日本の色(1) | ライオンシティからリバーシティへ

日本の色(1)

シンガポールに住んでいたあいだ、私のワードローブは大きく変化した。

黒、グレー、ベージュ、茶色など、くすんだ色の服は一掃。

新しく買う服は、赤、緑、黄色、白、青などの、くっきりした明るい色で、模様が入ったものばかりになった。

強烈な熱帯の風土ーー強い日差し、鬱蒼としたジャングル、カラフルな果物や植物や花の中にあっては、およそ、くすんだ色は似合わない。

16世紀~戦前のシンガポール、マラッカ、ペナンなどで花咲いた、プラナカン文化 の基本色はこんな感じ。
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まあ、熱帯と言ってもシンガポールは先進国だから、ラッフルズプレイスのような無国籍でメタリックなオフィス街は、丸の内やマンハッタンと同じように、ジルサンダーやダナキャラン、セオリーなマクスマーラのようなモノトーンのキャリア系の服が似合うのだけど、これが、スリランカまで行くと、くすんだ服を着ている自分が惨めになってくる。

スリランカを訪れると、サリー姿の女性の鮮やかな色の競演は、目も眩むほど。ベアフット 、というスリランカに長く住むイタリア人女性デザイナーが運営している服飾、雑貨のブランドがあるのだけれど、その色使いはこんな感じである。
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あまりに素敵なセンスの生地ばかりなので、日本のインテリア業界に向けに売ったら。。。との考えが頭をよぎった。が、それを話すと、コロンボのベアフットの輸出担当の女性マネージャーはばっさり、一言。「駄目よ、売れないわ。温帯の風土にと、この色は合わないのよ。光がないとね」。

そして、帰国。

結局、ベアフットで何枚も買ってきた極彩色のテーブルセンターは、クローゼットにしまったっぱなしだ。輸出担当の彼女の言ったことがいかに正しかったかを、今になって思い知っている。

正直、プラナカンの食器も、買ってこなくて良かったと思っている。

東京の秋冬は、モノトーン一色。

たとえ、カラフルな色でも、それは、熱帯の色とは違う。一つ一つの色がくすんでおり、色同士の組み合わせも異なっている。
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上は、人形町の甘酒通りの「オバちゃん向け」ファッション店のタートルネックのワゴンセール。

日本人は、着物を捨てて、ヨーロッパで生まれた衣服である洋服を着るようになったが、色彩感覚は昔のまま。無意識のうちに、十二単の袖に重ねた色と同じ、平安時代から続く色彩感覚をいまだに持ち続けている。

和の色辞典 で調べてみた。

一番左は、菖蒲色、左から二番目は、花浅葱(はなあさぎ)色、三番目は呉須色、四番目は青竹色。白の次は、薄墨色、黄蘗(きはだ)色、唐棣(にわうめ)色。

変わっていくようでいて、変わらないものがある。

なぜなら、風土は変わらないから。

ううん、文化というのは、なかなかしぶといものだ。