なんでだ?

どうしてこうなるんだ?


オレは家を出ると、わき目もふらず歩いた。

はなから琴子を待っているつもりなどない。


オレは混乱していた。


つい今しがた、自分がとった行動を、なんとか理論付けようと必死で考えていた。


━─━─━─━─━─


オレと琴子を、結婚させようなんて信じられない計画を話し合っていたオフクロ達・・・


オレが「まっぴらだ」といった言葉に、琴子が声を荒げて応戦した。

「こっちだって、まっぴらよ・・・誰があなたなんかと」



その言葉に触発されたように、オレのココロにさざ波が立つ。

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口からスラスラと出てくる琴子の書いたラブレターの言葉。


琴子の戸惑う顔。


琴子の怒る顔。


オフクロ達の驚く顔。


オレは、どうして琴子にとってあんなにも屈辱的な仕打ちを平気でしてしまうのだろう?


オレは、オレに食ってかかってくるあいつを、徹底的に打ちのめさずにはいられない。

そう、オレに屈して、何も言い返してこなくなるまで・・・




突然、金之助が割って入った。

「琴子を守りに来た」と言って、オレに挑んでくる。


奴は琴子が好きだ。

単純でバカな奴だけど、琴子を好きだという気持ちは本当らしい。


だったら、奴にまかせたらいいじゃないか。

オレにとって、琴子の気持ちは迷惑なんだから・・・



金之助が、オレを睨んで凄む。

「琴子と結婚なんて、入江、お前はそんなアホ奴やないな?」


オレは金之助の言葉にうなづけばよかったんだ。



そうすれば、琴子だってオレをあきらめるだろう。

そうすれば、琴子だってオレを追わなくなるだろう。

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それなのに、オレはたった今突き放したものを、再び引き寄せてしまった。


「今日は嫌いでも、明日はすきになるかもしれない」


これで、琴子が再び期待を持つことは明かだ。



オレはさらに、金之助に言った。

「彼女はあんたより、オレに気があるんだ。忘れんなよ」


オレに背を向けている琴子の表情まで見えるようだ。


オレは、買い物を思い出した振りで、外に出た。

金之助に止めを刺すつもりで、琴子を誘ったが、待っているつもりはなかった。

外に出たオレは、少しでも早くその場から離れたくてまるで走るように歩いた。


これまで、誰もが驚くような難解な数式も解いてきたオレが、今、自分のココロひとつ、

解けずにいる。


自分のとった行動の説明が出来ずにいる。



あいつが・・・琴子が来てからだ。

琴子を前にすると、オレのココロはコントロール不能になる。

感情を抑えられずに、ぶつけてしまう。


琴子と関われば、イライラしてたまらないのに、オレは、最後の最後で、琴子を拒絶し

きれないんだ。


―なぜなんだ?



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ふと、気づくと近所のスーパーの前まで来ていた。


―そうだ、元々はビールを買いにいくつもりだったんだ。

そう思いながら、ポケットに手を突っ込む。



オレとしたことが・・・


―ちくしょう!金持ってないじゃないか!!


                                           END