リクエスト第2回目は、いつもコメントをくださる神無月さんからのリクエスト
★11~12話にかけての、合宿で足を怪我した琴子をお姫様だっこでコートから出る
ところから再同居、琴子パパのお店でkissの顛末をおもしろおかしく話して聞かせる
直樹の気持ちを書いて欲しいというリクエストをいただきました★
今回、ちょっと新しい書き方に挑戦してみました
とはいえ、これはキューブの私事・・・今までにないシチュエーションで書いてみたのが
結構おもしろかったというだけのことなのですが・・・
神無月さんや、読者の方が気に入ってくださるか、アップ直前はいつもドキドキです。
どうか、楽しんでもらえますように・・・
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
~夢の中で~
琴子が家を出て行ってからというもの、オレはどうかしている・・・
普段見向きもしない、テニス部の練習に顔を出してみようなどと思ったり、須藤先輩の策
略にのせられたとはいえ、合宿に参加したり・・・
<そうさ、お前は琴子が気になってしかたがないのさ・・・琴子をそばに置いて、ずっと見
ていたいんだよ>
ふいにどこからともなく声が聞こえた。
なぜか、その声には聞き覚えがあるような気がしたが、誰の声か思い出せなかった。
「誰だ?!」
あたりをみまわしたが誰もいない・・・
<さあ、誰かな・・・でも、お前が知らない、いやお前が見ようとしないお前の心を知ってい
る者さ・・・>
その声は、とても穏やかに、それでいて淡々とオレに話しかけてきた。
「何が言いたいんだ?」
オレは、声の主に向かってたずねた。
<お前は、琴子のことが好きだってことだよ・・・>
「そ、そんなことがあるわけないだろう!」
オレは、驚いて言い返した。
<それなら、どうして琴子にかまうんだ?・・・好きでもないなら放っておけばいいのに、
なぜ、合宿中ずっと琴子の替わりに食事を作り続けたんだ?>
「そ、それは、そうしなければ夜の特訓ができなかったからだ!」
そうさ、オレが作ってやらなければ、あいつのまずい料理を毎日食べさせられる羽目にな
るところだったじゃないか。
<それなら、どうして須藤先輩と琴子が仲良く話しているところに割って入ったりしたんだ?>
「割って入ったって・・・それは、次の日が試合だったから最後の練習をしなけらばならな
かったからだ!」
<お前は琴子に好かれていることが鬱陶しくて仕方がなかったのだから、琴子が須藤先
輩と仲がよくなれば好都合だったんじゃないのか?>
「えっ?・・・そ、それは・・・」
オレは、何も言い返せずに黙り込んだ。
確かに、琴子と須藤先輩が一緒にいるところを見つけたとき、何か胸に湧きあがる感情を
抑えられずに琴子を引きずるようにしてその場から連れ去った・・・
最後の特訓とはいえ、まるでイライラする気持ちをぶつけるように琴子に向かってサーブを
打ち続けた。
そうさ、琴子が怪我をしていることにも気付かずに・・・
<琴子がテニスコートでうずくまった時、なぜあんなに動揺した?・・・なぜあえて抱き上げ
て琴子を運んだ?>
「それは、琴子が怪我をしたのはオレのせいだから・・・抱き上げたのは・・・それは・・・」
<もし、あれが松本だったらどうだったろうな?・・・琴子と同じように抱いて運んでやった
のかな・・・>
「えっ?・・・」
考えてもみなかったことに、オレは絶句した。
もしあれが松本だったら、オレはどうしただろう?
あの時、オレは何を思って琴子を抱き上げたのか・・・
ただ、毎日一緒にいたのに、ずっと一番近くにいたのに気付いてやれなかったことが悔し
かった。
オレのために痛みをこらえて試合を続けた琴子が・・・
<愛しかったんだろう?・・・>
「ち、違う!」
オレはかぶりを振って否定した。
あれはただの罪の意識だ・・・オレのせいで怪我をした琴子へせめてもの償いのつもりだ
ったんだ。だから、家まで送り届けてやろうとも思った。
まさか、オレ達の留守の間に再同居が決まっているとは思ってもいなかったが・・・
琴子をおぶったのは、足を引き摺っていたのではいつ家に着くかわからないと思ったか
らだ。オレだって、早く家に帰りたかった・・・何日も夜遅くまで練習をして、体はくたくただ
ったんだから・・・オレは、またあの声が聞こえてくる前に、先手を打った。
<背中に琴子の鼓動が響いていたよな・・・そしてお前も、琴子の腕が首にからみつくた
びにドキドキとしていた・・・>
ふいに、琴子をおぶった時の感覚が蘇った。
話しかけてくる琴子の声がすぐ耳元で聞こえ、オレの胸の前で交差する琴子の腕の感触
と相俟って、オレの心臓はオレの意思に関係なく、ずっと痛いほどに鼓動していた・・・
琴子の家に着いた時、やっと着いたという安堵と一緒に、なぜか寂しいと思う気持ちに戸
惑いも感じた・・・
<そう、だからお前は琴子の家がもぬけのからだとわかった時、なんの躊躇もなく自分の
家に連れて帰ることを決心していた・・・絶好の口実だったからな・・・>
「そんなつもりはない・・・怪我をしている琴子をあのまま置いていくわけには行かないし、
連れて帰れば琴子がいなくなってがっかりしていたオフクロが喜ぶだろうと思ったからだ」
<でも・・・いちばん喜んでいたのはお前だった・・・>
「そんなことはない!」
オレはムキになって否定していた。
<それなら、再同居に戸惑いながらも強く抵抗しなかったのはなぜだ?・・・キスのことが
ばれたとわかっても怒らなかったのはなぜだ?金之助にあんなことを言ったのはなぜだ?>
影の声は、たたみ掛けるようにオレに問いかける。
確かに、再同居に驚きもしたし、その場では抵抗もした・・・だからといって、それ以上に
はなにもしなかったのは事実だ。
オレが琴子にキスしたことをオフクロが知っていたことも、それで琴子を責めることもしな
かった・・・なぜなんだ?・・・
以前のオレならもっとあいつを責めたんじゃないだろうか?・・・
ただ、金之助には余計なことを言ったと後悔している。
これで、しばらくは学食には行けなくなりそうだ。
<そうかな?・・・あの時、お前は金之助を琴子から遠ざけようとしたんだ。たとえ学食で
何を書かれようとも、琴子が好きなのは自分なのだと誇示したかったんだよ・・・つまり、
お前も琴子のことが好きだってことの裏返しだな・・・>
「違う!オレは琴子なんか好きじゃない!・・・あんなバカで、料理も出来なくて、短絡的で
無鉄砲な奴、絶対にごめんだ!」
オレは、わけもわからずに叫んでいた。
「お前いったい何者だ?・・・どこからオレに話しかけてる?」
オレは、あたりを見回して声の主を探した。
<オレか?・・・オレは、お前自身さ・・・>
「えっ?オレ自身?」
<そう、いつもはお前の分厚い理性とプライドに押さえつけられている、お前の本心だよ・・・>
「オレの本心だって?」
オレは、あまりに突飛な話しに笑いが込み上げてきた。
<笑いたければ笑えばいい・・・ただ、お前は自分の変化に気付いているはずだ。そして
琴子がお前にとって特別な存在だということも・・・もう二度と失いたくないと思うのなら、
目をそらさずに向き合うんだな。本当の気持ち、つまりこのオレとね・・・>
その時、ふとこの声が自分の声だとわかってオレは愕然とした。
この声が本当にオレの本心なら、オレの声であっても不思議はないだろう・・・
だから最初に聞いたときに、聞き覚えのある声だと思ったのだ。
しかし、その声が言うことはとてもオレの本心とは思えなかった。
「いったい、どうなってるんだ!!」
オレは、叫んでいた。なにがなんだかわからずに、頭を抱えた・・・
何が起こっているんだ・・・どうして、オレの声が、オレに向かって話しかけてくるんだ・・・
その時だった・・・オレは誰かに体を激しく揺さぶられ、思わず目を開けた。
「お兄ちゃん?・・・お兄ちゃん、どうしたの?起きてよ!!」
それは裕樹の声だった。
目をを向けると、泣きそうな顔でオレの顔を覗き込んでいる裕樹が見えた。
「ゆ、裕樹・・・オレは?・・・」
「すごくうなされてたよ・・・恐い夢でも見たの?」
裕樹が目を丸くして尋ねる。
「えっ?・・・夢?・・・」
オレは、ベッドの上に起き上がると、額に浮かんだ汗を手のひらでぬぐって大きく息を
吐き出した。
―夢?・・・今のが夢だったって言うのか?・・・
オレは、裕樹にもう一度寝るように促すと、「何か飲んでくる」と言って部屋を出た。
気持ちを整理したかった。
リビングから外へ出て、プールサイドを歩くと、水面を撫でる夜の風がのぼせた頭を冷や
してくれる。
ふと琴子の部屋の窓を見上げると、まだ明かりのついた部屋の窓際に人影が見えた。
―琴子・・・お前も眠れないのか?・・・
オレが、金之助に言った言葉は、きっと琴子を傷つけているに違いない・・・
あの時のキスに、琴子の期待するような感情が何も含まれていないことは、琴子自身が
一番わかっているはずだ。
あの後、そっと盗み見た琴子の横顔に、つらそうな翳りが浮かんでいたことが思い出された。
あの時、どうしてあんなことを言ったのか、正直自分でもよくわからない。
横で騒ぎ立てる金之助を黙らせたいと思いながら、思わず口をついて出た言葉だったとしか
言いようがない・・・本当にわからないんだ。
夢に現れたオレの本心は言っていた。
オレは琴子のことが好きなんだと・・・
しかし、どう考えても琴子に対して「好き」という感情は今のオレには浮かんでこなかった。
それなのに、須藤先輩と琴子のことを考えると、胸にちくちくとした痛みを感じた。
―オレは琴子を好きではない!オレは誰も好きじゃない!誰にもオレの気持ちはわからない!
何がここまでオレを縛りつけ、いったい何に縛られたくないのか・・・本当のところオレにもわか
ってはいないのだと思えた。
でも、琴子に出会ってから、それまで味わったことのない感情に翻弄され、オレの中で何かが
変化していることだけは確かだった。
そして、たった今、気付いたこともある・・・
見上げた琴子の部屋に明かりが灯っていることに何の違和感も感じていないことを。
琴子がこの家にいることが、オレにとってのあたり前になっていたことを。
そして、オレの本心とやらが、琴子が戻ってきたことを本当は喜んでいるということも・・・
END
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
~あとがき~
キューブの見解が正しければ、直樹はこの時初めて自分から琴子に歩み寄ります。
琴子会いたさに(自分では気付いてないけど)テニス部に顔をだしたり、家のなくなった琴子を
自分から家に連れて行こうとしたり・・・
もちろん、直樹の中には、まだ琴子を好きだというハッキリした感情はありません。
なんせ、「分厚い理性とプライド」が「本心」にフィルターをかけてしまっていますから・・・
そんな中でも、直樹の深層心理では琴子への思いは着実に育っているんじゃないかと
思い、今回は夢の中に出てきた「本心」と、「理性とプライド塊・直樹」の対話という形で
お話を書いてみました。
そして、「本心」の努力の甲斐あって(?)最後にはちょっとだけ直樹の素直な気持ちが
垣間見れるという展開にしています・・・
いかがでしたか?
次回もどうぞ、お楽しみに♪
ブログ村のランキングに参加しています。