転職千夜一夜物語 41

(まず始めは焼き鳥から、の巻)



小上がりのテーブルを移動して、座布団を一山に重ねる。


幼い頃に母に

「お前は、四角い座敷を丸く掃くから、、」

と、兄と違い几帳面さを持ち合わせていない性格を良くなじられたものだった。


初日くらいは四角く作業しよう、と床に掃き落とす。つまようじ、焼き鳥の串が畳のヘリに刺し込んで合ったりするのをみると、酔ったお客のいたずらが脳裏に浮かぶ。


店内の床のゴミをチリトリで集めると、店の外に出て掃き掃除。


エレベータが開いて、いかつい男の人が降りて来る。手にはレジ袋と小脇には趣味の悪そうなバッグ。黒白のストライプのシャツ、胸元まで開いていて太いゴールドのネッックレスが否が応でも目に付く。身長は180近いだろう。丸坊主で、口髭をたくわえている。どう見ても、一般サラリーマンでない。


『無視する訳に行かないだろう、この状況で、、』



「お、おはようございます」


「おはよう、あれ?Sさんとこの新人?」


挨拶を交わした途端に彼は笑顔を浮かべて、


「私は、向かいの店やってるんですよ、よろしくね」


まるで子供に話しかけるような優しい口調なもんだから、いかつい顔と、口調のギャプに言葉が出なかった。


「名前なんていうの?学生?」


Kと言います、浪人してるんです、よろしくお願いします」


「そうなんだ、仲良くしてね、ウチにも遊びに来てよ」  


こんな感じの人から、仲良くしてよ、とはいささか驚いた。『こうやって徐々にヤバイ業界に染まっていくのか?いや、俺はあくまでも学費を稼ぐためにバイトに来ているんだから、不良の人とは付き合えない。』

煤けて汚れた紺色の暖簾、本当は白い筈の店の字も茶色になっている。



薄暗いトイレの掃除が終わり、制服の白衣に着替えた。


この白衣なのだが、使い込んでいるというか、あまり綺麗で無くて、映画で見たことある中華料理屋の調理人の汚れた白衣、そのものだ。


クリーニングが済んでビニール袋に入れられてはいるのだが、一番綺麗なのを選んでもどれも変わらない。


カウンター内に入ると、夕べの洗い残しの皿が積まれている、湯沸かし器はあるけれど、元栓の位置がわからないので、水を出して、洗い始めてみる。洗った食器を仕舞う位置を見てみると、食器棚は埃が溜まっていて、あまり使わない食器は煤けていたり、あまり綺麗でない。


ここで、綺麗好きな人間ならば片っ端から洗い物に取り掛かるのだろうが、自他共に綺麗好きと乖離している私は、ホッとした。

後に、ハウスクリーニングの仕事をする身になるとは誰が想像したろう。

もし、この店からオファーがあれば多額の見積もりを出す事になる。そのくらい、指摘する所満点のカウンター内の厨房だ。


6時になると、マスターは戻って来た。


離れた場所に駐車場があり、そこからは自転車で店まで来るという事だ。


有線のスイッチを入れると、オールディーズのチャンネルだ。曲名は分からないが、何処かで聞いた曲が次々と流れる。店内の灯りを全部電灯すると、マスターも、白衣(だったもの)をシャツの上に羽織ると、料理屋のオヤジに変身した。


ガラスのネタケースには昨日の残りの焼き鳥がステンレスの皿にラップしてある。

ラップを剥がしながら、種類の説明に入る、

「メニュー、持って来て」


メニューに沿って、コレが〇〇、コレは〇〇、

串に刺してある物の説明が終わると、足元の大きなクーラーボックスの蓋を開ける。


「コレが、ささ身。コレがレバー。この辺は注文を貰ってから刺すんだ、で、今日は鹿の肉も持って来たから後で見せるよ」


それまでに、焼き鳥といえば、缶詰めのものか、スーパーで5本セットで売っているものしか見た事無いので、カルチャーショックだ。


一年くらい東京に住んだからといって、世間の事は何も知らない。付け焼き刃の東京人は刀を抜く前から萎縮していた。


焼き台の上のダクトのスイッチをいれると、


「いくつか食べてみろ、売っている人間が味知らないなどとは本末転倒だからな」


『お、待ってました。コレが目当てだったんだ、、料理屋だったら、食べるものは不自由しないもんな』


ニンマリしたのをマスターは見逃さず、

好き嫌い無さそうだな、と

焼き方の手ほどきを始めた。


続く


ACN活動報告


関東は今夜から明日にかけて雪が降るかもしれない、、の予報にすぐさま反応して、たいやをスタットレスに履き替える。

何故急いだか?と言うと、

今夜先輩と飲み会があり、その後、先輩を北部の自宅まで送り届ける仕事があるからだ。

事の成り行きは、先輩より

「行きつけの寿司屋のマスターに、女の子を紹介したいから、お前、良さげなのを探せ」との指令があった為だ。先輩はACNに入って貰ったので、私の女の子アドレス帳から年の頃が相応しい子を選んだ。上手くカップル成立となれば、代理店の契約も、、、などとも思ってる。

とりあえず、喉から営業トークが出そうだけれど、今夜のところ、自分の事ははサラリと紹介しておくつもりです。でも、飲んだ後にはGOは飲ませます。




こちらからベネビータ!