中国だかどこだかの古事にこういうのがある。
~有名な「木登り名人」が大きな木の周りに観客を集めて、自分の弟子をその木の登らせたという。
観客は、名人の弟子が木を登る一挙手一投足を、固唾を呑んで見守っていた。しかし、観客が冷や冷やしながら見ているのに、名人は助言を送るわけでもなくじっと黙ったまま。
名人の弟子が木の頂上まで登り、観衆から拍手が起こる。そして弟子はゆっくりと木を下り始める。
やがて人の背丈より少し高いぐらいの高さまで降りてきたとき、名人が初めて口を開いた。
「気をつけろ。」
観客は皆、「例え、あんな位置から落ちても大怪我はしないだろう。」と思った。
弟子が地上に降り立つと、観衆の一人が名人に問うた。
「なんでもっと高い場所、もっと危ない場所で助言しなかったのですか?」
名人は答えた。
「弟子に技術的なことは教えてある。危ない場所で気をつけるのは誰でもできる。しかし、『もう大丈夫だろう』と気を緩めたときに人は失敗をするものなのだ。」
名人は観衆の前で木を登らせることで、弟子に一番大事な「心」を教えたのであった。~
あれは数年ぶりに再会したorangeobject君と横浜を歩いていた時だった。携帯のメールを交換しようという話になり、彼の携帯電話の画面にアドレスを表示してもらった。それを見ながら自分の携帯に文字のつづりを打ち込み、「送信」。
「・・・あれ?届かないな。返ってきた。」
私は何度か綴りを確かめたが、間違っている感じがしなかったので、
「綴り間違ってる?」
と半分、何かの間違いだろうというぐらいの気持ちでorangeobject君に自分の携帯に表示されたアドレスを見てもらった。
数秒後、異変に気づいた彼が笑いをこらえながら言った。
「docomo(ドコモ)が・・・docome(ドコメ)になってる・・・」
まさか!・・・@より後ろを間違っていたとは・・・。
冒頭の木登りの古事になぞらえると、私は木を下りる途中・残り2mほどの高さから転げ落ちて足首をくじいた間抜けな弟子ということになるだろうか。
彼は「ドコメ」という語感をいたく気に入ったらしく、
「『どこめ!』ってなにか怒られているみたいだ。」
などと言っていた。
私も、「くじいた足を笑い話に変えてもらえば幸い」と思い
「『どこめ』は「お前は“どこ”のわか“め”じゃ」の略である、と提案しておいた。
orangeobject君は妖怪について詳しいので、「どこめ」という新しい妖怪を創作しようという話にまでなったのだが、それは考え中である。漢字で当てると「怒呼女」かな。
小さい失敗もこれだけ話が広がれば幸せだ。
この数日後、別の知り合いとアドレスを交換することになり、またしても同じ過ちを犯してしまった。
「vodafone(ボーダフォン)」を「vobafone(ボバフォン)」と打ち間違えてしまったのだ。
その際、その知り合いには、
吐き捨てるように「バカじゃないの」
と言われただけである。
気の合う友人が居て良かった、と改めて思った。
※冒頭の古事はうろ覚えの上、脚色しています