日経エレクトロニクス 20110124
特集 終わらないレアアースショック


1.レアアース基礎事項

コモンメタル:鉄、銅、鉛など
レアメタル(マイナーメタル):コモンメタル以外の金属を指す。リチウム、チタン、ニッケル、レアアースなど
レアアース:ランタン、セリウム、イットリウムなど17種
レアアースは必ずしも含有量が少ないというわけではないが、採掘できる場所が少ない・分離が難しいといった特徴があるため稀少性がある。また、代替できるものはほとんどない。


2.第1部 深層
  中国政府によるレアアース輸出規制

ランタンにおける2010年末の中国からの輸出価格は2010年当初に比べ6倍以上に上昇。
→現在の光学ガラスの価格上昇につながっている。

レアアース鉱山は世界各地に存在し、中国の埋蔵量は世界全体の約37%。

だが中国が安値でレアアースを提供したことにより世界各地の鉱山が閉鎖に追い込まれ、

現在中国のレアアース生産量は世界全体の約97%を占めている。

そのため、レアアースの価格は中国の政策だけで決まるようになった。

中国が価格攻勢に踏み切れるのは人件費が安いだけでなく、採掘される鉱石が特殊なことがある。

米国やオーストラリア、中国北部で採掘される鉱石は放射性物質を含んでおり、

精錬するときはそれを分離し放射性廃棄物を処理する必要がある。

しかし、中国南部で採掘される「イオン吸着鉱」という鉱石には放射性物質がほとんど含まれていないため

精錬が容易であるという特徴がある。さらに、ほかの鉱石では含有量が少ないサマリウム、

ガドリニウム、テルビウム、イットリウムなどを多く含んでいる。

イオン吸着鉱というのはイオン化したレアアースが岩石に吸着したもので、

鉱石を酸に溶解するだけでレアアースを抽出できる。中国では、鉱山に硫酸アンモニウムを直接浸透させて、

溶けだした溶液からレアアースを取り出すといういたって簡単な方法を採用している。

環境問題的には、鉱山の運営企業は、レアアースを含む風化層の下にある花崗岩などの岩盤が不透水層として働く、と説明している。

しかし実際はレアアースを含んだ溶液のほとんどは河川などに流れ込んでいる可能性が高い、

とみる研究者もいる。また、鉱山と水田が隣接している場所もある。


レアアースの調達不安はは今に始まったことではなく、2006年頃からその兆候があった。

2010年7月以降の中国によるレアアースのEL枠(輸出許可枠)の削減も輸出規制を

計画的に進めているだけといえる。

中国の本当の狙いは自国での産業育成である可能性が高い。

現在中国は材料資源と組立を押さえている。そこにその中間部材も担い、

垂直統合型のビジネスモデルを構築するのではないか、とみる関係者は多い。

実際、レアアースの安価な提供の見返りとして、工場を中国に造らないかという誘いは後を絶たない。

技術流出のリスクを取ってコストを安くするかどうかの選択を部材メーカーは迫られることになる。


脱・中国依存の5つの対策
①鉱山開発
②備蓄
③レアアース使用量低減技術の開発
④代替技術の開発
⑤リサイクルの導入


2011年は供給不足と価格高騰に悩まされそうだが、2012年以降は上の5つによりそれらが改善されていくだろう。

現在、③や④は開発が進んでいる面もある。

⑤は、コストやリサイクル手法の確立の面で今後解決しなければならない課題がある。
日本政府も、2010年度補正予算に「レアアース等鉱物資源確保対策」として1000億円を計上した。

内訳は、③④に120億円、⑤や国内での製造設備に420億円、①に460億円である。


レアアースであるセリウムCeは主にガラス研磨材として使われている(酸化セリウムCeO2)。


3.第2部 対応策

現状:国内用途別レアアース使用量(t)の6.4%が光学ガラス添加材である(2009年)。第4位。

軌道上で回る電子にはアップとダウンという2種類のスピンがあり、ペアで同じ軌道上に入っている場合は

磁性を持たず、どちらか片方しか入っていない場合に磁性を持つ。

鉄などの金属は最外殻の軌道に不対電子(ペアになっていない電子)を持つが、金属結合したときにそのほとんどが自由電子となり、これらは磁力に寄与しない。一方ランタニドでは、外殻の電子軌道の内側の軌道(4f)に

不対電子があり、金属結合などで原子同士が結びついている場合も4f軌道の不対電子はそのまま存在できる。

これがレアアースを使ったネオジム磁石やサマリウム・コバルト磁石が強力な磁力を持つ理由である。


・ネオジム磁石
ネオジムNd以外にジスプロウムDyが使われており、これは実質的に中国にあるイオン吸着鉱からしか得られない。そのため脱中国のためにはDyの使用量を少なくする必要がある。しかし、Dyを少なくすると強い磁石はできるが保磁力が低下する。理論上Ndだけで強い保磁力を持たせることはできるが、まだ実現はされていない。

・Ni水素2次電池
LaやCeを主成分としたミッシュメタル(レアメタルの鉱石から特定の元素を抽出する前の状態の合金。手間がかからないため安く入手できる。)が使われており、米国やオーストラリアの鉱山からも産出するので、将来的には中国への依存度が下がる可能性が高い。

・蛍光体
照明や液晶テレビの光源に使用される蛍光管やLEDの発光物質である蛍光体には多くの種類のレアアースが使われている。特に蛍光体の不活剤として使われているユーロピウムEuとテルビウムTbは中国依存度が高い。この分野では、レアアース使用量削減をしつつ高い発光効率を持つ蛍光体の開発を進めている。

・光学ガラス
原材料として使用されるレアアースはランタンLa、イットリウムY、ガドリニウムGd。これらの材料の代替や使用量削減、リサイクルは難しい。ただ、Laは世界各地の鉱山で産出されるため、鉱山の再稼働や新規開発が進む2012年以降は供給不足が緩和されているだろう。
初めて知ったが、レアアースを添加するとガラスの強度が向上する。可視光領域、UV光領域に吸収が存在しない。吸収ピークの波長はUV光よりもさらに短い。

・研磨剤
液晶パネルや光学レンズの研磨に使われるCeが、レアアース輸出停止による最も影響を受けた。しかし、NEDOでCe使用量削減・代替材料開発の成果を上げており、Ceを含まない研磨剤の開発も進んでいる。
研磨用のパッドについても、ウレタン樹脂が主流だが、エポキシ樹脂が使えることを発見した。これは、ウレタン樹脂に比べ約2倍の研磨速度を持ち、新開発の研磨剤を使っても、従来のウレタン樹脂ーCe研磨剤よりも高い研磨速度が得られた。仕上がり後の表面粗さも問題はないらしい。2013年度までに実用化する計画(立命館大学理工学部機械工学科谷泰宏教授)。