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早稲田大学大隈講堂裏劇研アトリエにて、早稲田大学演劇研究会企画公演「不敬罪」を観た。早稲田大学演劇研究会には「犬と串」という既に有名な人気アンサンブルがある。アンサンブルとは劇研内劇団のこと。過去には同時期に三つ四つのアンサンブルがあった時代もあるが、現在は犬と串しかない。その犬と串が次回公演で劇研を離れることが決まっている。いよいよ本格的にプロとして歩んでいくわけだ。


犬と串が出て行くとアンサンブルがなくなってしまう。1970年代にアンサンブル制度が出来て以来、劇研にアンサンブルが無かった時期はない。新たなアンサンブルの登場が待たれるが、その候補の最右翼がこの企画公演のメンバーだ。


そういった意味で今回の公演、ただの公演ではなく、彼らにとっては劇研のアンサンブルとして認めてもらえるかの試験に当たる公演なのだ。なにしろ、天下の劇研のアンサンブルと言えば、古くは第三舞台から最近では、少年社中、チャリT企画、北京蝶々、犬と串とほとんどのメンバーがその後も演劇界で活躍しているのである。


結論から言えば、今回の企画公演、早大劇研の名に恥じない水準の高いものだった。さすが厳しい練習で有名な劇研を選んで入ってきたメンバーだけのことはある。まず、スタッフ力が凄い。オープニングからあまりに華麗な照明で驚かされる。日本中どこを探してもも、大学演劇でこれだけ凄い照明が出来る団体は他にはない。圧倒的に差をつけて日本一と言っていい。そして舞台美術がまた凄い。劇の世界を象徴しながら、機能的でなおかつ美しい。照明映えさえ考えて作られているところに、質の高さを感じる。もちろん音響も衣裳その他も全てが学生演劇とは思えないほどハイレベルだ。


そしてキャスト陣だが、メンバーは驚くことに1.2年生だそうだ。大学演劇は3年、4年になって急成長する。1年2年ではまだまだ高校演劇に毛の生えた程度の演技しか出来ないのが普通だ。それにも関わらず、この公演では、出てくる役者出てくる役者が魅力的なのである。もちろん、まだ上手いというところまでは行っていない。しかし、それにも関わらず、味があり、観客の心をつかむことが出来る役者たちなのだ。

特に主役のナオト役一色洋平は、群を抜いている。彼の演技を観ながら、大学演劇界に新しいスターが誕生したなと思った。身体の切れがよく、さわやかで、それでいてどことなくコミカルで、歌も上手く、と何拍子も揃っている。大型新人登場だ。


登場人物は7人だけ。その7人がさまざまな役を早替えで演じるのだが、その変わり身が見事。あるとき味方役の人物がつぎの瞬間別の役で敵役を演じたりする。普通は観ている方は混乱するものだが、そこら辺に全く違和感を感じさせなかった。ということはそれぞれ演技の基礎がしっかりしているということである。一色洋平以外にはミント役の白井愛弓にうまさを感じ、サカナ役の池村匡紀とエリカ役の谷田部美咲に存在感を感じた。他の役者もそれぞれ個性的で魅力的だ。


演出の浅野祐希は、犬と串のいいところを継承しながら、独自のスタイルを作り出している。スピード感あふれる演出、そして、危険を伴うほどの華麗なアクションシーンは見事だった。魅せる演出が出来る演出家である。

ただ、役者の鍛え方は犬と串に比べるとやはり落ちる。これは犬と串が若手劇団の中では突出しているのでしょうがないことだが。



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