朝日が昇った直後のモン・サン・ミッシェル
今年の夏、フランスが世界に誇る世界遺産であるモン・サン・ミッシェル(Mont St.Michel)に行った。
パリに旅行すること以上に、モン・サン・ミッシェルには行ってみたかった。
子供の頃から写真等で見ては、その特異な立地と大僧院の建物に憧れていた。
通常パリからモン・サン・ミッシェルに行く場合、RER(フランス国営鉄道)のモンパルナス(Montparnasse)駅からTGV(新幹線)でレンヌ(Rennes)駅まで行き、そこからローカル列車に乗換え、ポントルソン(Pontorson)駅で下車し、バスに乗換えて15分かけて行く方法と、先ほどのレンヌ駅からモン・サン・ミッシェル直行バスに乗り換えて一時間かけて行くという、ふたつの方法が一般的だ。
自分は少しでも乗換えが少ない後者を選択した。
モンパルナス駅のチケット発売所には、TGVの発車時間(確か10時15分発)よりも40分早く到着した。
外国のターミナル駅で、列車のチケットを購入された経験のある方ならご存知かと思うが、チケット購入にさいし、順番が来るまでの待ち時間と、チケット購入そのものに大変な時間を要することが日常的だからだ。
そういう意味で発車40分前に駅に到着したことについては、ぎりぎりだと思った。
モンパルナス駅の様子
チケット発売の窓口は3箇所開いていて、待っている人は二人、ラッキーだと思った。
しかし順番が来るまで待つこと15分、やはりかなり時間がかかった。
改めて順番待ちの人数が2人だったことが『ラッキー』だったということをかみしめた。
チケット売場の窓口は、20代後半の愛想はないが、親切なフランス人男性だった。
レンヌ駅までの指定席券を購入したいと言うと、「モン・サン・ミッシェルに行くのか?」と訊いてきた。
「そうだ」と応えると、「レンヌ駅からバスで行くのなら、ここでTGVとモン・サン・ミッシェル行きの往復バスのチケットをセットで購入出来る」ということを説明してくれた。
レンヌ駅に11時30分に到着した後、モン・サン・ミッシェル行きのバスの発車時間が11時50分ということは事前に調べて知っていたのと、そのバスが出てしまった後は午後3時までバスがないことも知っていたので、バスの乗車券をレンヌ駅で購入する手間と時間がなくなったことは非常にありがたかった。
チケットを無事購入、そして大きなモンパルナス駅の中を歩いて乗車ホームに向かう。
駅構内の幅は端から端まで200mくらいはあるだろうか。
レンヌ方面は一番左端のホームだった。
ホームまで中央口から約100mの移動。
しかし、この100mの移動などはそのあとの移動のことを考えれば、たいした距離ではなかった。
TGVのチケットには21号車と記されていた。
こんなホームを400m以上も延々歩いて行く
日本の新幹線が最長で16両編成。
それでもホームに上がる階段は少なくとも3箇所以上はあり、ホームには停車場所が何号車であるのかホームにも頭上にも各車両別に表示されている。
モンパルナス駅では(モンパルナス駅に限らないだろう)ホームの中ほどにたった1箇所、最後尾が1号車で先頭車両が21号車であることが記されているだけだった。実際には何箇所かに表示されていたのかもしれないが、外国人旅行者である自分にはたった1箇所しか見つけることが出来なかった。
ホームの端から歩くことおよそ400m(これは1車両の長さ20m×21両と控えめに計算した結果)、途中発車時間が迫っていることもあって、TGVに乗り込んで列車の中を移動したりもしたが、連結器の関係で次の車両に列車内から移動出来なくて、仕方なく列車を降り、ホーム上を移動した。
やっと到着した21号車に乗り込むと座席は先頭車両のそれも一番前の席だった。
普通なら先頭車両の一番前なら嬉しいはずなのだが、なぜか全席とも進行方向に向って逆向きにシートを向けてあった。
さらに先頭席は向きを全く変えられない構造だった。
でも、こんなことはたいした問題ではない、無事TGVに乗車出来たのだから。
フランスが誇るTGV
定刻より10分ほど遅れてTGVは発車した。
車内は年配のご婦人がなぜか多かった。
これが日本の、それも大阪で年配のご婦人方ならにぎやかな(ウルサイというべき?)ことなのだろうが、雑誌をめくる音が聴き取れるくらいのサウンドオブサイレンス状態。
そんな中、旅すればトラブルに見舞われることが多い自分には、TGVの発車が10分遅れたことに少し不安を覚えた。
バスに乗換えるレンヌ駅での乗継時間はわずか20分しかない。そのうちの10分がもうすでに経過してしまった。
途中で遅れを取り戻そうとするのが普通の日本人の発想、ならばこの列車は遅れを取り戻すことはないと確信した。
なんといってもここはフランスなのだから。
そして発車時間が遅れた原因が、朝から降っていた雨の影響ならば、これからも予定時刻よりもどんどん遅れていくのではないのか、そんな不安を満載して列車はレンヌ駅を目指して出発した。
車窓には丘陵地帯が延々続く
パリ郊外にさしかかると、そこはもうフランスが農業大国であることを実感してしまう豊かな丘陵地帯と農作物や酪農場の連続。
そしてひとつの町を通過する度に必ず見かける教会。
レンヌへ、モン・サン・ミッシェルへ向う線路沿い、道路沿いに栽培されていた作物のほとんどはトウモロコシだった。
車窓を流れていく町を通過して次の町へ行っても、それまでに通り過ぎてかた町とほとんど景色が変わらないくらい、同じ景色と町並みの繰り返し。
雲は低く西から東に流れていくだけ。
ひたすら丘陵地帯を走り抜けていくTGV。
モンパルナス駅を出て2時間が経過した。
11時30分にレンヌ駅に到着する予定だったTGVだが、発車が10分遅れたので11時40分にはレンヌ駅に到着するはずなのだが、11時50分になってもまだレンヌ駅に着かない。
いろんな考えが頭をよぎる。
TGVとモン・サン・モッシェル行きのバスのチケットがセット販売されているのだからバスはTGVの到着まで出発を待っているはずだ。
いやここは日本じゃない、時間が来ればバスは出発してしまう。
とにかくレンヌ駅に着いたら、出来るだけ急いでバス乗場まで行ってみるしかない。
幸いにしてこういった場合、海外の駅は大きな出口は一箇所しかないため、どの出口から出ればいいのか、悩む必要がない。
走ってはいないが、かなりの早足でバス乗場を見つけて向った。
時間は12時を少し過ぎていた。
レンヌ駅の右側の建物がバスの発着場だということはすぐにわかった。
急いで建物に入ると、建物の中からモン・サン・ミッシェルの大僧院が車体に大きく描かれたバスが駐車場に停車していた。
ダッシュでそのバスに向う。
そのとき、後方から韓国語の大きな声が聞こえてきた、同じTGVに乗車していたのだろう。
彼らも駆け足でやってくる。
しかしバスはすでに満席に近かった。
自分をを含めて、6人分の座席しか残っていなかった。
後ろには大きな荷物を持った韓国人が十数人バスのところまで来ていた。
そして座席が全部埋まると、バスは乗れなかった人たちをバス乗場に残したままモンサンミッシェルへと出発した。
次のバスが出発するまで4時間あまりあるのだが。
これに近いケースを過去に何度か経験していたことが、今回は役にたったのかもしれないと感じたが、もし自分のように予約乗車券を持っていて、TGVからの降車順だけでバスが満車になってしまったなら、いったいどうなっていたのかと想像すると、薄氷を踏むような旅をしているのではないかと思わずにはいられなかった。
このとき、帰りのバスには出発時間よりも必ず早い時間に、バス乗場に着いておかなければと強く思った。
バスはTGVのレンヌ駅への到着が少し遅れていることで、出発を待っていてくれたけれど、帰りのTGVはバスのレンヌ駅到着を待ってはくれないのだから。
つづく
1時間後バスの車窓にはモンサンミッシェルの姿が