先日、「ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~」を見てきました。主演は田中圭さん、配給は東宝。(以後、物語の記述については敬称を略します)

 

公開2週目に入りましたが、上映回数が1日5回から3回になっていました。最初は私ひとりだったため、もしかしたら貸切かもと心配していましたが最終的に15名弱程のお客さんがいらっしゃいました。年齢層はどちらかと言えば高め。ご夫婦連れや男女のおひとり様が多かったかな。あとはキャストのファンらしき若い女性もいたような。

 

1998年(もうそんな前なのね)長野オリンピックで悲願の金メダルを獲得したスキージャンプ・男子団体。その金メダルの裏で彼ら(と海外を含む全選手)を支えたテストジャンパーの実話の映画化で、主人公はリレハンメルオリンピックジャンプ団体の銀メダリスト・西方仁也さん。ほかにもジャンプ選手で実在の人物が登場しているのですが(原田さんや船木さんやレジェンド葛西さんなど)、俳優さんが寄せていたので割と分かりやすかったです。

 

私はオリンピックは夏季より冬季の方がどちらかといえば好きで、フィギュアスケートはもちろんですがスキージャンプもそこそこ好きなので、たまにジャンプ大会の中継を見たりします。とはいえ、古いところで八木弘和さんとか秋元正博さんなどをかすかに知っているくらいなので、深い知識はありません。

 

高所恐怖症の私はどこの誰がこの競技を考えたのだろうと思うのですが、元々は囚人の刑罰で崖から飛ばせていたのを、たまたま降りて着地した人がいたのが始まりなどという話も聞いたことがあります。真偽は分かり兼ねますけど。

 

前置きが長いですが、とにかく言いたいのはこんな感動作だとは思わなかった。最後まで中だるみすることもなく、涙を誘うシーンがいい具合に入ってくる。最近涙腺が弱くなったのもあるのですが、とにかくずっと涙して、嗚咽を何度堪えたことか分かりません。周りの女性の方もすすり泣いていたし、私もマスクの下はぐちゃぐちゃでした(汚いなぁ)。

ただ、予告が見に行こうと思わせるものではなかったような気がします。ブレイブのように予告と内容が大幅に乖離しているわけではないものの、少し残念な感じがしました。

 

物語は長野オリンピックのスキー団体(ラージヒル)で原田雅彦(濱津隆之)が1回目のジャンプを飛ぶところからスタートします。それを見ていた西方仁也(田中圭)は「落ちろ」(転倒ではなく、失速の意)と思ってしまうのです。これには深い理由があって・・・。

 

舞台は1994年のリレハンメルオリンピックまで遡ります。当時、金メダルを期待されていた男子団体(原田雅彦・岡部孝信・西方仁也・葛西紀明)は3人がジャンプを飛んで1位となり原田を残すのみとなり、余程の失敗ジャンプでも飛ばない限り金メダルは確定していました。

ところが原田がまさかの大失速ジャンプとなり、ほぼ手中に収めていた金メダルはドイツ(バイスフロクが凄かったという記憶が)へと渡ってしまうのです。

 

当時リアルタイムで中継を見ていましたが(確か、夜の10時過ぎくらいだったかと)、失速ジャンプ後に頭を抱えてうずくまる原田さんを見て何とも言えない思いをしたものです。

 

物語に戻ります。日本は銀メダルを獲得するのですが、当時は金メダル以外はメダルではないと言った雰囲気があったのかな。帰国後の記者会見でも金メダルのノルディック複合チームは手放しで祝福するのに、ジャンプチームにはお祝いどころか原田に戦犯扱いみたいな質問をするのですね。

 

ジャンプを飛べない記者が何を偉そうなことを言ってるんだよ、それならアンタが飛んでみろよと言いたくもなりますが、原田は批判を含めてそれをすべて受け入れているわけで。それを冷静に見ていた西方は、この時はまだ原田の本心を理解していなかったのです。

 

その後金メダルを地元の長野オリンピックで取るべく熱心にトレーニングに励む西方ですが、ある日腰に違和感を感じます。それを隠したままジャンプをしたためバランスを崩してしまい、転倒して大怪我をするのです。オリンピックまで半年を切っていたため西方は懸命にリハビリを重ね、何とか雪印杯(現在の雪印メグミルク杯)で優勝して残りの代表枠入りを狙うのですが、代表には選出されなかったのです。

 

半ば自暴自棄になる西方ですが、テストジャンプのコーチとなった神崎幸一(古田新太)からテストジャンパーの打診を受けます。一度は断ったものの、結局引き受け総勢25名で民宿に宿泊して毎日テストジャンプを行います。

 

テストジャンパーのオファーを再度引き受けたのも、妻の幸枝(土屋太鳳)の力あってなのですが、この奥さんが本当に素晴らしいのです。

 

で。大会の中継を見ると、選手のスキー板に合わせた溝(シュプールというのですね)が踏切台ギリギリまであるのですが、これもテストジャンパーがコツコツと作り上げていたとは知りませんでした。本当にテストジャンパーの役割って大きいんだな。

 

テストジャンパーもオリンピックを支える日の丸飛行隊のメンバー。聴覚障害の高橋竜二(山田裕貴)、女性ジャンパーにまだ門戸が開かれていない時代に自分も何かの形でオリンピックに参加したいとやって来た小林賀子(小坂菜緒)、日本代表として海外転戦の実績がありながら、西方同様怪我で代表漏れした南川崇(眞栄田郷敦)ら寄せ集め(by南川)のメンバーたち。

 

この中で、高橋と賀子(葛西賀子さんがモデル)は実在の方です。葛西さんは山田いづみさんとともに、日本女子ジャンプの草分け的な存在でした。南川のモデルが分からなかったのですが、色んな方をミックスされたのかな?

 

難聴のためハンデがある高橋、どんな形でもいいからオリンピックに参加したい賀子、転倒の恐怖を引きずっている南川、テストジャンパーに納得がいかないままの西方とそれぞれに事情を抱えています。それを束ねるコーチの神崎は自分が代表に選ばれなかったので、代表に選ばれない選手の気持ちが良く分かるのですね。なのでテストジャンパーも彼らの将来性などを考えて選んでいたのです。

 

コミュニケーション能力抜群の高橋がみんなをひとつにまとめたり、賀子が父親から連れ戻されそうになったり(これがきっかけで西方からアドバイスを受けることになる)、南川が転倒のトラウマを払拭したりするのですが(このエピソードもいいのですよ)、さりげなく涙を誘う作りになっていて、私の眼は潤みっぱなしです。

 

団体戦の前、原田がアンダーシャツを忘れたので貸してほしいと西方を訪ねて来ます。素っ気なく対応し「お前のメダルなんか見たくないんだよ」と言う西方に「それでも俺は金を獲らなきゃだめなんだ。金メダルを」と訴える原田。

 

そして団体の1回目のジャンプが始まりますが、不運なことに原田の順番になった途端に吹雪となってしまいます。原田は視界不良のままジャンプして失速、日本は1位から4位に転落します。ある意味西方の願い通りになったわけですが、ここで神崎からレハンメルの失敗以降戦犯扱いされ(脅迫電話もあったそうで、本当に許しがたいです)、 責任をひとりで背負い続ける原田の姿を知るのです。

 

競技は一時中断。このまま中止となれば4位で終わってしまい、メダルなしとなってしまいます。ジュリー(審判)会議が行われ、テストジャンパー全員が綺麗に跳べば協議再開との決定が出ました。あまりにも危険だと反対する神崎と西方ですが、賀子がテストジャンプを懇願、高橋も「僕も、飛びたい」、そして南川やジャンパーが次々とジャンプを飛ぶことを志願します。そして、神崎は危ないと思ったらすぐにやめるよう忠告し、テストジャンプが行われます。

 

このときみんなで円陣を組むのですが、高橋が「ヒノマルソウル」と声掛けをするのです。日の丸飛行隊の魂(ソウル)という意味なのでしょうか。とにかく表も裏方も一丸となって頑張ろうぜ!という空気になり、代表選手や代表から外れた葛西、小林の父、幸枝と息子の慎護もそれぞれの場所から彼らを見守ります。

 

悪天候の中なかトラウマを乗り越えた南川が最初のジャンプを成功させ他の選手も次々とジャンプを成功させていきます。シュプールをきれいに作るということも同時に行いながら。

ところが、賀子のところでジュリーの要望でスタートのバーが上げられてしまいます。ジャンプを成功させるのが難しくなるのを承知で飛び出す賀子ですが、ここで西方から教えてもらった姿勢を思い出してジャンプを成功させ、父も涙するのです。

 

高橋も大ジャンプを飛ぶのですが、仲間が喜ぶ姿を見て難聴のはずなのに歓声が聞こえてくるのです。このあたりはもう嗚咽寸前でした。

 

西方も大ジャンプを成功させ、見事にテストジャンプは成功して協議続行が決定します。まるで優勝したかのように喜ぶ仲間たちを見ると、またもや嗚咽が出そうになり必死でこらえましたが、まわりからすすり泣く声が聞こえてきました。

 

そして、団体2回目の原田のジャンプ。彼は代表から漏れた葛西のグローブと西方のアンダーウェアを身に着けて大ジャンプを飛んだのです。彼らの思いと共に。私の文章が長いうえに文章も下手なのであまり伝わりにくいと思うのですが、決してお涙頂戴の陳腐なものではなくて本当に泣けるのですよ。

 

最後は船木がジャンプを決め、男子団体は札幌オリンピック以来の金メダルを獲得します。

このメダルを獲得するまでにこのようなドラマがあったのですね。本当にいい作品なので見てもらいたいと思うのですが、既に上映回数が少なくなっているのが残念です。