前回では、子どもが状況に応じて自己をコントロールする能力「自己抑制能力」をみるテスト、「GO/NO GO」という行動課題テストで、約40年前1969年に小学2・3年生でできていた課題が、1979年・1998年の時点(この2回のテストではあまり変化がない)では4・5年生でも満足にできない状況になっている話をした。
「GO/NO GO課題」のテストが中国でも1984年・1999年に行われ、日本程ではないけれど同じような傾向がみられることがわかっている。
その原因、究極要因と至近要因については前回説明した。では、至近要因である「子どもたちの前頭連合野の未発達」がなぜ起きているのか、その重要な鍵となる至近要因と究極要因の中間的要因(発生的要因)について考えてみたい。
まだはっきりと確定されている訳ではないが、1969年~1979年の10年間の間に、子どもたちを取り巻く環境の変化は次のようなものと考えられる。
●「多様なコミュニケーション」の消失
● 動的遊びから静的遊びへの「遊びの形態」の変化
多様なミュニケーション」の消失
モンゴロイドである日本人は、もともと母と子の距離が短く、べったりした愛情で母子関係を形成する素地を持っている。一方で、子どもの頃から地域社会でのコミュニケーションに富んだ環境で、いろいろな人との関わりを通して社会性を育んできた。
母親以外にも、父親、祖父母、きょうだい、友だち、隣近所の人々などの豊かな人間関係に囲まれ、それによって母と子の密接なつながりも、徐々に上手に切り離していくことができた。子どもは幼い頃からさまざまな人との関わりの中で、相手の動きや気持ちを予測しながら行動するといった,複雑な相互関係を身につける。
ところが核家族化、少子化が進むにつれて、地域社会との人間関係も希薄になり、父親不在の密室の中で、母と子だけが密着したまま放置される状況が増えていった。母親の偏った愛情が過保護につながるケースや、育児の手助けも相談相手もなく、全てを一人で背負ってストレスの重荷に耐えかね、育児放棄や虐待に至るケースも多い。
そうした子どもたちを取り巻く環境のなかで、さまざまな年齢の子どもたちが寄り集まってつくる「遊び集団」という群れ社会の崩壊が起こり、友だち同士や大勢のきょうだいによる「遊び」というコミュニケーションが減少していく。
信州大学の研究では、幼稚園の先生と園児が体全体で取っ組み合って遊ぶ「じゃれつき遊び」をカリキュラムに取り入れ、スキンシップを伴うコミュニケーションの効果について研究している。
一年間その幼稚園に密着し、園児に「GO・NO GO課題」を行った結果、その成績は幼稚園児でありながら、小学2・3年生の成績であったという。これはスキンシップを含めた動的遊びが、いかに脳の発達に重要な役割を果たすかを示している。
以前の記事「自己認識(2)」のチンパンジーの実験でも、仲間どうしのスキンシップが、脳機能の自己認識能力の発達に大きな役割を果たすことを示した。
幼い二匹のチンパンジーを一緒のケージに入れ、取っ組み合ったりじゃれ合ったりのスキンシップ豊かなコミュニケーション環境で育てたチンパンジーは、数ヶ月でみごとに自己認識能力を身につけた。
しかし、視覚では仲間を見ることができても触れ合うことができず、ケージに一匹だけで育ったチンパンジーは、同じ期間であっても自己認識能力を獲得できなかったという。
動的遊びから静的遊びへの「遊びの形態」の変化
したがって全身を使う遊びでは、常に前頭連合野の機能を活性化させることになり、それが、前頭連合野の発達に大きく関与していることが分かっている。
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