ネタバレです。OKの方のみドーゾ。(前回
)
Chapter1 変わらぬ関係11~23
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彩人
「まあでも、君が最初からそう積極的に鍵を使って
くれるとは思えないから・・・・
最初はどこかで待ち合わせてから・・・僕の部屋に行って、
君の鍵を使って中に入ろうか」
「え・・・・・」
でも先輩が一緒なら、別に私の鍵を使わなくても。
彩人
「いま、一緒じゃ意味がないと思った?
一緒なら僕の鍵を使って入ればいいと・・・思ったよね?」
はい、思いました。
彩人
「僕の鍵を使わず、君の鍵で君が開けて入るというのが
大事なんだよ。まずは慣れてもらわないと
いつまでも遠慮されてたら、僕も悲しいしね」
「・・・・・ごめんなさい」
彩人
「ふふ。じゃあ、今度の休みは、そういうことでいいかな?」
「・・・・・・・はい」
今度の休みは先輩の部屋に行く。
次のデートが決まってしまった。
嬉しいけど、緊張する。
だって、初めて先輩の部屋へ行くわけだしっ。
・・・・どんな、部屋なんだろう。
ちょっと楽しみ、かも。
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彩人
「それじゃあ、待ち合わせは外でして・・・・
なにか食事してから、部屋に行くことにしよう。
まあ、部屋で君に僕の手料理をごちそう・・・
でもいいんだけど」
「え!?」
先輩が料理!?
彩人
「そんなことしたら、ふたりで過ごす時間が減ってしまう。
準備や後片付けやなんやらでね」
苦笑しつつ、私の頭を撫でて先輩がにこっと笑顔を浮かべる。
彩人
「楽しみだよ。君が僕の部屋にいることを想像すると・・・・
もしかして帰してあげられないかもしれないなあ」
冗談めいた口調で先輩が呟くけれど。
スッと細めた目はそれを冗談だとは言っていない。
「あ、あの・・・・そのっ」
彩人
「ふふ。いまみたいに、僕の部屋で君があたふたする姿が
目に浮かぶよ」
うろたえた私を見て、ぷっと吹き出し、笑い出す先輩。
・・・・・からかわれている。
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彩人
「とにかく、次のデートは鍵を持ってきてね」
「・・・・・・・はい」
先輩は微笑み、そう言うと
彩人
「じゃあ、僕は今日、実家に寄らなきゃいけないからここで。
ちゃんと真っ直ぐに家に帰るんだよ?いい?」
「先輩、なんかだんだん過保護になってます」
彩人
「・・・・そうかもね。
君が心配で放っておけないから・・・
可愛くて仕方ないんだよ」
「・・・・・っ」
彩人
「ふふ。そうやっていつまでも僕の言葉に照れる君が
本当に可愛いよ。
じゃあね。また明日」
優しく私の額にキスを落とすと、先輩はそのままくるりと
私に背を向けて歩いて行った。
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「はあ・・・・・」
先輩の姿を見送りつつキスされた額にそっと触れる。
幸せなんだけど、ときどき、怖くなる。
なにが、といわれるとわからないけれど。
言葉に出来ない不安が生まれているのは確かだった。
「・・・・・・・あっ!」
先輩の姿もすっかり見えなくなった時、ハッとし、
思わず声をだした。
「なにを着ていこう・・・・」
デートだからいつもの感じでいいと思うけど。
部屋に行くんだし、いつもとは違った感じがいい、のかも。
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あとなにか持って行ったほうがいいのかな?
ああでも実家じゃないし、挨拶する人は家にいないわけだから・・・。
ああ、どうしようっ。
デートはデートだけど、いつもとは違うデート。
そう思うと、あれこれ迷ってしまう。
「帰ったら、クローゼットの中をあさってみよう」
良い物がなかったら、買いに行くのもいいかも。
だってどうせなら可愛い格好して行きたいしね。
うん、そうしよう!
「なんかちょっと楽しみになってきちゃった!」
はやく当日にならないかな。
休日ーー
駅前で待ち合わせ。
いつもながら、彩人先輩はみんなに見られながら歩いてる。
通り過ぎた人が振り向き二度見することもしばしば。
たまに女の人から手を振られているけれど、
そういう時は、私にちゃんと「お客さんだよ」と説明してくれる。
私が不安にならないようにしてくれている。
それがすごく嬉しい。
彩人
「さあ、なにを食べようか」
いまはお昼の時間帯ってこともあって、どの店も結構混んでいる。
彩人
「まあ、この時間だから少しは並ばないといけないだろうね。
君はなにがいい?」
「じゃあーー」
・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
そうしてお昼を食べて、少し外を歩いてーー
夕方近くになって、先輩が腕時計を見る。
そしてふと足を止めた。
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「先輩?」
彩人
「そろそろ行こうか。鍵、持ってきた?」
「あ・・・・はい」
そうだ。そうだった。
普通にデート楽しんじゃってたけど。
今日はーー
今日は先輩の部屋に行くんだった。
先輩の部屋の前。
先輩のマンションのドアの前に立たされた私。
そのドアを、ドアノブを見つめ、動かずにいると
彩人
「さあ、鍵を開けて」
先輩が後ろから私に覆い被さるようにして耳元でささやいた。
「は、はい!」
声にはじかれるようにして、鍵を取り出す。
そしてーー
ゆっくりと鍵穴に鍵を入れて回し・・・・・。
中へと入った。
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彩人
「さあ、入って」
「は・・・・はい」
先輩が私の背を押して、私を部屋の中へといざなう。
私が入ったあと、先輩も入ったのかドアがしまる音がした。
そして同時に鍵も閉まる音がーー
その音になぜか、びくっと身体が緊張で強張ってしまう。
彩人
「どうしたの?遠慮しないであがって」
先輩が私を通り過ぎ、先に靴を脱いで部屋へと上がった。
「あ、はい」
私も先輩に続いて、緊張しながらも部屋へと上がった。
部屋は・・・なんというか、大人っぽい部屋だった。
彩人先輩の部屋だ・・・と、なぜか納得してしまうような。
彩人
「どうしたの?立ってないで座ったら?」
「あ・・・・はい」
部屋を見てボーッとしている私に先輩が声をかけてくれる。
そして先輩の座っているソファの端っこに座る。
・・・・・・・・・落ち着かない。
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すごく落ち着かない。
じっとしていられないんだけど!
そんな私の動向に気付いたのか、
彩人
「なにをそんなにそわそわしているの?」
「え・・・・!?」
彩人
「もしかして、なにか期待してるのかな?」
きたい・・・・?
え?
なにを言われているのか、一瞬わからなくて首をかしげると。
彩人
「・・・・それならその期待にこたえようかな」
「あの・・・・え?」
先輩が優しく微笑み、私に近付いてくる。
そして吐息が頬に届くほど近付き、先輩は私にささやいた。
彩人
「では姫のご期待に添えるかわかりませんが・・・
頑張らせていただきます」
そしてーー気付いたら、先輩に押し倒され、
唇をふさがれていた。
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妖しくキスの音だけが部屋に響く。
下唇、上唇を優しく吸われたり、甘噛みされながらキスは続く。
「・・・・せ・・・先輩、もうっ」
彩人
「んー・・・まだだよ」
抵抗する手も力が入らず、先輩に翻弄される。
もうキスだけでどのくらい時間がたったのかわからない。
ぼうっとしてきて、先輩のこと以外考えられなくなる。
そして、違う欲求も私の中で生まれる。
彩人
「そろそろ、かな」
「・・・・・・っ」
彩人
「もう、キスだけじゃ物足りないんじゃない?」
「・・・・・・!!」
心の中を言い当てたられて、身体が正直に反応する。
彩人
「ああ、やっぱり」
彩人
「ふふ・・・さあ、このあとどうしようか」
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つーっと私の唇を指で撫で、そのまま先輩の指は
私の肌を滑り降りていく。
あごから首を降りて、喉の下あたりで指が止まる。
彩人
「どうしてほしい?」
「あ・・・・っ」
指先からゆっくりと先輩のてのひらが私の肌にぴったりとくっつく。
そして服の下に手が入り、ゆっくりゆっくり先輩の手が
私の胸元へ近付く。
だけど、触れるか触れないかの距離でピタッと手は止まる。
彩人
「止めないのかな?」
彩人
「止めないならーー本当に奪っちゃうよ?」
あやしく耳元でささやかれる。
その声はいつもと違い、熱っぽく私を惑わせる。
彩人
「しても、いいの?」
目を細め、私を試すような微笑を浮かべる先輩。
もうーーこのまま頷いて、先輩に奪われても・・・・。
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そう思った直後。
ブブブブ、とテーブルの上に置いていたケイタイが
震えだした。
「っ!!」
彩人
「あーあ・・・・」
その音でハッとして、先輩の下から抜け出てケータイを取る。
「あ、お母さんっ!」
画面を見て、慌てて通話ボタンを押した。
電話の内容は、いつ帰ってくるのかということだった。
それを聞いて窓を見たら、ここに来てからかなりの時間が
経っていたようで、空にはもう星が出ていた。
そしてーー
先輩の家を出て、ふたりで夜道を歩く。
急に帰ると言った私を送ってくれる先輩。
少し悪い気もしたけど、「ひとりでは心配」という先輩の言葉に
甘えることにした。
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彩人
「まさかーー」
彩人
「あそこで帰るとか言うとは思わなかったな」
「・・・・・・・・・・」
なにも言えない。
だけど、ちょっと電話をかけてきてくれたお母さんに感謝かも。
ちょっと残念にも思ったけど、あのままだったらきっと・・・・。
彩人
「どうしたの、黙っちゃって」
「い、いえ。なんでも!」
彩人
「まあでも、今日は遅くなったから、仕方ないね」
彩人
「お母さんを心配させるわけにもいかないしね」
「先輩・・・・」
彩人
「ああでも、次はちゃんと鍵を使って自分から来てくれると嬉しいな」
彩人
「君ならいつでも大歓迎だよ」
先輩が足を止め、軽く私の頬にキスをする。
そのあとトンっと背中を押した。
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彩人
「さ、家に着いたよ。今日は来てくれてありがとう」
彩人
「また明日、学校でね」
「はい!あの、ありがとうございました!」
彩人
「じゃあね」
優しい笑顔を浮かべ、私に背を向け歩き出す先輩。
私がまだ見ていると知っているのか、道を曲がる直前、
背を向けたままひらひらと手を振った。
そして先輩の背中は見えなくなった。
「・・・・先輩って、完璧というか、なんでもわかってて
取り乱すとこみたことないなあ」
ちょっと見てみたいけど、無理ーーかな。
そして今日のことを思い出し、一喜一憂しながら、
私は眠りについた。
(chapter1 変わらぬ関係 おわり)