Iさんとの出会いは私が利楽を開設してまだ間もないころでした。

 

いつものように利用者さんのリハビリに取り組んでいる時、利楽の前で一台のタクシーが止まり、中から初老の男性が下りてきました。

 

身体の片側に麻痺があり、運転手さんがトランクから車いすを出してくれました。

 

いきなりの登場で呆気にとられていると、Iさんは利楽を一通り眺めて、「来週からココに来るから」と話されたのでさらに驚きました。

 

とにかくリハビリがしたいとのことで、入所中の老健から一時外出の機会に見学に来たそうです。

 

Iさんのリハビリは移動能力の向上が目標になりました。筋力訓練、移乗訓練、歩行訓練などです。麻痺は残ったままでしたが移乗能力が向上したことでIさんの活動範囲は広がっていきました。

 

2年ほど経ったある日のこと、私はIさんの奥様から電話を頂きました。話を聞くとIさんが勝手に商店街に買い物に行って安全が保証できないから困るとのこと。確かに片麻痺の方がひとりで出歩くことが安全とは言い切れませんでした。しかし、そういう社会になればいいと考えていました。

 

Iさんの奥さんとは良く話し合いましたが意見の溝を完全に埋めることはできませんでした。でも、お互いに理解をすることは出来ました。そして肝心のIさんはあくまでもマイペースでお出かけです。私自身も今は無き西友の本屋さんでお見かけし、声を掛けさせて頂いたことがあります。「お送りしましょうか?」と尋ねたら「タクシーで帰るからいい」と拒否されました。

 

リスクはあらゆるケースで考えられます。生きることとは目的のためにリスクを取り続けることだと思います。だからずっと心の中でIさんを応援し続けました。事故につながらないように更にリハビリを頑張りました。

 

しかし結局Iさんは施設入所されてしまいました。御本人の奥さんと息子さんの意向を酌んでの決定でした。

 

あれからもう56年もたったでしょうか?今もあの時の気持ちは忘れません。

 

もしも心身に障害が生じたとしても、後遺症があったとしても、住み慣れた町で自分のやりたいことを堂々とやれる世の中を本気で作りたいと思います。そして同じ思いをもった人たちと力を合わせたいと思います。

 

リハビリテーションケア デイサービス利楽

小森晋吾
http://rihabirinoki.jp