりから見たら
その場で地団駄を踏んでる変な人、と思われてるかもしれないけれど


なんとなく

このままずっと


踏み締めていたくて




ハラハラと舞い落ちる雪を見上げて佇んでいると

突如背中の方から聞こえた


安心する、その声



「貴女ね、何やってるんだか」



待ち人

ようやく来たりて



「踏み締めてたの、雪」

「まぁそうじゃないかとは思ってましたけど」

「ホントに?」

「徐々にここに近付くにつれて確信に変わりました」

「そう?」

「ヌナが変なことやってるな、って」

「まぁ変な人にしか見えないことは否定しないよ…」

「そこは少し否定してください」

「………」

「待たせたことは本当に申し訳ないですけど」



いいよそんなこと、って言おうと思ったけど

チャンミンの表情が本当に申し訳なさそうに曇っていたから



「ま、許してあげるよ」



わざと鼻につくような態度で
両手を腰元に当てながら、言った


フフって笑ってくれたから

きっと彼も分かってくれたんだと思う




「へっ…………くしゅんっ」



タイミングよく飛び出た今日二度目のくしゃみに
頭からつま先まで一度、ジッと見つめた彼が



「そんな格好で来るから」

「寒さにはこれでも慣れてるから」

「しかも待ってる間に変なことするからですよ」

「大丈夫だっ、」



言い終わる前に、チャンミンが巻いていた白いマフラーを

即座にワタシの首元にぐるぐるっと巻き付けて



「今は直接関係ないですけど、」

「え?」

「貴女マネージャーなんですから、風邪引かれると困りますからねアーティストは」

「………」

「………なに?」



ちょっとキツめに巻かれた首元を
苦しくないように少しだけ直したあと、

彼の耳元に回り込んで、そっと耳打ちするように囁いた



「…ありがとう」



風邪引かれたら後々困るのは僕ですから、って

聞こえないようにボソッと言ってるチャンミンの顔が


ほんの少しだけ赤く染まっていたような気がした



「ほら、行きますよ」

「うん」



サッと掌を取られたものの

しっかり指と指を絡ませあわせば


零れる笑みは太陽みたいにあったかくて

さっきまで凍えてたのが嘘みたいに思える




今宵もまた

貴方によって


溶かされていくのを期待して






どんなに寒くたって

となりに貴方がいれば


それでいい、から



***********************************

りんごのくににも本格的な冬将軍がやってきました。

今朝、久々に積もった雪を踏み締めて思いついた小咄です。


あの何とも言えない感覚が、好きです。



前回の小咄にコメントくださった皆様、ありがとうございました!
すっかりお返事を滞らせる名人となってますが、有難く頂戴しております!


さて、来週はおそらく今年ラストの遠征になりそうなビギイベ。

すっかり通い慣れたたまアリにお邪魔させていただきます。
今年はどんな楽しい時間が待っているのやら。むふ。