「先生はどのようなパーツを使っているのですか? え?

じゃあその頭部の肌色の装甲は?」

ジェノス    One Punch Man ワンパンマン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在ではどうか知らないが、おそらく子供の頃ぐらいまでは

自分が、将来ハゲると恐れおののく人はいないだろう。

 

 

今だと、もう中学生ぐらいで、

自分の将来のハゲの可能性に気づくかもしれない。

 

 

自分の場合は、たぶん高校生の時だったように思う。

虐待家庭では、髪の毛を切りに行くところさえ指定される。

 

 

常に、銭勘定しかない母は、よく来てくれる

お客さんのお店を指定した。

 

 

そこのご夫婦は、とても親切な方で

非常に良くしていただいた。

 

 

思い返すと、おそらく自分の境遇を知っていたのだろう

散髪が終っても、置いてある漫画を好きなだけ読んだらいいよ、と言ってくれ

 

 

嬉しすぎて無我夢中で、貪り読んだ記憶がある。

その姿を見て、余計に可哀想に思ったのか、何かと親切にしてくれた。

 

 

 

散髪のたびに、そこの親父さんに、いつもこう言われた。

「可哀想にな、男前やのになぁ」

 

 

その時期は、容貌を褒められ慣れていて、

いつものことだから、そこは何も感じない。

 

 

別に気位が高いわけじゃなくて、みんな言うので

飽きていたというのもあるが、そんなことはないという否定感が強かった。

 

 

虐待を受けて生きてきた人間は、自己肯定感を持てない。

存在を丸ごと否定されてきて、現在進行形なのに、容貌なんかで持てない。

 

 

 

でも非常に気になったのは、「可哀想にな」、がつくことだった。

それが繰り返されるので、ある日、聞いたことがある。

 

 

将来、確実にハゲる、これは衝撃で、ハ、ハゲんの

でも言われてみると、父はつるっぱげだ。

 

 

父方の人たちは、み~んなハゲている。

でも1人ハゲてない人がいて、安心した。

 

 

母にそのことを話したら、なにゆってんの

あれは、ズラ、すごく高価らしい。

 

 

ええ、ズラだったんか、とまたビビる。

ちょ待て、全員ハゲるんかい、ど~したもんかと悩む。

 

 

行くたびに、散髪屋さんに相談し、どうすればやったら

ハゲは防げるのか、必死で聞いた。

 

 

頭皮をよく揉む、とか、頭皮をこうやって動かすんだ、とか

いろいろ教えてくれるが、よく見たら、その人つるっぱげだった。

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つっぱげの人にハゲると宣告され、

ハゲはこうやって防げると教えられ、実践する。

 

 

 

実に悶々とした日々だった。

恐怖のあまり、それはもう聞ける人みんなに聞いて回った。

 

 

女性には、まだキャーキャー言われたいお年頃

もちろん、周囲の若い女性には聞けない。

 

 

自分で分かっていたのは、髪の毛があるから

キャーキャー言われる程度の容貌であり、ハゲればすべて終わることだった。

 

 

年を経てしまうと、その時に捕まえてしまえばいいだけじゃん、と

達観できるが、お年頃にはそんな心的余裕はない。

 

 

生まれも育ちの人間世界の悲惨さを、すべて味わったが

女性が好意的に接してくれているのは、容貌だけ、これも実に哀しい。

 

 

容貌なんてすぐに衰える、その上、ハゲるという

確実に訪れる将来を思えば、顔がどうとか言ってられない。

 

 

姉の友人が止まりに来て、おはようございます、と言ったら

弟くん、あっさから男前やな、とびっくりされても

 

 

TVがついてて、姉と母がアイドルとか見て

こっちの方がずっと男前やな、なにあれ、とか言われても

 

 

ピンと来ない。

なぜなら、ハゲ宣告されている。

 

 

つるっぱげの散髪屋さんの娘さんにストーカーされても

電車で、男女問わず、痴漢されまくっても

 

 

お店に入ったら、ぽか~んとなり、じーっと見続けられても

そんなのは、慣れっこになっている。

 

 

今風に言えば、イケメンの人間に、カッコいいですねとか言っても

それは四六時中、聞いて知っているので、誉め言葉にすらならない。

 

 

整形してできた加工品と、天然物はまったく違う。

ちょっと笑顔で微笑んだり、優しくするだけで、勝手に舞い上がってくれる。

 

 

モデルにもなれ、と言われたこともある。

あんなんがモデルやるんやて、絶対いけるって、とツレに言われても困る。

 

 

第一に頭が良いと言われ続けてきたので、

顔なんてどうでもいい。

 

 

しかし自分はアホすぎる

もっともっと勉強しなければいけなかった。

 

 

なにより、将来、確実にハゲると宣告されている身であり

ずっと容貌で勝負していけるわけがない。

 

 

虐待家庭で育った自己肯定感のなさは絶対に拭えないから

人間にとって一番、必要な何かが絶対的に不足していることを知っている。

 

 

 

だからといって、ブサイクになっていいのかと言うと

それも微妙で、子どもの時は、頭が良い、と有名だったが

 

 

お年頃になると、見た目もずっとモデルのままとは考えていないけれども

それなりには、年老いていきたいと考える。

 

 

 

あんたなんか顔だけ、と何回も罵られたが

ハゲれば、その唯一の取り柄さえ、失う。

 

 

 

ひろゆきみたいな整形しても、低レベルの容貌なら、

そんなに恐怖は感じないだろう。

 

 

もてはやされているモデルがハゲちゃった

と考えれば分かるだろうか

 

 

だいたい振り返ってじろじろと見られ、その後もじっと見られたり

わざと聞こえるように、キャーキャー言ってもらえる

 

 

そういうことが当たり前の人間が、将来、確実にハゲることに愕然とする

これは本当に恐ろしいのである。

 

 

 

もうこうなるとなりふり構っていられず

男性となると老若問わず、必死で聞いて回った。

 

 

 

こんな恥ずかしい話を書くのは、ひろゆきがハゲしまっていて

ハゲの詐欺師とか言っちゃうことへの罪滅ぼしの一つである。

 

 

 

そして未だハゲておらず、伸ばしてパッキンにして

沢木耕太郎の深夜特急のように、毎年一人で海外に行っていた。

 

 

ふう、これで、どうすればハゲから逃げることができるのか

という多くの男性が持つ永遠の悩み、これに一つの解を提出することができる。