蒼いノクターン~ピアノとマンドリンオーケストラの為の「バラード」(内藤淳一) | Mandolin Orchestra Concordia Media Archive

蒼いノクターン~ピアノとマンドリンオーケストラの為の「バラード」(内藤淳一)

しばらく間が開きましたが、また少しずつ私たちの演奏を紹介したいと思います。
今回と次回はピアノとマンドリンオーケストラの協奏作品を紹介します。

 作者の内藤淳一氏は吹奏楽の世界ではお馴染みの作曲家ですが、マンドリン合奏の為にもいくつかの作品を書いていらっしゃいます。詳細は後述に譲るとして、本曲は仙台で活動するチルコロ・マンドリニスティカ・フローラで初演された抒情的な逸品。チルコロ・マンドリニスティカ・フローラは斯界に長い間尽力し続けている高橋五郎氏が主宰する合奏団で、本年で創立45周年を迎える長い歴史のある斯界の重鎮団体です。
 本作はその創立20周年を記念して初演されました。特徴的な3つの楽章はいずれも抒情的で大変聴きやすい作品となっていますが、演奏される機会が少なく、もっと多くの団体で演奏される事を期待したいと思います。特に第二楽章は非常に美しい響きに満たされたノクターンとなっており、本演奏でもピアノ独奏を担当した増井めぐみさんと相談し透明感のある蒼をイメージした夜想曲を即興的な要素も盛り込みながら作り上げてみました。作者お膝元の演奏において名演奏を聞かせていた、平間百合子氏とはまた違ったロマンティシズムを味わっていただけたら幸いです。
 

 $Mandolin Orchestra Concordia Media Archive 内藤淳一 ピアノとマンドリンオーケストラの為の「バラード」(1984)   
   Ballade for Piano and Mandolin Orchestra by Junichi Naitou
                         ピアノ独奏 : 増井めぐみ 





 

Ⅰ~ Prologue(プロローグ)
Ⅱ~ Nocturne(ノクターン)
Ⅲ~ Ballade(バラード)

 作者は仙台に生まれ、宮城教育大学を経て、吹奏楽指導者として現在仙台市市民文化事業団評議員をつとめる。作曲を本間雅夫氏に師事し、代表作として1983年度全日本吹奏楽コンクール課題曲に入選の「吹奏楽の為のインベンション第一番」、2001年同コンクール課題曲である「式典のための行進曲~栄光をたたえて」など、吹奏楽界においては作品、指導とも精力的な活動を展開しており、平成12年度宮城県芸術選奨新人賞を受賞している。斯界においては本曲の他、「マンドリンオーケストラの為の組曲第1番、第2番」、柳田隆介、宍戸秀明両氏と連作をなした「ボカリーズII」がある。
 本曲は氏のマンドリン合奏曲としては初めての作品で、3つの楽章からなる協奏的作品。3つの楽章は各々独立性が強く、単独の楽章での演奏も可能となっている。氏の作品の特徴である「明快さ」「ロマンティシズム」「物語性」といったテーゼが、3つの楽章にそのままあてはめられており、初めてマンドリン合奏に触れる方にも非常に優しい作品と言えよう。
 第1楽章は歯切れのよいアレグロ、氏の得意とする「マーチ」系の小品。第2楽章は独奏ピアノによるモノローグ的な導入部から、分散和音に乗せてユニゾンの美しい主題が展開される夜想曲。夜想曲といえば、アイルランドの作曲家ジョン・フィールドが創始者でショパンが完成させた夢幻的な作品を言うが、特徴としては静かな抒情に溢れた主楽節と、やや激情的な中間楽節からなり、アルペジオに乗せて幽玄な分散和音を得るものだが、本作もまさにその粋を究めた作品。この旋律は単純でいながら自由に、聴衆の想像力を喚起させる事の出来る秀作で、町灯りの気にならない郊外に行って、町の頭上に架かる星たちのようなきらめきを感じる方もいるだろう。第3楽章は本曲のタイトルともなっている「バラード」。バラードは「譚詩曲」と訳され、譚(はなし)という訳語のように音楽による物語を意図している。叙事的な想念を念頭において作られたと考えることができ、本曲もまた作品全体の中核をなす劇的な内容をもっている。幾度かのソロスティックな楽節とたたみかけるような熱情的な音塊が特徴といえる。

◆ピアノ独奏 増井めぐみ

東京芸術大学音楽学部附属高校ピアノ科を経て、同大学卒業。
パリ国立高等音楽院主催のオーディションに合格し、記念演奏会に出演。NHK交響楽団のメンバーとトリオなどで共演。宝塚ベガコンクール入選。
実相寺昭雄監督の映画作品集「ファンタスマ」にピアノ演奏で出演、冬木透等と共演。
エル・ジャポン主催、フランス大使館後援の「ジャン・コクトー・ナイトにに出演、など個性的な活動を展開。
作曲家としても「金子みすゞ 歌と朗読」「金子みすゞの生涯」などの作品がある。近作には中央アート社出版による編曲集「うたとおはなし おうちでコンサート」などがある。