【X'masナイト】 時間
(投稿者:柚子様)



24時間ヨンと過ごせるなら…前半12時間を1351年の高麗で、後半12時間を2014年の日本で一緒に過ごしたいです。


【2014年・日本】前夜

明日は1日ヨンとデート。
待ち合わせは早朝だから夜のうちに頑張ってお弁当を作ります。
鮭のお握りと卵焼きに唐揚げ。
ポットには冷たいお茶と温かいスープを。
果物も何か持っていこうかな?
あ、そうそう、おしぼり忘れたらダメよね。


【1351年・高麗】24時間スタート

夜明け前、私はヨンの待つ高麗へ。
天門を抜けると、背の高いシルエットが見えた。

「お待ちしておりました」
「おはよう、ヨン。今日は1日よろしくね」
「一緒に楽しみましょう」

2人でチュホンに跨り向かった先は湖のほとりでした。

釣り糸を垂らすヨンの隣に座り、段々と明るい色彩に染まってゆく高麗の空を目に焼き付ける私。
朝まずめの成果かヨンは次々と銀色の魚を釣り上げていきます。

4匹目の魚を釣り上げた後、ちら、と私の顔を見たヨンが
「やってみますか?」
と言った。

「教えてくれる?」
「もちろんです」

太陽はすっかり昇ってしまい、お互いの表情がよく見えるようになっても、私はまだ1匹も釣れなかった。

でも、ヨンの隣で2人きりでヨンが楽しそうにしているのを見ているだけで嬉しかった。

ぐぅ。
やだ、お腹が鳴っちゃった。
くっくっとヨンが笑った。

「腹がすきましたね。焼きましょう」

ヨンが慣れた様子で火をおこし、串に刺した魚を焼いていく。

「あのね、お弁当作ってきたの。食べる?」
「大きな荷物は弁当でしたか。いただきます」
嬉しそうに目を細めて言った。

ヨンにおしぼりを渡してお弁当を広げ、ポットのスープを注ぎながら
「冷たいお茶もあるのよ」
と言ったら
「せっかくあなたが用意してくれたのだ。両方いただきます」
と答えてくれた。

お握りと、卵焼き。
ヨンの釣ってくれた魚と唐揚げ。
大きな口を開けてお握りを頬張るヨンをじっと見つめていたら
「美味い」
一言、そう言ってくれた。

「魚は、いかがか」
焼けた魚を手渡してくれながら。
「食べるわ」
受け取って、一口かじった。
焼きたての魚は熱かったけれど、身がふっくらとして美味しい。
「美味しいわ、とても」
ヨンの目がまた細くなった。

それからずっと並んで釣り糸を垂らしていた。
相変わらず私はボウズのままだった。
それでも、心は満たされていた。

太陽が真上を過ぎ、2人の影が長くなり始めた頃
「そろそろ戻りましょう」
「そうね」
またチュホンに跨り、天門に向かった。

天門に入る前、私は振り返って高麗の夕日を見つめた。
ヨンは私の気の済むのを待つように、天門の前で私を見ていた。

私がヨンのいる天門の方に顔を向けるとヨンが私に左手を差し出した。
私はその手にぎゅっと掴まって、一緒に天門に飛び込んだ。


【2014年・日本】夜はこれから

ヨンと手を繋いだまま、眩しい光の海を抜けると、私の住む街に立っていた。

「ここがあなたの世界なのですね」
「そう。ここが私の生きてる場所」
「夕焼けは、同じ色だ」

…そうね。
私は泣きそうになった。
目に力を入れて口を結んで…それから口角を上げて…言った。
「ヨン、何したい?」
笑顔で言えたかしら?

「あなたの生きる場所を見せてくれますか」
「もちろんいいわよ~」

駐車場に停めてある私の青い車。
「どうぞ」
助手席のドアを開けてヨンを促す。
彼には少し狭いかしら?

外からドアを閉めて運転席側に回る。
隣に座り、キーを刺す。
静かにかかったエンジンに、ヨンは驚いたようにこちらを見た。

「大丈夫、馬車より速いのよ」
シートベルトを締めてあげたら窮屈そうな表情をした。
首都高から湾岸線に乗る頃には窮屈そうな表情は好奇心旺盛な子供の表情に変わっていた。

ベイブリッヂを渡り、大黒PAに車を停めた。
車を降りたヨンは
「海の匂いがしますね」
と言った。

「さっき大きな橋を渡ったでしょう? あれは海の上の橋なのよ」

ジャンボ機が雲に線を描いて飛んでいくのが見えた。
「同じ世なのか…600年以上明日の世界なのですね、あなたの生きる場所は」
「そう。同じ世界よ。明日の明日の、そのずっと先」

「あなたの家に帰りましょう」
「ええ」

私の青い車で来た道を戻った。
観覧車を見たヨンが
「大きな花のようですね」
と言った。

私の部屋のドアを開けて、ヨンを招き入れた。
「早起きしたから疲れたでしょう? お風呂に入るといいわ、疲れが取れるから」
シャワーの使い方を教えて、ヨンを浴室に押し込んだ。

バスタオルと着替えを出してから、急いでお米を研いで炊飯器にセットする。
冷蔵庫を開けて、早く作れそうなメニューを考える。
あのひと、お酒飲むかしら…?
日本酒か焼酎かしらね?

「いいお湯でした」
浴室の扉を開けてバスタオルを腰に巻いたヨンが出て来た。
ちょっと目のやり場に困ったけれど、用意しておいた浴衣を着せて
「髪を乾かしてあげる」
と椅子に座らせた。
ドライヤーのスイッチを入れ、ヨンの濡れた髪に指を差し入れるとヨンは気持ち良さそうに目を閉じた。

2人でささやかな食卓を囲んで、少しお酒も飲んだ。
とりとめのないお喋りをして、たくさん笑った。
ヨンはお酒が強かった。

お酒も回り、早起きしたせいもあって、私は眠くなってきた。
でも、この夜が終わればヨンとバイバイしなくちゃいけない。
そう思ったら寝ちゃうなんて…駄目。

「ヨン」
「はい」
「今日凄く楽しかったね」
「はい」
「ずっとヨンと一緒に居られて、私幸せだったの」
「はい」
「今日バイバイしたらもう会えないね」
「…はい」

涙が零れた。
止めなきゃ、笑ってバイバイしてヨンには笑顔を覚えててもらうんだ。
そう思っても、涙は後から後から溢れてきた。

「ヨン…」
「はい」
「…帰ら…ないで」

ヨンが立ち上がって私の前に来た。

「顔を…上げてください」

そう言われても泣き顔を見せたくなくて上を向けなかった。
するとヨンは私の前に跪くと、私の頬を両手で包んだ。

包んだ両手の親指で、私の涙を拭うと
「あなたを残して帰るなど…しとうないのです」

ヨンの顔が近付いてきて、唇が私の唇に触れた。

私はヨンの首に腕を回した。

触れるだけの口付けは角度を変えて回数を増やした。

泣き止んだ私を認めると、そっと口付けを止め、私の目を見て
「私も今日1日楽しくて幸せでした。あなたとこのまま離れたくありません」

「じゃあ私も連れてって。ひとりで行かないで」

「どちらの世界に2人でおっても、1日経てば消える定めでしょう…?」

「……」

「あなたには笑顔で生きていて欲しいのです」

「ヨン…」

「あなたが眠るまで傍におります」

「いなくなっちゃイヤ」

「私の心の中にあなたは永遠に。私もあなたの中に永遠におります」

「ヨン…」

「あなたも疲れたでしょう。もうお休みください」

私を抱き上げるとベッドに運んだ。

「一緒に寝て」
「はい」

ヨンと向かい合って横になると、ヨンの腕が私を包んだ。
ヨンの胸に顔を埋めて泣いた。

「ヨン、愛してる…」
私の髪を撫でながら、優しい口付けをくれた。

「眠って」
ヨンのその声を聞いて、私は眠りに堕ちた…。


腕の中で眠る涙の跡の残る愛しい顔を見て、ヨンは目を閉じた。
もうすぐ待ち合わせてから丸1日経つ頃だろうか…。
笑顔にしてさしあげたかったのに、最後はやはり泣かせてしまった。
私も離れたくはないのです。

あなたと過ごした今日のことを私は一生忘れませぬ。
眠る額に口付けた後、起こさぬよう柔らかく抱き締めた。

泣き顔で眠るひとを残して、抱き締めた腕から…ヨンの身体は消えていった。



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柚子様のX'masナイト

はぁぁん、切ないよ…

愛し合っている二人なのに、互いにどちらの世界にもとどまる事は許されぬのです…

何故かって?それは、憎き、鬼りおが、24時間でバイバイよというルールを作ったからです ( ̄^ ̄)>イバリ

愛し合う二人を引き裂く鬼りお。そんな鬼も、この柚子様のお話には涙が…つまりは鬼の目に涙を浮かべちゃうほど素敵なお話でした

この二人はまた来年のクリスマスに会えるでしょうか?それとも会えないのかな?りお次第?

来年は3日くらい時間をくれと、変態乙女たちからのこわーい目線をひしひしと感じておりますが…

そうしてしまうと、ここぞとばかりに”はらむ”者たちが増えても、困ります故…やっぱり24時間くらいがちょうどよいのです

柚子様、本当に素敵なお話どうもありがとうございました



高麗へと舞い戻る…

「テジャン!テジャン!」

薄れた意識を何とか、張り巡らせ、耳を澄ますと、遠くからテマンの叫び声が聞こえてくる

重く閉じた瞼をそっと開けていくと、完全に開ききる前に、頭にずきんと酷い痛みが走った

うっ…

何だこの頭痛は…

堪えられぬような痛みが、今俺が置かれた状況を、考えさせる事をさせてくれなかった

頭が割れそうなくらい痛み、ぐらぐらと揺れるようで、気をうまく保つことが出来ない

何とか、意識を保とうと、懸命に自分の気を整えるも…俺はそのまま、また意識を失ってしまった


数日後

俺は典医寺の寝台の上で、その目を覚ました

目を開けた時、薄らぼけた目で辺りを見回すと、テマンやチュンソクやら、ウダルチの面々に囲まれていた

意識を取り戻した俺の顔を見て、泣いている奴すらいる始末だった

余程、俺はひどい状況だったのだろうか

みなの喜ぶ顔を見て、気持ちが少し楽になり、俺は小さく息を吐いた

少しして、テマンから聞いた話に、俺は驚きを隠すことが出来なかった

一昨日、突然、俺が誰にも、何も告げずに、忽然と姿を消したのだと

姿を消していた時間は、ほぼ24時間に渡るようだ

テマンが俺の姿を見失ってから、ちょうど24時間後に、俺を湖のほとりで発見したという

そして、戻ってきたかと思えば、そのまま倒れて、1週間もの間、そのまま眠り続けていたという話だ

俺は、身体じゅうが怠くて、目をつむりながらその話を聞いた

「すまない、少し一人にしてくれ」

自分の置かれた、この理解に苦しむ状況を整理しようと、ウダルチの奴らを部屋から追い出した

俺は「テマンお前は残れ」と視線で合図した

部屋に二人きりになると、相変わらずテマンは、眉間にしわを寄せ、心配そうに俺を見下ろしてくる

「テマン状況を説明してくれ」

「テジャン…その…見つけた時、この服をお召しになっていました」

テマンは薄っぺらい藍色の衣を、恐る恐る差し出す

「その…おいらが、見たことないような、そんな不思議な衣をテジャンは着て倒れていて…」

差し出されたその衣を見た瞬間、途切れていた記憶がフラッシュバックのように、チェヨンの脳裏で結びついていった

「あの方は!あの方はどこだ!!」

チェヨンは慌てたように起き上がると、とり乱した様子で、顔を強張らせ部屋を出て行こうとする

しかし、体がうまく動かずに、がくんと倒れかかってしまう

「てっ、テジャン駄目です。まだ寝ていないと」

テマンが半泣きになりながら、俺の体を支えて、出て行かぬように、血相を変えて食い止めてくる

「てっテジャン…おっ、おいら、よく分からないですが、柚子って、柚子って呟いてました。その人の事ですか?」

「俺が、柚子と呟いていただと?」

「テジャンが、湖でまた意識を失う前に、柚子…って、苦しそうに、そっ、それを言ってました」

柚子…だと…?

俺の心は、その女を知っていた

すべてが夢を見ていたようだった、何処からが夢で、どこからが現実なのか定かではない

しかし、夢だと言うならば、この薄い高麗にはない衣が、何で俺の手元にあるというのだ

つまりは全ては夢などではない

この衣は…俺と柚子が、共にいたという確かな証

ここ高麗の地であなたと出会い、そして、あなたの生きている世界を俺は目にした

何故、俺とあなたが出会ったかも、分からない

ただ、俺は天に導かれるように、夜明けと共にあなたと出会い、二人幸せな時を過ごしたのだ

そして、俺はあなたと恋に落ちた

いや、違う

俺は始めからあなた事を、慕っていた…愛しい人柚子に会いたくて、俺はそこに行ったんだ

こんな馬鹿げた話、誰が信じると言うのだろうか

過去の記憶もない女に、俺が懸想していたなどと…

だが、確かに俺の心の中に、柚子、あなたが息づいている


俺はここ高麗であなたと時を過ごした。そして、柚子と共に釣りをし、柚子が作った飯を共に取った

太陽が沈みかけたころに、チュホンに二人跨って…柚子が住む世界へと、俺は足を踏み入れた


柚子が住む世界の、夕焼けを見た

ここ高麗も、柚子が住む世界も、陽の光は同じ色をしていた

二人の世界は本来は決して結びつく事を、天は許してはくれぬ。しかし沈む陽は、どちらの世界も変わらず同じ色映し出していた

永遠に共にいたいと俺は願った

あの方もきっと同じ思いだったに違いない…

しかし、俺の住むこの地と、あの方の住むこの世界は、たった24時間その間だけ、行き来する道が開かれた

俺と柚子は、決して相容れない星の元に生まれたのだ

しかし天が俺たち二人が愛し合う事を、1日だけ許してくれた

「やり切れぬ…」

チェヨンは大きなため息と、たった一つ、その言葉だけを漏らして、手に持つ衣を強く握りしめた


柚子様へのお礼のお話です
本当にありがとうございました


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