累ヶ淵考⑥ー祐天はなぜ菊の出家を許さなかったのかー | 徒然探訪録

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菊は累の怨霊事件解決の後、出家を望んだが、それはかなえられることはなかった。
祐天はなぜ、菊の出家を認めなかったのだろうか。

菊は『イタコ』のような資質、つまり、累としての人格を顕し、人々に累の怨霊が本当に現れたのだと信じさせるだけの能力があった。

また、菊には、書物で見聞きしたに過ぎない地獄の有様を、本当にさも行ったかのように、人々に信じさせるくらい生々しく語る能力もあった。祐天により、累が調伏された後、菊が語った地獄の様子は『往生要集』に書かれた地獄の描写そのものである。

累の怨霊が村の人々が隠してきた悪行を次々と暴露する場面もあるが、菊は人々を疑心暗鬼にさせ、秘密をお互い暴露させ合う状況を作るのも非常にうまいと言える。

そのような資質を持った菊が出家したらどうなるか。

菊はその能力を遺憾なく発揮し、人々の支持をあっという間に得てしまうに違いない。

しかし、ここで名を上げたい祐天としては菊がもてはやされ、自分の活躍が霞んでしまうのは絶対に避けたい。

そしてまた、菊が出家すれば怨霊に取り憑かれないのは当然のことで、自分の法力が永久的に効力を発揮するものだとの証明にもならなくなってしまう。

後々菊の存在は、祐天が布教を拡大し、名声を得る段になってきっと疎ましいものとなってしまうだろう。

だから、祐天は菊の出家を許さなかったのではないだろうか。