シンガポールの外国人:メイドとワーカー
シンガポールは先進国で、生活や社会は日本と似ているところがあるけど、違うところもある。
たとえば、人口構成。
480万人の国だけど、そのうち、170万人が外国人なのだ。
4人に1人が外国人!
外国人には、欧米や日本、韓国、他のアジアの国から働きに来た駐在員、いわゆるエクスパットがおり、これが上層部を構成している。
3年周期で入れ替わる駐在員とその家族が、やたらに多い。シンガポールは外国から投資を呼び込むことで、雇用を保障し、経済を高度化させてきた。だから、外国人(主に欧米人)に住みたいと思われる環境を提供することが、昔から、とても重要だった。
それで、外国人、そしてその家族たちが快適に、スムーズに暮らせる社会の仕組みが出来上がっている。
清潔で安全な、英語が通じる街。どこでも明朗会計で、チップをせがまれることもない。
時間に正確で安いタクシー、電車、バス。渋滞のない道。
ジム、プール付きの広くて綺麗なコンドミニアム。
欧米の食材に溢れるスーパー、欧米の本で溢れる大型書店。
インターネット、電話、電気、水道の契約は、スピーディで分かりやすい。
子供のインターナショナルスクールは10校以上の中から自由に選べるし、
メイドは安いから、子育ても家事も楽チン。
そのメイドだが、彼女たちは、フィリピンやインドネシアからの出稼ぎ女性だ。
相当数の女性がシンガポールに出稼ぎに来ている。駐在員(エクスパット)が上層部なら、彼女たちは、シンガポールの外国人の底辺の一角だ。
独身の住み込みメイドの彼女たちの手取り月収は、500ドル(3万5000円)以下。雇い主の家の台所で寝泊りし、収入の多くを本国に送金している。
シンガポールが、女性にとって働きやすい国なのは、外国人メイドがいるおかげだ。
低賃金家事労働者の彼女たちは、エクスパットはもとより、この国の老人介護や、働く女性の育児と仕事の両立のために、なくてはならない存在であるように見える。
シンガポールの外国人の、もう一つの底辺が、ワーカー(肉体労働者)だ。暑いこの国では、日中の屋外の労働はつらい。コンドミニアム建設や、掃除、土木作業といった所謂、3K仕事は、ほぼ全て、インド、バングラデシュなどからの出稼ぎ労働者の手にゆだねられている。
貧しい近隣国からの、こうした労働者がいなかったら、シンガポールのインフラはここまでスピーディに整備されなかっただろう。
彼らの手取り日当は、10ドル(650円)以下であると聞いた。
シンガポール人の最低賃金は、適用されない。
彼らワーカーと一般のシンガポール国民では、命の重さにも、違いがある。
シンガポールでは、一般に、自動車の後部座席のシートベルト着用は義務。でも、そんなルールはどこ吹く風、ワーカーは、毎日、野ざらしのトラックの荷台に大量に乗って、ドミトリーから工事現場へと移動している。政府も、それを、容認している。
短期労働者の彼らは、シンガポール経済のバッファーだ。不景気になり仕事がなくなると、単純に、本国に送り返される。だから、彼らはシンガポールの失業者にはならない。それで、シンガポールには、外国人ホームレスがいない。
もちろん、シンガポール人用の教育、福祉、社会保障は、彼らには適用されない。
それでも、厳しい外国人登録制度、刑法規制のしばりのせいか、犯罪に走る外国人は少ない。
もともと3代さかのぼれば移民ばかりの都市国家、シンガポール。誰もやりたがらない仕事は、仕事がない、貧しい国から来た外国人に任せるのがこの国の常識のようだ。
資源のない小国だから、手をこまねいていてはすぐ衰退してしまう。成長し続けて、生き残らなければならない。そのためには、メイドとワーカーが必要。明快な、外国人政策である。
未だ、移民受け入れに対する議論が盛り上がらない日本のことを、最近、リークアンユーさんが批判していた。シンガポール人にとってみれば、そもそも、なぜ、人口が減る日本が移民労働力を利用しないのかが不思議なんだろう。
シナイ山通りではインド人ワーカーが、熱帯の日差しのなかで、コンドミニアム建設に励んでいる。
川辺の小道は、白人エクスパットの犬を散歩させるフィリピン人メイドで溢れている。
今日も暑くなりそうだ。