まさか、琴子と金之助が一緒にいるところに出くわすなんて・・・
見上げた天井が、やけに遠く感じる。
オレは、今日の出来事を思い出しながら、虚しさと憤りの境をさまよっていた。
―琴子・・・帰って来てるんだろうか?
オレは無意識に部屋を出ていた。
意味も無くホールを彷徨う様は、まるで今のオレのココロそのものだった。
金之助のことを彼氏かと聞いた沙穂子さんに、琴子はそうだと答えた。
あの時の胸の痛みをどう表したらいいだろう・・・
まるで、むき出しの心臓をわしづかみにされたような気さえした。
その痛みが今も消えない・・・
それなのに、オレはまた言葉の刃で琴子を傷つけた。
オレが浴びせる侮蔑の言葉に席を立った琴子に、さらに追い討ちをかけるようにオレ
は言ったんだ。
「お前ら、本当にお似合いだよ・・・」
沙穂子さんが隣にいることすら忘れて、波立つ感情を抑えられなかった。
本当は、琴子の目をまともに見ることさえ出来なかったのに・・・
やっと振り向いたオレの視界に、走り去る琴子の背中が見えた。
そして、やっぱりオレはいつものように後悔していた。
―またあいつを泣かせた・・・
でも、琴子には今はもう金之助がいて、オレのこんな後悔なんて関係ないのかもし
れない。
―本当にそうなのか?・・・あいつの心には、オレはもういないのか?
テラスに立つオレに、夜風が容赦なく吹き付ける。
まるでオレを試すように・・・迷うココロをあざ笑うように・・・
琴子の部屋の前に立ってみる。
固く閉ざされたドアは、オレの前では決して開かないように思えた。
もし、今この瞬間に琴子と顔を合わせたら、オレはどうするだろう?
またココロにもない言葉を投げつけてしまいそうだ。
それなのに、オレはここから立ち去ることができないでいる。
思えば、全てオレが決めたことじゃないか・・・
琴子に「男をつくれ」と言ったのも。
オヤジの会社を継ぐことにしたのも。
沙穂子さんとの結婚を決めたのも。
そして、その全てが思い通りに進んでいる。
それなのに・・・
どうしてオレのココロは、こんなに空っぽなんだろう?
琴子・・・
どうしてオレは、今こんなにもお前に会いたいんだろう・・・
END
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