43時間 Part12 | cracking-my-ballsのブログ

43時間 Part12





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病院:VIPルーム 午後2:00 


徳之助の病室へ見知らぬ数人が入ってきた。

女性が二人、男性が一人だ。

その集団は、寝ていた徳之助に対してお構いなしにしゃべりかける。

「あら・・・徳之助さん。お体の加減いかが?」

「無理をしないようにな。長生きしてもらわないと困る。」

「そうよ。そうそう・・・これ、お見舞いね。メロン。ここに置くわね。」

そのメロンの包装紙には、千疋屋総本店と記してある。


徳之助は、ベットから起き上がらず、眼だけは開いて、その招かざる訪問客のことを見ている。

「徳之助さん・・・こんな病院より、私の知っている病院に移ったらどうだ。癌の専門医がいるんだよ。必ずあんたを助けてくれるよ。」

「まぁ・・・良かったじゃない。」

「最新技術を使った治療を受けられるぞ」

徳之助は答えない。

「そうそう・・・徳之助さん・・・例の遺言書の話し・・・進んだ?」

「まだだじゃよ。」

「あらぁ・・・怠慢な弁護士ね。」

「そうだ。良い弁護士を紹介しよう。私の顧問で良い弁護士がいる。どうだ徳之助さん?」

「興味はない。」

集団は、一方的に話し、徳之助は終始言葉少なく対応する。

「また・・・来るわね。」

招かざる訪問客一行は、十数分・・・ひとしきりまくしたて、部屋を出て行った。

廊下で待っていたイチロウが徳之助の部屋に入る。

「騒がしい方達でしたね(笑)」

「恥ずかしいところを見られたな。」

「どちらの方なんです?」

「ふん。わしの財産を狙うハイエナどもじゃよ。」

そう言うと徳之助はベットから身を起こした。

「わしには、財産を法的に相続する者がおらんからな。」

「そうですか。」

「わしが末期の癌だと分かると、突如として病室にくるようになった。元気な頃は一度も顔を見せなかった遠い親戚じゃよ。」

「金持ちも大変スッね。」

「金は、人を変える。いい意味でも、悪い意味でも・・・じゃ。」




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WAVE本社:午後2:00 会議室


「現在までの集計ですが、近衛家徳之助さんの持ち分11.9%を引いた分。つまり88.1%のバロンと我々側の収得状況ですが・・・

バロン側43.7%

WAVE同盟軍  42.7%

です。

以前どちらも50%には達しませんが・・・」

「負けてるな(笑)」私が官僚の報告に茶々を入れる。

「残り・・・僅か0.7%です。」

「残りを我々側がすべて取ったとしても43.4%です。」

「バロン・・・我々・・・どちらも過半数を越えずか・・・」

「そうですね。」

「最終結果は・・・猿之助が握るか・・・」

そう言いながら私は頭の後ろで手を組む。

「猿之助さんではなく・・・徳之助さんです。」

T社長は、完全に心ここに有らずの状態で、窓に向かって

「むうすうんで・・ひらいーて・・・手を売って・・結んで・・・」

と意味不明な歌を歌っている。

取り合えず・・・手は売らんだろう。という突っ込みはなしだ。

「クライムの報告は?」

「クライムさんはなにか掴んだようですね。」

「連絡は?」

「まだきません。」

「官僚・・・メール打て。」

「なんて打ちますか?」

「バロンいまだ優勢。猿之助からの〝おいしん棒″を求む。」とでも打っておけ(笑)



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徳之助の秘密


〝社長より伝言。おいしん棒はまだか?″

はにかみ笑いでクライムは携帯のメールを確認していると、そこへ電話が入った。

クライムの会社の特殊情報収集チームからだ。

「社長・・・面白い情報がとれました。」

「どうだった?」

「案の定・・戸籍等、その他・・・公的情報には全く載ってませんでした。」

「まるで、過去を知られたくないってフシだな。」

「ええ・・・内縁の妻って奴です。婚姻届は出していないんですよ。昭和30年とか40年代の記録ですからね(笑)調べ出すのに苦労しました。しかし、警視庁に記録が残ってたんです。」

「なんかの事件か?」

「ええ・・・徳之助さんの会社、昭和36年1月ですか、一度、空き巣に入られたんです。その被害届に内縁の妻の方がサインしています。本名で。」

「本名って?・・・ペンネームでもあるのか?」

「ええ・・・芸名があります。」

「芸名?」

「ええ・・・こちらもびっくりしました。往年の有名歌手でした。」

「なるほど。・・・」

「その方は、徳之助さんと別れて、その後、結婚されていますが。」

「名前は、本田絹代。徳之助さんと一緒に住んでいたころは旧姓ですね・・」


チームからのその情報に自らの読みが正しい方向にむかっていると・・・クライムは確信をさらに深めた。

「これで、絡んだ糸が少しはほどけてきたようだ。助かった。」

「更に、調べを進めます。」

「よろしく頼む。助かった。」


自社のチームとの連絡を切った後、クライムはタチバナに連絡を取った。

数回のコールの後、タチバナが出た。

「タイバナだ。」

「クライムです。お願いした件、いかがでしたか・・・」

「官僚に調べさせた。」

WAVE社には変わった株主優待制度がある。株主だとWAVE社の番組に自分の好きな曲をリクエストできる。

「クライムが言った通り、徳之助さんは、毎月必ず同じアーチストの曲をリクエストしているな。」

「どんな?」

「バンドだよ。DDAというバンドだ。爺さんにしては趣味が若いな(笑)」

「・・・」

「まるで・・・このバンドのスポンサーのようだよ(笑)・・・リクエストだが、徳之助さんがWAVEの株主になってからずっと、欠かさず続いている。」

「株主でいる理由ですね。」

「そのようだな。」

「ありがとうございます。」

「クライム・・・何か・・・つかんだようだな。」

「まぁ・・そっちはどうです?」

「バロンの売り先を掴んだ。」

「さすがタチバナさん。」

「お前には、言われたくない(笑)」


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クライムはタチバナとの電話を切ると、再度自社の特殊情報収集チームに連絡をした。

「もうひとつ調べてもらいたいモノができた。」

「なんでしょう?」

「DDAってのを調べて欲しい。」

「プロレス技ですか?」

「それはDDTだろ(笑)  歌手だ。バンドらしい。アーチストの詳細を知りたい。メンバーの略歴も・・・」

「了解しました。」

「よろしく頼む。」

クライムは車に乗り込むと徳之助のいる病院にハンドルを切った。


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病院VIPルーム  午後6:00


「よく、こんなまずいモノを毎度毎度、客に出せるものだ。」

「徳之助さん・・・お客じゃありませんよ。あなたは患者さんです。」

徳之助と看護婦のいつものやり取りが繰り返される。

「お前らは・・・夕飯はどうすんじゃ?」

「ご心配なさらずに・・・後で病院を抜け出して・・・外の飯屋で美味いモノを食ってきますよ。」

イチロウが口元をあげながら言う。

クライムも戻ってきており、そこにいた。

徳之助は、夕食のホワイトシチュウーをたっぷりとスプーンで掬(すく)い、口を燕のように窄(つぼ)めながら、数度フーフーと息を吹きかけ、はむるといつものように、背筋を伸ばしながら前を向き、モグモグと口を動かし、暫くして飲みこむ。徳之助のほそい首の喉仏が、シチューを飲み込むたびに動くのがわかる。

それを数回繰り返し、その後、デザートのブドウゼリーの蓋を開けた。

「徳之助さん」

クライムがタイミングをみて言葉を発した。

「なんじゃ?」

徳之助はブドウゼリーを口に入れながらクライムのほうを向いた。


「DDAというバンドお好きなんですか?」



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WAVE放送局です。

sunday night music の時間になりました。それでは最初の曲・・・読者のbuckerさんのリクエストです。


 ♪♪♪



徳之助は、スプーンを持ちながらそのスプーンを扉のほうに差向け・・・イチロウに指示した。

「地下の売店で・・・酒を買ってこい。なければ・・・外に行って・・・買って来るんじゃ。」

そう言って、スプーンを膳のトレイに一度置くと、ベットの横のチェストの引き出しを引いて黒いワニ皮の長財布を出し、一万円札をイチロウに手渡した。

「良いですか?お酒なんて・・・・薬効かなくなりますよ」

「わしにとっては、抗がん剤そのものだ。」

「おつりは・・・もらちゃって・・・良いんですかね(笑)」

「何を言う。キッチリ・・・レシートと一緒にツリもちゃんと持ってくるにきまってるじゃろ。」

イチロウが一万円を持って病室を出る。

そのあとクライムのほうを徳之助はゆっくりと向いた。

「本田絹代さんの旧姓も・・・分かりました。」


「良く調べたな。」

「ええ・・・・」

「普通の者には・・・分からんようになっておる。」

「苦労しました。」

「クライムとかいったな・・・」

「はい。」

「お前とイチロウ・・・本当はWAVE社の者じゃなかろう?    


 お前ら・・・何もんじゃ・・・」


「あなたの開発した〝おいしん棒″のファンですよ(笑)」




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WAVEの本社午後8:00

「T社長・・・飯でもいかがですか?」

「私は・・・胸がいっぱいで・・・何かを食べる気にはとうていなれません・・・」

とうなだれる、トホホなT社長を残し・・・

じゃぁ・・・ということで、コンビニ飯が続いていたWAVEのスタッフを連れて夕飯を食いに出た。

「一杯いこうよ(笑)」

官僚が止めるのを「いいじゃん」と笑いとばし、近くの居酒屋に私と官僚、WAVEのスタッフ数人と飯を食いに行く。


駅前の居酒屋六兵衛という暖簾(のれん)を皆でくぐる。

大きなテーブルに結構な人数が座り、向かい合うように囲んだ。

酒を飲めない一人を除き、皆が生中を頼む。

「仕事中に良いんですか?」WAVEの若いスタッフが私に聞いてきた。

「仕事中に飲むから美味いんだな。酒は真昼間とか、仕事中とか・・・背徳感が伴う時に、こう・・・ぐビッとヤルから美味いんだよ(笑)」

注文した料理の皿がテーブルを賑わせる頃になると、次第に話題は現在のマスメディアについてになった。

若いスタッフの一人が、話し出す。

「最近のメディアは、ダメですね。」愚痴めいた口調で言った。

「どうダメなんだ?」ちょっと歳のいった30代のスタッフが聞く。

「なんか・・・こう・・・来ないんですよ。」

「こないって?どうこないんだよ・・・?」更に他の男のスタッフがボンジリの串を右手で口に運び左に引きながら問う。

「特に、最近のTVは死んでると思いませんか。面白くもなんともない。タダの電波の無駄遣い・・・(笑)」

「騒がしいだけで・・タダの雑音の垂れ流し・・・」オレもそう思うとボンジリのスタッフが相槌を打つ。

「こんなことが有りました。という事実は流しますが・・・意見は言わないですよね。」

「意見?・・・メディアなんて所詮事実のみの報道でいいんじゃないか?。それがマスの本来の姿だろ。」30代の中堅スタッフがいう。こいつはTVのキー局から、このWAVE社に転職してきた。

「事実ってなんだよ(笑)この世の中に意見や視点の伴わない事実などないよ。」ボンジリが返す。

「意見は必ず偏る。だから意見か・・・」転職は訳知り顔で返す。

「大多数の意見っぽい視点から見た事実みたいなフリがマスメディアなんですかね。」官僚が話に入る。最初にマスメディアに対して意見を出した若いスタッフが次を続けた。

「うーん・・・そういう多数決なもっともらしい事実を検証もせずに垂れ流すだけの・・・今のメディアってものが好きなれないんですよね。自分は・・・

例えば、東京郊外の住宅地の河原でバーベキューをする若者をけしからんという視線で作った番組が有ったとしますよね。良く夏になるとやるリポート特集とかですよ。ああゆうのは、自分は大嫌いですね。

ロケット花火を橋脚の上を走る電車にまで打つ若者やゴミを持ち帰らずに、その辺に捨てて行く若者の絵ヅラをことさら流して、視聴者の〝現代の若者の不作法″見たいな共感を映像で作り出している番組って安っぽいと思うんです。更に、胸糞悪いのは、リポーターも浅い正義感を持っちゃって、〝そんなことをしていけません!″みたいな、なんちゃって正義感で注意をしてみる風景。

オレには、そんな番組に釈然としないものがものすごく有りますね。」

「そうだな。偏るから意見なんだ。」30代の転職も相槌を打つ。

「少なくともリポーターも、番組スタッフも、その場しのぎの正義感は振りかざしますが、決してその番組は、その問題の解決策を提示するわけでわけでもなく、その後、その問題を長期に渡って掘り下げる理由(わけ)でもなく・・・」

「ただの季節行事のように、風景を切り取っているだけ。」

「スタジオのキャスターも、これはけしからんですね。直してもらいたいものです。なんてもっともなあたり触りのないことしか言わない。」

「最後は、責任ある行政の早急なる処置を求む見たいな。」

「詰まらない。」

「いわないんじゃない。言えないんだよ。花火をもっと上げろなんて・・・1億総国民の観ているマスじゃ。」

「問題を取り上げて於いて最後は他人任せで終わる。・・・とどのつまりこんな問題が有るんだけど、誰かなんとかしてほしい。みたいので終わる番組多いよな。・・・確かに。」

「花火をあげる若者の気持ちも分からないでもない・・・なんてキャスターがいったら・・・クレームの電話で番組スタッフはパニックだよ(笑)」

「その時点で番組打ちきりだな(笑)」

「全てが、予定調和の中で作られているんですよ。花火をあげる若者の様子も、ゴミを捨てるカップルの絵も・・・行政の対応も・・・多数決の意見が最初にありきで・・・後はそれに沿った番組作りをするだけ・・編集の力が視聴率の数字になる。」

「視聴者だって予定調和を望んでる。」

「報道番組にもね。」

「渋谷の少女売春も似たようなもの・・・徹底的に内部に切り込んで問題を本質的に議論しようなんて気はさらさらない。」

「その少女を実際に買って、事を済ませた後にけしからんな君は・・・って怒ったら面白いんだけどな(笑)」私が茶化す。

「警察24時なんてのも行政のおべんちゃら番組。警察の不正24時なんてのは、絶対にやらない。」

「やっているのはネットですよ。」

「いや、マスはできないんだよ。やれないが正しい。一番面白いのは少数派の意見なんだけど、少数派を気取ればマスでは命取りになる。」

「大切なのは・・皆の意見」

「みんなって?誰だよ(笑)」

「見えない。知らない。誰もわからない・・・そんな〝MINNA″ってのがいるんだよ。メディア界に。」

「誰も知らない・・・しかし、最も怖がる・・・MINNAか・・・」

「偏るからメディアの面白さがある。偏ったらメディアの使命を失う。面白いな。・・・」

「WAVEはどうなんだ?スタッフであるあんたらは・・・良い番組を作っているのかい?・・・(笑)」

私がその白熱するTV批判に切り込んだ。

「いいえ。全然・・・」ボンジリと転職と若いスタッフ三人が同時に声をあわせた。


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WAVE放送局です。居酒屋六兵衛から次の曲をお送りします。

多摩川川岸でロケット花火をあげるボンジリさんからのリクエストで

 ♪♪♪



「それを変えられない自分らが更に歯がゆいんです。」

「ただ・・・まだ、ラジオのほうが、少なくとも意味が見えると思います。」30代の転職が言う。

「ラジオで見えるっていうのは面白いですね。」官僚が突っ込んだ。

「昔、米国で実際にあったことなんだけど、ベトナム戦争のさなかにジョンレノンの曲を流すのを禁止したんだ。戦争の意欲をそぐってね。米国政府が。」

「日本でも、忌野清志郎の原発ソングをFM放送局が放送禁止にした。」

「話題になったね(笑)」

「その放送禁止に怒った清志郎の夜のヒットスタジオの歌はTV史上に残る傑作だった。(笑)」

「まさに(笑)」

「ラジオの体制迎合批判をTVで叩いたのは・・・時代だよな。」

「まさに・・・」

「ラジオは、すでに時代遅れなんですよ。」若いスタッフが言う。そして・・続ける。

「だからこそ・・・何ですかね・・・WAVEは、゛匂い″とか〝見える″とか・・・ラジオだからこその制約に意味を見出していきたいですね。」

「うん。そう・・・単なる音を届けるだけじゃない・・・こう・・・現場の雰囲気?」

「臨場感?っていうこだわり?」官僚が聞く。

「いや・・こう・・もっと・・何ていうか・・・」

「シンクロニスティ(共振性)。」私がいう。

「そうです。共有感・・・リスナーとの・・・」

「それって・・・今なら、ネットのほうが有るんじゃねぇ・・・」30代のスタッフが話す。

「でも・・・非同期のネットとは違う・・・やっぱり場の空気感って有りますよね。」女性スタッフが初めて口をはさんだ。この子は、エレベーターホールで話した。歌手志望の子だ。

「なんか・・・今の雰囲気って・・・〝そうそうこの曲!″って匂い有りますよね。」

「例えば、晴れた朝で・・・ハイウェイを走っていて・・・車のラジオから流れたら・・・そうそうこの曲!っていう共鳴感。」

「だから・・・ラジオなんでしょ。俺たち。」

「ベトナム戦争の時代の米国で流すジョンレノンって・・・今イマジン聞くオレらにない季節の匂いがする見たいな。」

「そうだよな。」

「音楽って生鮮食品なんだよ。掛けるタイミングのある生モノ」

「音楽の可能性・・・」

「でも・・・いまだにウチのミュージックチャート・・・業界に重要視されているよな。」

「CDの売上にかなりの影響力があるからな。いまだに(笑)」

「へぇ・・・」  私と官僚が頷く。

「いまでも・・WAVEのヒットチャートに入りたいって・・・売れない歌手の子はたくさんいますよ。」いい笑顔でさっきのカワイイ子が答える。

相変わらずの素敵な笑顔だ。官僚も少し酔ったのか・・・自分のほうを向いてくれたのだと思って顔を下に背けた。

皆疲れていたのだろう。その後・・・ほとんどが酔い潰れた。

官僚と私の二人で話す。

「良い会社ですね。」

「スタッフはな。」

「人に伝えるって難しいですね。」

「そうだな。言葉だけじゃないからな。本当の気持ちって。」

「そうですね。」

「社長得意のスタッフのねぎらいってヤツですか・・・今夜は。」

「言葉にしてどうする?(笑)」


緊張が続く、張り詰めたスタッフの心を癒す効果はあったのだろうか・・・


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面会時間を過ぎた病院の部屋


徳之助とイチロウ・・・クライムは、外のコンビニで買って来た酒を開けていた。

病室の床には、缶が転がる。

ほとんどはクライムとイチロウで飲んだ。

徳之助は、唇をぬらす程度だったが、久しぶりの酒に喜んだ。

「看護婦が来たら・・・こっぴどく叱られますよ。」イチロウが言う。

「そしたら・・・爺さんが言うよ。」

「いいから・・・ここに来て酌をしろじゃろ(笑)」

「ははは・・・」三人で笑った。

「そろそろ・・・看護婦が夜の検診に来るころじゃ・・・」

「じゃぁ・・・」

「そうじゃな。」

徳之助を車椅子に乗せ、三人は、部屋を抜け出し、エレベーターを降りて、長い病棟の廊下を抜け外に出た。

「さすがに夜は寒いな。」

「そうですね。」

少ない街灯だけが灯(とも)り。まだ、8時だというのに病院の周辺は静まり返っていた

三人の息は白い。太陽ではなく、街灯の明かりが三人の影を映しだした。

「寒いから、春の風が心地良く感じるんじゃよ。」

「寒いからなんですね。」

「寒いからじゃ。」

徳之助の顔は半分明かりが当たり明るく、半分は影になって見えない。

「人生には、いろいろな過去があるものじゃ。」

徳之助は、いつもの癖の、顔を数回手で擦(さす)り、その手を額まで上げ、最後に後頭部に回し、数回掻くような仕草をした。

「かみさんと言ったが、正式には結婚しておらん。」徳之助は唐突に話しだした。クライムは頷くだけだ。

「当時は、まだ売れない歌手じゃった。美人じゃったよ。

歌声も見た目に負けず劣らず美人じゃった(笑)

わしの実家の米屋は、結構な老舗でな。まぁまぁ、街では名が知れておった。これでもわしは、金持ちのボンじゃたんじゃよ(笑)

しかし、オヤジがわしの若い時分に急に逝ってしまった。

急きょ、家を継がなきゃならんかったわしは、丁稚から戻って・・狼狽し、不安に溢れ、恐れとも思える気持ちを常に持っておった。何をやっても焦るばかりでの・・・

そんな時じゃった。米屋の店に、最近引っ越したきたという、きれいな女子(おなご)が来てな・・・」

「その方が・・」

「そうじゃ・・・わしは一目で惚れてしまった。

前に話したじゃろ・・・川の脇道を二人で歩きながら・・・その娘は歌を歌ってくれた。」

イチロウとクライムは黙って聞いている。

「きれいな声じゃった。」

徳之助は、まるでその娘の歌まねを真似るかのように手をオーケストラの指揮者のように回しながら話す。

「駄菓子屋をやったらどう・・・というのもその娘の提案じゃった。」

「今の近衛家商店があるのは、その方のお陰ですね。」

「その通りじゃ(笑)」

「その娘の言うとおり駄菓子屋を始めたわしは、菓子の販売に関わりだした。商売は当たったよ。金持ちになった。同様に、その娘の歌声も街を越えて有名になっていったんじゃ。」

「歌姫に・・・色恋沙汰はご法度。今も昔も変わらん。」

「内緒に・・・?」

「当たり前じゃ。・・・しかし・・絹代とわしに、神様の贈り物が届いた。」

「ドラマですね。」イチロウが言う。

「人生の幕は、開く為にある。」

徳之助が細い眼を更に細めて言った。



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午後8:00  WAVE本社


タチバナとマウスも合流し、私と官僚で打ち合わせをする。

T社長は、眼のクマが更にドス黒くなり、頬は還暦間近の老人のように垂れ下がっている。背中を丸めて、窓際に向っている。

「ら~らら・・・ららら~・・・言葉にできな~い。」と・・・窓に映った自分に向い、小田和正の歌を歌っている。

「明日の朝、バロンが交渉したいとまた言って来た。朝食はなしでだそうだ。」私が言う。

「いよいよ、向こうもラストスパートですかね。」官僚が言う。

「マツイの最終期限が明日だからな。」タチバナが言う。

「今朝、会って思った。バロンという男、そしてその後ろにいる〝Z″。プロフェッショナル中のプロフェッショナルだ。単純に恐怖や財力で人を意のままに動かそうとする支配者じゃない。」

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「支配者じゃない?」タチバナが聞く。

「うん。支配者と言うよりも・・・人間を良く知る・・・冷徹な哲学者って感じだったよ。」

「余計、怖い存在ですね。」タチバナが煙草に火をつけながら言う。



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「国際的ライセンスブローカー・・・現代版死の商人の正体は・・・バンパイア・フィロソフィー(冷徹な哲学者)か・・・」マウスが机に置いてあったシーチキンマヨネーズのおにぎりを開けながら言った。

「英語に直すところが・・・名門大学出って感じで鼻につくな(笑)」タチバナがいう。

「官僚さんのハーバードにはかないませんよ(笑)」

「philosophyはギリシャ語ですね。philosは〝love″って意味で、sophyは〝wisdom″を表しています。つまり知恵を愛する者・・・」官僚が補足した。

「血を吸う哲学者か・・・・ピッタリだ(笑)」私が言う。


「マウス・・・」私が続ける。

「なんです?」

「ひとつ、教えておいてやる。M&Aというのは、電卓で叩いても答えがでるものじゃない。派手な空中戦でも無い。人間を知る者が・・・最後には勝つ。」

「人間ですか・・・・」

「経営者にとって会社っていうのは、人生そのものだ。だから今回のバロンは用心しなけれならないってことさ・・・・」タチバナが付け加える。

「価値観が少し違うだけで・・我々と同じ・・・ですかね。」官僚が眼鏡を直しながら答える。

「人生のストーリーを読み解いたものだけが、会社(人生)を受け継げる・・・唯一・・・可能性を持つ。」私が言う。

「そうですね。人生は電卓では答えが出ない要素です。」官僚もその言葉に添える。

「まるで音楽だな」タチバナが言った。

「ええ・・電卓で奏でる・・♪音楽ですよ。」官僚が言う。

「バロンと我々・・・WAVEという音楽にリズムと旋律とメロディをのせ・・・より良い人生のストーリーを奏でた方が・・・この勝負に勝つだろうな。」

私がいう。


四人の顔には、WAVE社の窓からこぼれてくる街の明かりが当たる。

タチバナの吸う・・・たばこの煙がその光に揺れ、螺旋の光の粒を作った。


「我々もプロですかね?」マウスが言う。


「じゃなきゃ・・・ここには・・・いない。」タチバナがいつもの癖・・・

まゆ毛の辺に手を当て・・敬礼のようなしぐさで窓ガラス越しに遠くのビルの明かりを見ながら言う。

「そうです。我々は・・・・お金を人さまからいただいて・・・会社を潰すプロ。

殺社屋ですからね。(笑)」官僚が後追いする。

「会社を守るのはプロじゃないわけでしょ・・・」マウスが返す。

「プロっていうのは結果を出すから・・・プロなんだ。」タチバナが言う。

「結果だけが、・・・〝プロ″と認めさせるんですよ。世間様に。」官僚が補足した。

「バロンとオレら・・・どちらが・・・プロか・・・ってことか(笑)」タチバナがいう。

「どちらが・・・人間を深く考えているかだろう。」私が付けくわえた。






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WAVE放送局です。

次は、WAVE社の会議室から官僚さんのリクエストです。

 ♪♪♪




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深夜1:00  総務省合同庁舎


12月20日ごろ各省庁に対する予算の配分を記した大蔵原案が出る。その後局長折衝や大臣折衝を経て、予算は確定するのだが、この年は御用納めの12月28日ギリギリになった。

お陰で各省庁の担当課長は、御用収め以後も働かざるを得ない者が多かった。


WAVE社の放送事業部長のマツムラは、総務省情報通信局〇〇放送課の係長の連絡で、30日の深夜、正確には31日の午前1時に呼び出された。御用収め後の呼び出しは異例中の異例だ。

官僚は絶対に企業に訪れたりはしない。必ず呼び付ける。お上だからだ。

それでも、この時間は余程のことだ。

もちろんこの時間なので、正面玄関は閉まっている。

合同庁舎の建物を大きく回り込んで、裏口から入るよう指示された。

警備員に名刺を見せ、〇〇放送課に用事のある旨を伝え、入館用紙に0:55分、WAVE社、マツムラ・クニアキと書いて、庁舎に入った。

深夜1時、31日だというのにも関わらず、割と多くの職員が働いている。

「年末のこの時間だというのに・・・・日本の官僚も大変だな・・・」とマツムラは人ごとのように心で呟いた。

エレベーターで4階のフロアに下りると、廊下は暗かった。他の部署も電気は非常灯のみが点いていた。

マツムラは何度も来ているようで、慣れた足取りで目的の部署に向かうが、心中は穏やかではなかった。

監督官庁とその許可(認定)を受けた企業。上下関係は歴然としている。ディフォルメなしに言えば、官僚様と虫ケラのような関係だ。

マツムラは、WAVE社に入る前から、この業界で仕事をしている。ほぼ、その経歴の多くを監督官庁と認可企業とのパイプ係として過ごしてきた。パイプ係と言えば聞こえはいいが、簡単に言えば、怒られ役で、叱られ役であり、WAVE社にとってのバッファーであり防火扉で吸音材の役目だ。

〇〇放送課。

目的の部署の片隅だけ、電気が点いていた。それぞれの部署は壁で仕切られているのではなく、大きなワンフロアを金属製のキャビネットや机の配置で仕切っているだけだ。

だだっ広いフロアの一番隅は、もちろん壁があり、簡単な来客の応対ができるようになっている。仕切りはブルーの布地が貼ってあるプラスチック製のパーテーションである。

上からのぞけば、誰が訪問しているかがわかる高さだ。

テーブルは白く、通販カタログにありそうなモノで、椅子も同様、アスクルの最初のページに乗ってそうな安っぽいモノだ。色はグレーとブルーで構成されている。

そのパーテーションで仕切られた所の天井だけ電気が灯され、そこに〇〇放送課の課長と係長、そして調査官が座っていた。

本来というか・・・通常の昼間は禁煙だろうが・・・缶ビールの空き缶を灰皿代わりにして、課長は煙草を吸っていた。

暖房は切ってあるらしく、フロアは結構寒い。

「お待たせしました。」ふかぶかと頭を下げて挨拶をするマツムラに課長は咥(くわ)え煙草で腕組みをしたまま無視をした様子でいる。係長が座りながら顎でテーブルに着くようにマツムラに指示をした。アロケ(予算割り)の遅れでいつもより、苛立っているのだろうか・・・心の片隅でマツムラは、嫌な予感を感じた。

「何考えているんだ?・・・オメェらは!」叱り役の調査官が最初から声を張り上げる。

「この忙しい時期に・・更なる問題を持ち込むな・・・バカ野郎!

この仕事はマゾではないとできない。マツムラはマゾに徹する覚悟を決めた。

「止められるらしいじゃぁ・・・ねぇか!」調査官の声は地検の取調官のような迫力だ。さすが警察官僚からの出向だけのことはある。

どっから漏れたのか・・・監督官庁にマツイ不動産の件が漏れていた。

すでにWAVE放送局は、過去放送事故を数度起こしており、始末書の数は数知れず・・・今回、更に事故を起こせば、放送認定の更新どころか、認定の取消しになる恐れが高い。

放送法が施行(1950年)されてから、60年以上になるが、いまだかつて放送認定を取り消された企業は一社もない。WAVE社はその第一号になるのか・・・

警察犬の用に吠えまくる調査官を左手で制止し、課長がゆっくりとした口調で、話し始めた。

「本日中・・・つまり年内までに放送休止申請を出してください。」

「そんな突然に・・・・」

「こちらは最悪の結果も想定しておかなければならないのですよ。これは保全です。」

WAVE社の放送を認定したのは、前の前のそのまた前の課長だ。

言わば、現在の課長の先輩に当たる。今は立派な局長候補の一人だ。その立派な上司が認定したものを「取り消し」にすれば、当然、それは前任者のおこなった仕事の否定に繋がる。現在の課長の出世に大きく響く。しかも、そんなバカな認定をしたのはけしからんと世間の非難を受けるのも現在の課長である。

認定した課長ではない。

「保全は自分の出世だろ・・・」と喉まで出かかったがマツムラはグッと飲みこんで

「申し訳ございません。ご迷惑をおかけいたしております。」とだけ口に出した。

「休止届が出せないなら、認定を返上しろ。」調査官が脅迫めいた口調で畳み掛ける。

「取り消される前に返上した方が、怪我が少ない。お互いの為だ。」

「申し訳ございません。ご迷惑をおかけいたしております。」マツムラは繰り返した。

「放送事故を起こせば・・・認定取り消し決定ですよ。」課長は冷たく言い放った。

「降りしろは、ないぞ。」調査官は再度警告する。

降りしろとは官庁用語で妥協するところはないという意味だ。

「ウォッチしているからな。」頭を何度も下げて、後ずさりしながら、部署を離れるマツムラに調査官は、ダメ押しの言葉を投げかけてくる。

ウォッチとはこれも官庁用語で、きっちりアンテナ張って監視していると言う意味と、単なる傍観者で、責任はお前にあるといっている場合のどちらとも捉えられる言葉だ。


どっちの意味だ?マツムラはエレベーターのボタンを押しながら考えた。

どちらにしても・・・放送事故=免許の取り消しだと。マツムラは腹を括(クク)ってWAVEの本社に歩いて戻った。




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WAVE放送局です。

もう、最後の曲です。WAVEの放送事業部長のマツムラさんのリクエストです。

最後まで・・・聞いてくださってありがと♡


♪♪♪



来年まで

22時間17分33秒・



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(いよいよこの物語のラストが近付いているな(笑)

・・・バロンをぶちのめす作戦開始だ(笑)

楽しんで、そして頑張って・・・今・・・書いてる。。私が実際に考えたバロン対策は何か?

結果は決まっているのだが。。。90%はノンフィクションだからな。10%は嘘だ(笑)

読者のみなさんは・・・考えて読んでくれたら嬉しい。(笑)

あったことを書くだけなので楽なんだが(笑)・・・でも面白く描かないとな

こうご期待・・・言い過ぎか(笑)・・・

事実はどうか?推理してほしい  笑)







病院の人形医者

http://www.flickr.com/photos/miyon_sybert_douval/5562185076/


ハガキのようなアート

http://www.flickr.com/photos/journaljill/


その他のイラスト風ナイスナ絵

http://www.flickr.com/photos/further1/