-1-を読んでいない方は「葛藤するオレのココロ -1-」

-2-を読んでいない方は「葛藤するオレのココロ -2-」



「早く荷物しまえよ。オフクロに見つかったら、みんな起きて大騒ぎだぞ」

オレは、わざと突き放すように琴子にいうと、階段を上がった。

振り向かなくても、琴子がうきうきとしているのが、わかった。


部屋に入ると、ドアにもたれて琴子がガタガタと荷物を片付ける音を聞いていた。


たった今まで、テラスとリビングで交わされた琴子との会話を、頭の中で反芻し

ながら、オレは自然と顔がにやけて来るのを止めらないでいた。


―まったく・・・オレはどうしちまったんだ?


オレの中に、もう一人のオレがいて、本当のオレを翻弄しているように思えた。
いや、どっちが本当のオレなのか、オレ自身もよくわからないんだ。


オレは、今夜のオレが不思議でならない。
どうして、あんなにもスラスラと自分の気持ちを話したのだろう?


オレは自分の口で、はっきり言ったんだ。
試験のことは琴子のせいじゃない・・・琴子が家にいる生活は刺激があって悪くないと・・・



ふと気がつくと、琴子は荷物を運び終えたのか、家の中は再び静寂を取り戻していた。
オレは、ドアを細く開けてあたりをうかがうと、今度は二階のテラスへ出て、夜空を見上げた。


また笑いが込み上げる・・・


琴子のやつ、家出しようと思うなんて、まったく理解できない。
向こう見ずで衝動的なのは、いつものことだとしても、あの荷物の量・・・
あまりに琴子らしくて、驚きもしなかったが、オレのいじわる心を刺激するには十分だった。

イタキス6

「おじさんはどうするつもりなんだよ」
呆れて聞くオレに、琴子は言い訳するように言った。
「私って、入江君の厄病神だなと思って・・・このままここにいると、また入江君に災難が・・・」


―その通りだよ。
心の中でつぶやいていた。


ところが、オレの口をついて出た言葉は、いつの間にか琴子を救う言葉にすり替わっていた。
いくらバカな琴子でも、オレが遠まわしに「ここにいろ」と言っているのは理解できたらしく、その表情はあっという間にいつもの琴子に戻っていた。


それでもオレは前のように、自分の言った言葉に、自分で動揺するようなことは

なかった。
なぜなら、琴子に話しながら、オレ自身のココロが軽くなっていくのを感じていたから・・・

病院で、声を上げて泣く琴子に、掛ける言葉もなく立ち尽くしていた。

なぜか、ココロの中にもやもやとした罪悪感が、湧き上がるのを止められなかった。

もちろん、オレが人に頭を下げるなんて、琴子に謝るなんてことが出来るわけがない。

そんな気持ちが、いつの間にか消えていた。


T大を受験しなかったことは、本当に後悔していない。
将来、自分が何をしたいかもはっきりと決まっていない今、大学なんてどこへ

行っても同じだと思っていた。
勉強など自分ですれば、大学さえ行かなくてもいいと思っていたくらいなのだから・・・


それでも、大学へ行くのならこのまま・・・


「ひょっとして、私がいるから同じ大学にしたとか?」
ふいに、さっき琴子が言った言葉が脳裏に浮かんだ。

イタキス7

―そうかもしれない。


もちろん、琴子に向かっては口が裂けてもそんなことは言わない。
ただ、オレは最初からこのまま上の大学へ行くこと以外の選択肢は持っていな

かったような気がしていた。


その理由は、やっぱり琴子・・・かな。
今夜のオレは、やけに素直だ。



あいつ・・・何かに付けて、鬱陶しいやつなんだ。
それなのに、最近オレは、あいつとの生活を楽しんでいる自分に気がついていた。

今まで味わったことのない、さまざまな感情と刺激がオレに降りかかってくる。


倒れた琴子に応急処置を施そうとしていた奴に覚えたあの感情も、琴子を抱いて

病院へ向かう時のあの感情も・・・そして、号泣する琴子を見つめた時のあの感情も、

オレにしてみればまるで初めて抱く気持ちだった。


衝動、不安、安堵・・・そして嫉妬?
すべてが刺激的で、ドラマチックだ。



オレは、もう一度夜空を見上げた。
丸い大きな月が、オレを見下ろしている・・・急にあくびが出た。



―琴子は、どうしただろう。
今頃、きっと安心して眠っているに違いない。

オレの言葉ひとつ、態度ひとつで、一喜一憂する琴子を見てるのが面白くて仕方がない。


―お前、どうして、そんなにオレが好きなんだ?
結局、いつもその疑問がオレの心に渦を巻く。



でも、今ははっきりと思っている。
まだ答えは出なくていい・・・

その疑問自体が、今のオレには一番刺激的なことなのだから・・・


                                    The end





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