ここは断崖の地ニャンパーニュ。
ここに聖猫騎士団の新たな拠点ニャンガス城が建設された。
この城は周りが断崖で囲まれているため正門から突破するしか手段がないのである。それに加えこの城にたどり着くためには行軍に厳しい無数の断崖を乗り越え更にはこの猫牢関(にゃんろうかん)と呼ばれる砦の関所を突破しなければならないのである。
アラン「あらよっと
おい新人、火薬は全部ここに置いておけ」
「分かりました隊長。おい、ボニーここだ」
「はいはぁい。よっこらせと」
アラン「しっかし、おめぇらよく働くなぁ。ニャスティーユの戦いでも最前線でよく頑張ったって軍の中でも評判だぜぇ。さすが龍之総帥お墨付きの精鋭だな」
純平「いえ。それも敢えてニャスティーユには少数精鋭の実戦経験のある者だけを集めたロベスニャエール宰相の猫を見る目があってこそ。それに加えアラン隊長の指示が我々の闘志を更に奮い立たせたのです」
ボニー「そうですよ隊長。退却の時も退路を迅速に確保する隊長の後ろ姿もカッコよかったですよ」
アラン「うれしぃねぇ、そう言ってくれるとよぉ」
純平「本当のことですよ」
アラン「俺みたいな軍人くずれのゲリラ活動ばかりしてたクズを鉄平総帥はこの近衛隊の隊長にしてくれたんだからな・・・。死ぬ気でその恩に報いらなきゃ死んでも死にきれねぇってもんよ」
ボニー「ふふ。隊長はどうしてこの聖猫騎士団に参加したのですか?」
アラン「ふん。世の中の鼻持ちならない連中に猫の凄さを見せ付けてやりてぇのよ。人間にも、モンスターどもにもな」
純平「何か訳でも?」
アラン「俺達みたいな第三身分出身の貧しい出生の猫でも尊厳はあるんだ。こう見えてもニャンコ百年戦争ん時は特攻部隊所属だったんだぜ」
ボニー「へぇ~。その頃から最前線を任されてたんですね」
アラン「はははは、ちげぇねぇ。
だがなぁ・・おらぁ根っからの戦争好きなんだよ。軍人辞めてからも各地で国や軍に抑圧されてる俺と同じ出生の連中を見るとな・・つい助けてやりたくなっちまうんだ」
純平「ご家族は?」
アラン「ふんこんな戦争マニアの甲斐性なしに愛想尽かして10年前に出てったっきりだ」
ボニー「会う気はないんですか?」
アラン「へへ。もうどこにいるかも分からねぇし、俺も探す気はねぇ。
ただ・・・ただ生きてくれてさえすりゃいいさ」
純平「・・・・・」
「隊長、情報参謀局長フランソワ様より伝令が参っております」
アラン「ほう。あの令嬢の貴婦人がこんなこ汚い軍人に伝言とはうれしいねぇ」
純平「よし、伝令をここに通せ」
「ハッ」
純平「なるほど・・討伐軍と川村朝シャーク軍が早くもぶつかり合ってくれたか」
アラン「いいねぇ~。如何にもなんでもかんでもてめぇらの思い通りにしてぇギルド帝国軍の考えらしいな。川村朝を反逆者扱いしちまうんだからな」
ボニー「隊長、川村朝は三種共存を訴える軍なのでしょ?
そういう点ではボクたちと似てるんじゃないの?」
アラン「確かにな。だが俺らとやつらの決定的な違いは猫単種で戦うのと三種共存で戦うことの違いだな。俺たちゃ猫の尊厳と自由を全世界に広め、少しでも無下な扱いをされてる猫を助けられればいいんだ。それに対して大袈裟なギルドが討伐軍なんて物騒なものをよこしてきやがったから俺たちゃ戦うまでよ。金も名声もいらねぇ、俺はただひたすら目標を狙撃するだけだ」
スチャッ
ボニー「ボクは隊長のその真っ直ぐな姿勢が好きよ」
アラン「よせやぁいこんな親父をからかうもんじゃねぇ」
純平「隊長のその銃・・年期の入ったいいライトボウガンですね」
アラン「ふふ。俺の相棒さ。
おっと、話がそれちまったがやつらがぶつかり合ってくれてる隙に俺達は軍事力を蓄えるだけだ。それにこの猫牢関は絶対に落とさせねぇ」
純平「はい。参謀局長もこちらに物資の補給をして下さるそうですしね」
アラン「そういうこった。
おし!おらぁちょいと一服するが、おめぇたちゃどうする?」
純平「はい。ここをもう少し整理したら一休みします」
アラン「あんまやりすぎんなよ。お前たちは俺の大切な部下なんだからな」
テテテテテテ・・・
ボニー「ふふふふ・・アラン隊長は本当にいい方ね。
ボクは分かるな、あの隊長の生き様が」
純平「そうだったな。君もまた第二身分である貴族の立場を捨てアングラ界に身を寄せたのだったな・・」
ボニー「ふふふ。だから嫌いじゃないんだ。ああいう不器用で真っ直ぐな人は」
純平「ふっ・・。だがあんまり感情移入しすぎるなよ。
俺達の真の目標を少しでも悟られたら、いくら鉄平の知り合いでも投獄されるぞ。
あのロベスニャエール宰相は相当なキレ者だからな」
ボニー「分かってるよ純平。ボクらはこの軍にスパイに来たのだからね」
純平「そういうことだ。さぁ早くここを片して戻らないと怪しまれる」
ボニー「うん。・・でもますます各地の戦況は悪化してるね。
まさか討伐隊が川村さんの結成した軍をも攻撃するなんてね・・」
鉄平「ギルドとはそういう所だ。自軍の権威をまず最初に考える」
ボニー「へぇ・・詳しいんだね純平は」
純平「まぁそんな予想さ。
しかし、この戦いで何に一番驚かされたって、それはうちのご主人の先見性だな。
今のところ全て彼女の想定内に事が動いている」
ボニー「そうだね最初にボクたち二人を潜入させるって言った時はどうしてやろうかと思ったけど」
純平「うむ。それと気になるのは鉄平に真っ先に誘われ軍の設立に協力した一也の所在だ」
ボニー「うん。ボクたちと違って偉い立場だからね。簡単に会えないし、今鉄平と一也にボクたちの目的を言うわけにはいかないからね。好都合っちゃ好都合だよ」
純平「噂では先ほど伝令をよこしたフランソワ参謀局長の護衛をやってるらしいがな」
ボニー「その令嬢さんってロベスニャエール宰相の恋人なんでしょ?
ボクは嫌いだな貴族のお嬢様猫は」
純平「なんでも宰相の抜擢らしい。鉄平の相棒の一也なら自分の恋人の護衛も信頼できる」
ボニー「ふぅん。ねぇ、でもさっきの伝令の話に戻るけどサムソンと一生さんが川村さんと直接剣を交えてなければいいね」
純平「うむ。まぁ簡単には死なない連中ではあるがな・・」
ボニー「大丈夫かなぁ・・・」
~ニャスティーユ領内
「気刃真斬刃!紅蓮焔!!」
「川村龍太刀真山・氷河烈風斬り!!」
ガシイイイイイイン
ヒンケツ「す、すげぇ・・隊長の炎の剣をあの野朗、氷で返しやがった」
一生「懐かしいなぁカーブー!お前と剣を交わすのは中学の時の演習以来かぁ!?」
ギリギリギリギリギリ
カーブー「黙れ一生!なぜジョーさんを罠に仕掛けた!」
一生「お前が原因だぞ!」
カーブー「なんだとぉ!?」
一生「お前が大人しく討伐隊に加わってさえいれば・・こんな」
ギリギリギリギリギリ・・・・
カーブー「くだらん殺生は好まん!活人剣の使い手ならなぜそれが分からない!?」
一生「俺はこの剣で自分が正しいと思う道を切り開くだけだ!!」
カーブー「その矛先が仲間でもか!?」
一生「否!邪魔するものは打ち伏せる!!」
カーブー「それがエゴだってぇんだぁ!!」
一生「貴様に言われたくはない!!」
ガシイイイイイイイン
カーブー「・・クッ」
一生「どうせ投獄され処罰されるならば、ここで俺が引導を渡してやろぉ!!」
「ニャンコ神拳奥義!肉球真剣白刃取り!」
パシィ
一生「なにぃ!!」
BBB「だらしねぇぞ、カーブー!」
カーブー「BBB!」
BBB「残念だったなぁ・・侍の兄ちゃん」
ググググググググ・・・・
一生「馬鹿力め・・・!」
BBB「これでもこいつぁ大事なうちの当主なんでなぁ~・・返してもらうぜ!」
一生「お前らに何が出来るという・・!?」
ググググググググググ・・・・・
BBB「カーブーはなぁ、世の中を変えようってわけじゃねぇんだ・・
ただ単に三種共存の自由平等を俺らが示す・・それだけだ」
一生「三種共存ならすでに出来上がっていたこと・・・それを鉄平が崩したんだろぉ!」
BBB「若いねぇ・・侍さんよぉ・・鉄平の野朗も俺らと同じさ・・・
自分がプロパガンダになれりゃいいんだよ!」
一生「それだ・・!
貴様らの、そのエゴイズムの愚かさを俺が心底教えてやるってんだ!」
カーブー「黙れ一生!俺たちが剣を交える必要はない!!」
一生「もう・・遅いんだよぉ!!」
シャキィーーーン
BBB「ちっ・・!抜きやがったか・・・・じゃあ、お次の手でいくかね?」
一生「なに!?」
ズドドドドドドドドドドド
ヒンケツ「な、なんだぁ!?」
ドガーーーーーーーーーーーン
「毎度お騒がせしておりまぁ~ッス!!」
ヒンケツ「う、うわああああああ!!ティガレックスだぁ!!」
一生「臆すなぁ!迎撃しろぉ!!」
ヒンッケツ「ひ、ひ、ひ、ひ、・・・・ひえええええええ!!」ぱたん
一生「ちっ・・貧血しちまいやがった」
バラン「侍の小僧!ここはゆっくりと退かせてもらうぜ。
それとも一人で俺らとやりあうか?」
カーブー「・・・・」
BBB「ふん・・」
一生「くっ・・」
バラン「カーブー!!俺の背中にジョーを乗せろ!BBB、行くぞ!!」
カーブー「・・・一生」
一生「いけ・・。だが次はこうはいかんぞ」
BBB「ケッ!憧れのギルド管轄に入れて良かったな、エリート坊や」
バラン「いくぞ!」
ズドドドドドドドド・・・・
「隊長」スッ
一生「隠密隊か。やつらを追尾しろ。拠点を割り出し、一気に叩く!」
猫暦年789年8月
この出来事は正史にこそ「討伐隊精鋭軍一番隊長と川村朝シャーク軍の棟梁が一騎討ちをした」としか記されていないのだがこの背景の裏には実は隠された悲劇があった。精鋭軍一番隊長の一生と川村朝棟梁カーブーは同郷の竹林の友で数々の死線を共に乗り越えてきた戦友であったのだ。この衝突を機に一生率いる討伐軍は川村朝の本拠地を襲撃。圧倒的な勝利を収める。一生の案で討伐軍が見せた「敵の五体を縄で縛りひっぱる」という残忍な戦闘術からこの戦いは「裂き縄の乱」と正史に刻まれることとなる。
一方、敗れた川村朝は外交官にニャーク五号を任命し、聖猫騎士団と同盟を結ぶ。
だがこの同盟も名ばかりのもので互いに領土・軍事力拡大に利用したにすぎなかった。
こうして戦いは三つの戦力が支配する三国時代に突入するのだった。
だが忘れてはいないだろうか・・?
この物語の主人公の存在を・・