CoRich手塚の小劇場応援ブログ!-飛龍伝


大阪一心寺シアターにて一心寺のプロデュース公演飛龍伝を観た。


柿喰う客玉置玲央の山崎一平が出色。後半は切なくて涙涙の連続。玉置玲央はどんな役をやらしてもそつなくこなす名優だが、ここまで魂のこもった演技を見たのは初めてかもしれない。熱い台詞を聞きながら、玉置玲央の代表作になるかもしれないと思った。東京の演劇人にも見せたかったなあ。そして今は亡きつかさんにも見せたかった。



昨年新橋演舞場で黒木メイサの飛龍伝「飛龍伝2010ラストプリンセス」を観たときはまだつかさんが亡くなるなんて思ってもなかった。癌を患ってるとはいえ、本番中は劇場にいて、たとえ車いす状態でも厳しいだめ出しをしていると信じていた。観終わった後楽屋にいって、つかさんが劇場に来ていないということを聞いたとき、初めてつかさんの病状がただならないものだと知った。



ラストプリンセスには病気で倒れているつかさんに恥ずかしくない公演をしようという役者スタッフの意気込みが感じられた。それが作品を輝かした。しかし、今回の一心寺の公演もそれに勝るとも劣らない熱い気持ちが芝居全体から感じられた。演出もスタッフも、役者も、相当つか芝居が好きな人たちが集まって、本気でやっているというのがよくわかる。



私と飛龍伝の縁は深く、初演の飛龍伝を観てつかこうへい事務所に入ったと言ってももいい。初期のつかさんの三部作「郵便やさん、ちょっと」「戦争で死ねなかったお父さんのために」「初級革命講座飛龍伝」の中では圧倒的に「飛龍伝」が好きだった。


私が創った早稲田の学生劇団、てあとろ50’で私が他人の戯曲を手がけたのはつかさんの飛龍伝だけだったのである。そう私は飛龍伝を演出したことがあるのだ。


もっとも私がやったのはまだ神林美智子が出てこない時代の飛龍伝。今の人は知らない人が増えたが、「飛龍」とは石の名前、機動隊に投石で挑む全学連の伝説の石の使い手の物語だったのだ。


今の人が知らないのはそれだけではない。「飛龍伝」は別役実の「象」という作品をオマージュして創られた作品であること、早稲田の演劇研究会のアトリエで初演されたことなども知らない人が多い。VAN99ホールという、なんと99円で演劇を見せる劇場で飛龍伝が上演されたとき、出演している平田満も三浦洋一もみんな学生だったのに、前売り券は5分で売り切れ、幻のチケットとなってしまった。そういう作品だったのだ。



まだ学生運動の残り香があったあの時代、学生運動のことをあのように描くことは衝撃的だった。あらゆる意味でセンセーショナルで、熱くて、カッコ良くて、切なくてたまらない芝居だったのだ。今回そのつか芝居の醍醐味を見事に再現し、熱く、かっこよく、切ない芝居が出来上がった。



役者は玉置玲央以外にも魅力的な役者が多数。桂木役の浅雛拓がこれまた素敵だった。神林美智子役の田所草子も好演だった。私が見たのはBチームだったが、Aチームも是非観たかった。それが残念だ。



再演希望、そして東京公演を熱烈希望!と書いておこう。