樹木希林、役所広司で堪能した傑作「わが母の記」 | con-satoのブログ

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「美しい」日本映画とは、この映画の事なのだろう。

役所広司が昭和を代表する作家、井上靖を演じる「わが母の記」。

タイトルロールの母を演じるのは樹木希林。

いかにも典型的な母モノのようなタイトルに騙されてはいけない。

ハリウッド生活の長い原田眞人監督は、典型的な日本映画を装いつつ、ドラマツルギーは欧米式。

その混合が見事に成功している。

従来の日本映画にあるような、単純に年老いた母を思うような泣かせる母モノではない。

むしろ、母の存在はモンスターのよう。その母を乗り越えて、改めて母を認めるというのは、まるでギリシア悲劇のような親子関係なのだ。


作家になった息子は、幼い時に母に「捨てられた」と恨みを持ちながら成長する。

母が息子を預けたのは、祖父のお妾さん。

戦前、台湾に渡る一家は、どうなるとも分からない外地での生活のため、長男を田舎へ残す。

これが、その長男にとっては「捨てられた」という事になっている。その息子は戦後作家として成功。

少しボケに始まった母親と同居することになる。

でも、この母親。一見ボケでいるようなだが、ボケている「演技」をしているのではないかと周りが疑う、したたかなボケぶり。この母親を、これ以上ない位の名演で樹木希林は演じる。

もう、こうなると樹木の独壇場。日本の老婆の演技の最高峰は北林谷栄だと思っていたが、その存在を上回る樹木の演技。最近はワイドショウでも、樹木の存在の大きさが話題になるが、なんでも、自分色にして消化するこの俳優の凄さが全編を支える。


役所演じる息子も見事。頑固で頑なな作家。それでいて「優しさ」が滲むのは役所に演技者としての幅の広さ、深さ。

娘を演じる宮崎あおいも印象的な演技。大女優の道をひたすら歩む宮崎。それでも、この映画のような「助演級」の役にもこだわらず挑戦する。しかも、役所や樹木といった先輩の演技派に身をゆだねて気軽に演じる。

「スター」という「格」にこだわらない姿勢も見事。そして、助演でも、その十分な存在感を見せつける。

姉を演じるミムラ、叔母には南果歩という朝ドラチームも好演。

そんな中で、一番良かったのはヒット作「テルマエ・ロマエ」にも上戸の母親として登場するキムラ緑子。

わがままな母を見とる娘。時にこの老婦への怒りをあらわにしながらも、娘として役目を果たす昭和な女性像を演じている。このところ、こういう役柄を演じて日本映画を支える貴重な女優。


いかにも「昭和」な話。見事なセットやロケで、昭和の時代の美しさを回顧しながらも普遍的な親子の話として

楽しめる傑作になった。


間違いなく12年前半の日本映画ナンバー1。