読者の皆さまには、いつも私のお話を楽しみにしてくださいまして、ありがとうございますひらめき電球


さて、少し時間がかかってしまいましたが、新作が出来上がりましたので、ぜひお読み下さい。

今回のお話は、お待ちかねの読者さまもいらっしゃるのではないでしょうかはてなマーク

キューブのオリキャラNo1の彼女を主役に据えた隙間のお話しです・・・ニコニコ


さらには、「天才の弱点」の続編的展開にもなっていますので、まだ「天才の弱点」をご存知ない方は、「Another story~ある愛の物語」 ←こちらを開いていただいて、「天才の弱点・全4話」をお読みいただいてから、こちらをお読みください。

ご面倒をおかけしてスミマセン・・・あせる


そして、タイトルをご覧になればお分かりだと思いますが、このお話は前編です。

後編もそうお待たせせずにアップできると思いますので、久々の「つづく」をご堪能くださいませ。


それでは、どうかお楽しみいただけますように・・・音譜


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    イタキス2 《14話》 より

   ~女神の秘めた力 <前編>~



私は、”彼”とある秘密を共有している。
それは、「守秘義務」という名の少々堅苦しい殻を被った約束。
だからこそ、決して誰にも知られることのない秘密を・・・


その秘密とは、”彼”の唯一にして最大の弱点・・・
それは、決して他人に心を開かない”彼”が氷のような理性の下に隠している、”彼女”への深い想いと愛情。


でも、私はまだ知らなかった。
”彼”が”彼女”を愛した本当のわけを。
そう・・・”彼”に様々な感情を与え、その心を呼び覚ました”彼女”の秘めた力を・・・





「えっ?・・・査問会議?・・・誰が?」
私は、デスクに広げていたカルテから顔を上げた。


「ちょっとぉ~やだ~一条先生ったら!知らないんですか?入江先生がですよ!・・・もう朝からどこもかしこもその話題で持ちきりですよ~」
桔梗幹ことモトちゃんがまったくのんきなんだからと呆れ顔で私を見た。


「だって、ここって閉じこもっちゃうと離れ小島なんですもの・・・」
私は、私の部屋であるカウンセリングルームをぐるりと見渡しながら答えた。


―へえ、入江先生が、査問会議ね・・・


モトちゃんに言わせると”のんき”な私でも、さすがに昨夜の出来事は知っていた。
夜中に車の事故による救急患者が同時に3人搬送されてきた。
その時の外科の当直医師は3人・・・しかしその内の1人は研修医の入江直樹だった。
研修医は指導医の指示なく患者への治療行為はできないという規則がある。
しかし、彼の指導医を含む2人の医師がそれぞれ患者にかかりきりの最中、容態が急変した3人目の患者に対して入江直樹はその禁を犯して手術を行った。

・・・というのが問題になっているらしい。


「入江先生の処置があったから患者さん助かったのに、もし何か処分でもされたらと思うとワタシ心配で・・・」
モトちゃんは、祈るように両手を胸の上で組みながら天を仰いだ。


「あら、琴子さんならわかるけど、モトちゃんが心配したってしょうがないでしょ?」
私は、涙目のモトちゃんに素っ気ない答えを返しながら目の前のカルテに視線を戻した。


「冷たいのね、一条先生!」
「だって、規則は規則ですもの・・・」


私の反応が期待外れだったのか、モトちゃんは「これ、次の患者さんのカルテです!」と言うと、デスクの端にバンっと音を立てながらファイルを置いてカウンセリングルームを出て行った。


私は、勢いよく閉められたドアを見ながら思わず苦笑した。
モトちゃんには、悪いけど査問会議の結果を私は別段心配する気持ちなどなかった。


―あの入江先生が、処分なんてされるはずがないじゃない・・・




私が、この斗南大学付属病院に臨床心理カウンセラーとして勤めるようになって、約半年が過ぎていた。
しかし、入江直樹という研修医がどれ程優秀で、将来を期待されているかということを知るのには1ヶ月という時間も必要なかった。


今では、何年も先輩の医師が、まだ研修医2年目の入江直樹に治療法のアドバイスを受ける姿を見るのも当たり前になっていた。
そんな未来の名医を、ましてや本当なら死んでいたかもしれない患者を助けたというのに、処分などされるはずはない。


確かに、病院もひとつの組織であるがゆえに、掟破りはご法度だろう・・・それでもせいぜい始末書の1枚も書けば済むことだろうと私は思っていた。



「入江先生が査問会議か・・・きっと琴子さんも大騒ぎね・・・」
私は、書き込みの終わったカルテを閉じると、椅子の背もたれに身をあずけながらつぶやいた。


目を閉じると、脳裏にはあの夜ICUのベッドの脇で、意識の戻らない妻をじっと見つめていた彼の姿が浮かんだ・・・


そう・・・あれはもう2か月以上前のことになる・・・

あの時、私は、彼の妻が怪我をしたことをきっかけに、思いかけず彼の心の中を覗いた。
非情なほどに理性的で、どこか感情が欠落してるように見えた彼の心は、ただ一点妻の琴子さんだけに向いていた。
私は、そのあまりに深くて重い愛情に感動と、ある種の怖れすら感じたのだけど・・・

それと同時に、また新たな疑問が浮かんだのも事実だった。



それは、あのどこを見ても平凡な女の子である琴子さんのいったい何が、IQ200の天才の心を掴んだのか・・・ということ。
琴子さんの入江先生に対する想いは、見てる方が恥ずかしくなるほど明け透けで一途だ。
そして、入江先生はそれを別段鬱陶しがるわけでもなく、照れるわけでもなくいつも見て見ぬふりを決め込んでいる様に感じられた。


しかし、あの出来事以来、私にだけはわかる・・・

彼がいつでも広く大きな心で彼女を支え、育て、守っていることを。


―そこが不思議なのよね~入江先生は、あの琴子さんのどこにそんなに惹かれたのかしら?


次の瞬間、私ははっと目を開けて壁に掛けられた時計を見上げた。
朝一番のカウンセリングの時間が迫っていた。


「いけない、いけない!・・・これを考え始めると、いつも仕事を忘れちゃう!」
私は、誰もいないカウンセリングルームで、思わず声に出してつぶやくと、モトちゃんが置いて行ったファイルに手を伸ばした。





それからすぐにカウンセリングを予定していた患者が訪れて、私はしばらく査問会議のことは忘れて仕事に没頭していた・・・
しかし、患者を送り出し、報告書を書き始めた頃、ふと廊下がざわめいていることに気が付いた。


―そういえば入江先生の査問会議は、終わったのかしら・・・


すると、突然ドアが開き、ノックもせずに部屋に入ってきた不躾者が、驚いて顔を上げた私の目の前でドサリとソファに腰かけた。

「紗江子ちゃーん!・・・あの野郎何とかしてくれよ~何でこの俺があんな生意気な研修医のために始末書書かなきゃなんないわけ?・・・」


―ふーん、つまり入江先生にはお咎めなしってことだったのね。



私は、目の前の侵入者に向かって、すぐに冷ややかな声で答えた。
「あら西垣先生は入江先生の指導医なんですから仕方ないんじゃないですか?…それに、その呼び方やめて下さいって何度も申し上げてますよね?・・・」


「もう、いつも冷たいな紗江子ちゃんは。デートしようとは言わないからさ、俺のこの傷ついた心を癒してくれるようなカウンセリングをしてくれないかなぁ」
西垣先生の甘えた声に思わず身震いした私は、彼を睨みながら「お断りします!」と答えた。



入江先生の指導医である西垣先生は、この病院No1の実力を持つ外科医だ。
背が高く、眼鏡を掛けた知的な容姿で、入江先生がやってくるまでは、ナース達の人気もNo1だったらしい・・・
ナルシストで女好き、誰かれ構わず声をかけては遊び人を気取っているが、実は意外に真面目な小心者で、さらには寂しがり屋・・・というのが私の見解。



「この病院で、俺の誘いに全くなびかないのは、紗江子ちゃんと琴子ちゃんくらいなもんだよ・・・」
西垣先生は、口を尖らせながら文句を言っている。
私は、適当に聞き流しながら報告書の続きを書いていた。

しかし、西垣先生は自分が言ったことではっとしたように私を見ると、さらに言葉を繋いだ。
「そうだよ!琴子ちゃんだよ!・・・なあ紗江子ちゃん。あの子は何者なんだろうな?」


「琴子さんが、どうかしたんですか?」
私は、作業を続けながら聞き返した。
すると、西垣先生は参ったというように苦笑いを浮かべながら答えた。
「あの子さ、査問会議の中に飛び込んで来たんだぜ。それも入江をかばってしゃべるしゃべる!」


「えっ?・・・琴子さんが会議室に?」
私は、ペンを置くと、思わず身を乗り出して聞き返した。


「おっ!やっと反応してくれたね・・・」
西垣先生は、にやりと笑いながらその時の様子を話し始めた。



会議の最中、おそらく琴子さんはずっと扉の向こうで様子を伺っていたのだろう・・・規則なんて関係ないと言い切った入江先生を、他の医師達が責めたてている時にいきなり飛び込んできたのだという。
入江先生を擁護するその必死な演説は、会議室にいた誰もが口を挟めないほどの勢いだったと西垣先生は言った。


「最初は驚いたけど、なんだか琴子ちゃんが必死で入江を守ろうとする姿にちょっとぐっと来ちゃったよ」
「その時、入江先生は?」
私は、なぜかドキドキと胸が高鳴るのを感じながら聞いていた。


「なんだなんだ?紗江子ちゃんも、入江の方が気になるのか?・・・ショックだなぁ~俺の方がずっと大人の魅力があるのに・・・」
「いいから、教えて下さいよ。その時、入江先生はどんな様子でした?」
私は、絡んでくる西垣先生の言葉をかわしながらその先を促した。


「うーん・・・そういえば、琴子ちゃんが最後に言った言葉が印象的だったな・・・その時、入江の顔を見たんだけど、あいつのあんな顔見るの初めてだったな・・・」



その時、琴子さんは入江先生をかばいながらこう言ったらしい・・・
『あの患者さん助かったんですよ!これから人生また生きて行けるんです。お医者さんって、先生方って、すごいんですよ・・・』
そして、その時の入江先生は、焦るわけでもなく、腹を立てて止めようとするわけでもなく、必死な琴子さんを見て穏やかに微笑んでいたらしい・・・


―なんてことなの!・・・琴子さんってそんなことが出来る子だったのね!


私は、西垣先生の話を聞きながら、ザワザワと鳥肌が立ってくるような感覚を味わっていた。


驚きと感動のあまり黙り込んでしまった私を、不思議そうな目で見ながら西垣先生がさらに言葉を続けた。
「なんかさ、琴子ちゃんの言葉を聞いた瞬間、自然と俺も医者であることを誇りに思ったな・・・なんか、そう思わせてくれるような言い方だったんだよ。その瞬間だけは、正直規則規則言ってるのがバカらしくなった」
西垣先生は、眼鏡の向こうの目を細めて少し自嘲気味に笑った。


「そうですか・・・ホント、琴子さんって健気ですね・・・」
「まあね。それでその後は、清水主任が入って来て琴子ちゃんを連れてっちゃったんだけどさ・・・そういえば清水主任も入江をかばってたなぁ。なんだよ~みんな入江の味方かよ~それで俺が始末書?・・・ああ~絶対納得いかないぞ!!」
西垣先生が、髪を掻きむしりながら悔しがっている・・・


しかし、私は抑えきれない思いのまま勢いよく立ち上がっていた。
「西垣先生!話してくださってありがとうございます!・・・これでわかりました。そういうことだったんですね!」


「えっ?紗江子ちゃん、何のこと?・・・俺、そんなにすごいこと言った覚えないけど・・・」
西垣先生は、目を丸くして私のことを見上げた。


「いいんですよ。気にしないでください。私にしかわからない話ですから・・・うふふ」



それから私は、再び愚痴をこぼし始めた西垣先生をなんとかなだめてカウンセリングルームから追い出した。

一人になって、じっくりと考えたかった。


―なんて素敵なの!・・・琴子さんは、氷の心をも解かす女神だったのね。


そして、とうとう私は理解していた・・・入江先生がなぜ彼女に惹かれたのかを。

それは、私自身がたった今西垣先生から聞いた話だけで、一瞬にして彼女の虜になってしまっていたからかもしれない。

どこか自分と似ているように感じていた入江先生の、琴子さんに対する想いを知っているからこそなお。


そして、私はやっと到達できた答えに大きな手応えを感じていた・・・



                                                 つづく



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さて、いかがでしたか・・・はてなマーク


実は、一条先生主観で、本編の隙間のお話しというのは初めてなんですよ・・・

さらには、前編には直樹も琴子も出てこないという暴挙・・・叫び


やっぱり本調子には程遠いですかね・・・あせる


それでも、少しはキューブの思う壺に落ちていただけたらいいのですが・・・にひひ

全体的なあとがきは、後編の最後に語らせていただきますね。


そうそう・・・実はキューブ日キスの西垣先生、なにげにお気に入りですラブラブ


ということで、次回もどうぞお楽しみに・・・音譜



                                          By キューブ