先日クラシエの担当課長さんが来店されました。これはチャンスだと思い、私が以前から一般用漢方薬として商品化を希望している【酸棗仁湯(さんそうにんとう)】の話をしました。その課長さんのお答えは、「クラシエとしては【加味帰脾湯(かみきひとう)】を推してます。【加味帰脾湯】は【酸棗仁湯】の方意を含んでいるんです」でした。

私もそれは百も承知です。しかし以前、不眠の方に【加味帰脾湯】を勧めたんですが、「これだと途中で目が醒めてしまう」とのことで、却下されてしまった苦い経験があったのです。

またこれは不眠の話ではありませんが、ウイルス性腸炎の話に話題が及んだとき、「クラシエとしてはファーストチョイスは【胃苓湯】を勧めている]という話でした。「その延長で、過敏性腸症候群にはこれですね」と言って手に取ったのは【桂枝加芍薬湯】でした。どうも、【桂枝加芍薬湯】を構成する生薬[大棗(たいそう)]に秘密があるそうで、「大棗の一部成分が脳幹を通過して直接脳に作用しているという文献があります。」とのことです。

[大棗]は【酸棗仁湯】の君薬の生薬[酸棗仁(さんそうにん)]の実で[酸棗仁]はその種です。ということは、[大棗]と[酸棗仁]を同時に取ると、効果が高まるのでしょうか。

さて、【酸棗仁湯】は【帰脾湯】の基本になった漢方薬で、「虚労、虚煩して眠るを得ざるは酸棗仁湯之を主る」と『金匱要略』に 記述があります。

構成生薬は 酸棗仁15.0 茯苓3.0 甘草1.5 知母3.0 川芎3.0。

各生薬の働きは次の通りです。
[酸棗仁(大棗の種子)] が精神不安、動悸、焦躁感などを改善。[茯苓(ぶくりょう)] が脾胃を補うことで精神を安定させ、[甘草] との組合わせで、不眠・心悸亢進・精神不安などを治すします。[甘草(かんぞう)]が補気作用を現すと共に諸薬の作用を増強し調和させます。[知母(ちも)]が胸部の熱を冷まし、煩悶感を緩和させます。そして[川芎(せんきゅう)] が気血をめぐらせます。

続いて【加味帰脾湯】の原型の【帰脾湯】はどんな漢方薬でしょうか。【帰脾湯】の構成生薬は人参3.0 白朮3.0 茯苓3.0 酸棗仁3.0 竜眼肉3.0 黄耆2.0 当帰2.0 遠志1.5 大棗1.5 甘草1.0 木香1.0 生姜1.0 です。

これは【酸棗仁湯】から[知母]と[川芎]を除き、【四君子湯】を加え、さらに[竜眼肉][黄耆][当帰][遠志][木香]を加えたと考えますと、【酸棗仁湯】に脾胃気虚(食欲不振・疲労感など)と心血虚(精神不安・不眠など)による気血両虚に対応できるように作られている、と考えことができ理解しやすいと思います。
出典は『薛氏十六種』です。

【加味帰脾湯】は【帰脾湯】に[柴胡]と[山梔子]を加えた方剤であり、心と肝の熱による、イライラ、のぼせ、怒りっぽいなどの症候がある場合に適すると考えられます。

まとめると、【加味帰脾湯】は日頃からクヨクヨ物事を考える方で脾胃気虚(食欲不振・疲労感など)と心血虚(精神不安・不眠など)の気血両虚、さらに肝と心の気滞(イライラ、のぼせ、怒りっぽい)が認められる場合の方剤と言うことができると思います。

私のブログを読んでくださった方から質問を受けました。それは、
①抑肝散加芍薬黄連と抑肝散加陳皮半夏の違い
②抑肝散単独ではイライラにはよく効きますが、スムーズに入眠できず加味帰脾湯とあわせて飲むとパタっと眠れ、朝方まで目覚めることも無くなりぐっすり眠れるようになりました→抑肝散との併用は問題ありますか?

【抑肝散】白朮4.0 茯苓4.0 当帰4.0 釣藤鈎4.0 柴胡3.0 川芎3.0 甘草1.5 出典は『保嬰撮要』。

「肝に気が鬱滞して生じた〖内風〗(=癲癇・痙攣・ふるえ・めまい・痒みを体内から引き起こす邪)を[釣藤鈎]が除き、[柴胡・川芎]の〖疏肝作用〗で肝の機能を調節し、[当帰]の〖補血作用〗が肝を補います。[白朮・茯苓]は脾虚によって停滞した湿邪を除き、甘草とともに気を補います」。

質問①に対する答えは、
抑肝散加芍薬黄連は【抑肝散】に[芍薬]と[黄連]を加えた漢方薬です。[芍薬]は肝気を和らげて筋肉を柔和させます。また[黄連]は胸部の熱を取り、煩悶感を去ります。
一方、抑肝散加陳皮半夏は【抑肝散】に【二陳湯】の方意が加わり脾胃の湿を取り除きます。

質問②について、抑肝散と加味帰脾湯の併用は甘草の量が一日量で6g以下なので、問題ないと思います。加味帰脾湯だけを服用するだけでも眠れるなら抑肝散は止めても良いと思います。

加味帰脾湯が奏功した事例です。お読みください。