ヘッジファンド戦略 債券裁定(債券レラティブ・バリュー)

市場金利はどのように変わるのでしょうか。大まかに分けてマクロ経済の動向と需給に分けられます。景気が悪いときはお金の循環が良くないということになるので、国の中央銀行はお金の量を経済システムに増やそうとします。これは体内に血液が良く回っていないので、輸血するようなことです。

お金の量が増えれば、その価値が下がり、「お金の値段」である市場金利も下がります。逆に好景気では、流通しているお金の量を減らそうと中央銀行は通常動きますので、お金の価値が上がり、市場金利も上がります。

需給は、何らかの理由でその債券の供給が増えるか減るか、投資家の債券保有ニーズが増えるか減るかの綱引きであります。このような大まかな二つの要因が市場金利および債券の価値に影響します。

ただ、債券裁定のヘッジファンドマネジャーは債券の絶対的な価値の上下には、あまり興味を示しません。関心を持っているのは債券同士の相対価値(レラティブ・バリュー)なのです。どちらが良いか、天秤にかけるような戦略です。

通常は償還日が短い債券と比べて償還日が長い債券は不確実性(リスク)が多いので市場金利は高く取引されています。横の軸が償還年で縦の軸が市場金利で図表を描くと「利回り曲線」が浮かびあがります。イメージとしては、お椀を真ん中に割って、横に寝かしたようなものになりますので「イールド(利回り)カーブ」とも言います。しかしこのカーブは固定されているものではなく、生き物のように動きます。

例えば、国が財政破たんへの道をたどっているという認識が市場で広がれば、償還日が遠い債券ほど不確実性が高まり、売り込まれますので長期金利が上昇します。この場合、短期金利と比べて長期金利は上昇しますので、「カーブが立つ(Steepingスティープニング)」と言います。

一方、不況で投資難の状態が続けば、投資家はなるべく比較的高い金利を手に入れたいために長期債券が買われて市場金利が下落します。この場合は、短期金利と比べて長期金利が相対的に下がりますので「カーブが寝る(Flatteningフラッテンニング)」といいます。

長期債券を軸としてカーブがぶれるだけではなく、短期債券の軸を中心にカーブがぶれることもありますが、このようにカーブの形が変わっていくということは、短期債券と長期債券の間に割安・割高観が生じているからです。

取引サイズの大きさや流動性のことを考慮すると、このようにカーブの形に賭ける運用手法は、実際の「現物」債券ではなくて、金利スワップというデリバティブを投資対象としたほうが効率的にポジションを作れます。

この類の取引の特徴は、ひとつひとつの儲ける値幅はそれほど大きくないので、レバレッジ(借り入れ)を活用して、投資資本に対する収益性を上げようとします。このレバレッジを過剰に賭けて墓穴を掘ってしまった例は、98年に経営破たんしたLTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)です。


マネックスラウンジより
http://lounge.monex.co.jp/pro/shibusawa/2005/12/05.html